Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


Smile again 【第九話】

第九話 『記憶のカケラ』


「…で?アンタ結局何者なんだ」

長谷川は、彼女の零れたカケラを集めるために、美女を訪れた。
しかし、それは彼女の想定内。悪戯に微笑み、真っ赤な唇を指でなぞった。
ゾクリ、と背筋に何かが走る。長谷川は息をのんだ。

「ずいぶんなご挨拶だけれど、まあいいわ」

小さなカップをそっと持ち上げ、長い髪をゆっくりと靡かせる。
同時に香る香水の香りが、彼の鼻の奥までツン、と香って来た。
薔薇のキツイ香りだ。

「そうね、どこから話そうかなぁ~」

「そこまで時間はないんだ。早くしてくれないか?」

キツイ物言いに、ムゥッと頬を膨らませる。
眉間にシワを寄せたかと思えば、突然笑い始めた。

「貴方、すっごく彼に似てるのね」

「…彼?」

長谷川からすれば、何を意味しているのかさっぱりだった。
彼女の言う、〝彼〟の存在の影すら見えない。
完全に「?」を浮かべた彼を、また笑った。

「そうねぇ、事故の話は知ってるみたいだし、そこは飛ばしてもいけそうね」

独り言をポツポツ呟きながら、眉間に人差し指を立てる。
数秒、もしかすると一分ほど経ったかもしれない。
彼女は閃いたように話し始めた。

「彼女、彼氏がいるのよ」

「…は?」

唐突で、残酷すぎた。
会って数日しか経たないと言っても、彼の心には美加がいた。
辛そうな彼の顔を見て、ニヤリ、と笑みを浮かべる。悪女のようだった。

「でも安心してー?その彼、彼女を振ったから」

「どういう事だよ。今はいない、ってことか?」

「まあ、簡単に言えばそうなるね。ちょうど事故後に別れをね」

「最低な男だな。事故が原因で逃げたってことだろ?」

「さあ、どーでしょー。アナタ、最後まで話聞いてないのにここで決めていいのかな?」

グイッ、と寄せられた顔、唇にはまだ何か残っている。
すべて、吐かせたい。吐かせなくてはならない。

息をのんだ長谷川は、静かに首を振った。

「うん、じゃあおとなしく聞いてほしいな。」

ニコッ、と笑顔が戻る。
静かにコーヒーを片手に彼女は話し始めた。

「まあ、そんな大きな事故じゃなかったんだけど、衝突事故だから当然頭とか打っちゃうじゃない?で、まあ頭を打ったのが彼じゃなくて彼女。 当然、ショックも大きかったみたいで。
幸い記憶の全ては失わなかったけれど…まあ一部がね」

「一部って…」

「事故起こした時の記憶。」

「…!?」

「頭おかしいでしょ?そこだけ忘れちゃって…本当、バカみたい。
 で、まあ彼は彼女のために別れたってわけよ」

「…意味わかんねえ。別れる必要性が感じられねえ」

「まあ、彼女振られた理由は好きな子ができたから、なのよね」

「クソッ、その男殴って…」

「その女が、どんな奴か。貴方は知らないでしょ」

「…は?」

「〝事故の記憶は無い〟 このこと、覚えときなさいね」

そう言い残して彼女は去った。





月別アーカイブ

2019

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.