自作小説倶楽部9月投稿②
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/27 19:29:29
『ルナティック』後編
CASEX+真相
「大変痛ましいことです」
私は彼のことを思い。被害者たちのことを思い。祈った。神がいるのかはわからないが、目の前の刑事は悪魔のようだ。薄暗い取調室で刑事は闇を凝縮したかのように黒い。
「彼は複雑な環境で育ち。自分は本来の自分ではなく、周囲に歪められて出来上がった存在だと考えていました。自分を取り戻そうと多くを学び研究を重ねたのです」
「その結果が今回ばらまかれた通称〈ルナティック〉 ですね」
刑事の確認に私は頷く。この場を逃げ出したかったが誰も代わってくれない。肝心の〈彼〉 は消えてしまったかのように沈黙したままだ。
「彼はもちろん試作の薬を自分で試していました。しかし効果に満足することができず他人に薬を飲ませました。もちろん健康に害がなく、効果も一時的にするため少量で」
「被害者に『害意はなかった』 と言っても許してもらえないよ。もちろん警察も許さないし。
被害者のうち疲労回復の薬と信じてルナティックを飲んだ会社員42歳は勤務中に『あたしはウサギ』 と言って全身を真っ白に塗りたくって会社を走り回った。
告白する勇気が出る薬として飲んだ女子高生17歳は『俺は狼男だ』 と暴れて同級生の男子生徒に二十か所も噛みついた。止めに入った男子生徒の母親を突き飛ばしている。
飲んだ理由は不明だけど平凡な主婦35歳は夫を罵った後『月からお迎えが来る』 とわめいて屋根に登って転落。
正気に戻ったところで彼らの人生は元に戻らないよ。それに自分探しなら旅にでも出ればいい。彼が作ったのは幻覚と別人格を生み出す麻薬だろう。君は自分を〈彼〉 自身だと思うかい」
「思いません。私は〈彼〉 ではない」
私は彼の〈十三番目の人格〉 だ。少しずつとはいえルナティックの試作品を常用した彼の中には複数の人格が生まれていた。
「君が彼の暴走を止められず、彼の肉体とともに逮捕されたことは気の毒に思うよ。しかし社会の治安と秩序のために彼として罪を認めてくれたまえ」
「わかりました」
刑事は笑っているが視線は魂まで突き刺すように鋭かった。逃れたくて私はあらいざらいの彼の罪を語りだす。
どうせ私は彼の人格の断片に過ぎない。罪が確定する頃には私と彼は交代できるだろう。
なるほど、こういうオチ
それにしても、こういう形での臨床試験は恐ろしいですね
ウィニー事件を思い出しました
「違う自分」を開放したいと願う誰しもが持っているかもしれない欲求を解き放つに
似合いすぎるネーミングの薬物ですね。
いずれ統合されていくだろう彼の人格で最後に残るのは・・・
妄想竹を脳内に蔓延らせ拝読しました^^
一種の麻薬のようです
これを第三者に飲ませて犯罪を意図的に行わせ
ターゲットの人物を死に至らしめる
そんな物語もできますね
「月に変わってお仕置きよ♪」な美少女戦士になったつもりの被害者とかも出てきそう^^;
多重人格者だと精神疾患者ということで、大体は無罪→病院に収監になるみたいだけれども、
このお話ではどうなるのでしょ?
薬作った時点で正常だったかそうでなかったかが、争点になるのかなぁ・ω・
おもしろいオチと共に今起こってもおかしくない現実の出来事の畏怖感を覚えました。
構成の仕方がおもしろいです。
国によって違うだろうけど。
時間があれば過去の判例検索したいです^^