Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


恋しくて 【短編】

人間と言うものは、どこまで腐っているのだろう。

傷ついた足を庇いながら、歩く一本道。
僅かな灯りだけが灯るその夜道は、寂しげに孤独な影を映した。
もう少し。もう少しで私の隠れ家にたどり着く。それまでの辛抱だ……。
僅かな力を振り絞り、歩く、歩く、とにかく歩く。

そして、20分ほど歩いた頃だろうか…

「…ん?こりゃあ」

視界もぼやけ、意識も朦朧としてきた頃に、人間の影が追い被さる。
もう化ける力も残っていない。私はこれまでなのか…。
そう思うと、振り絞っていた力も次第と抜けていった。

「狐…なんでこんなところに…」

大きな雨音を立てて振り出す大雨。彼は片手に常備していた傘をさす。
もう目の前で倒れこんだ私は、抵抗する力を失っていた。

「ひどい傷だな」

足の傷を見ながら、ぽつりと呟く。
独り言ではなく、まるで私に語りかけてるようだった。

「お前、名前は?住んでる場所とか…言えない、よな…」

悪戯に笑う彼の笑顔は、今でも鮮明に残っている。
何故か彼の笑顔を見た途端、私はピクリッと動く力を取り戻した。
今思えば、魔法だったのかもしれない。

「動いた!道はこのまま真っ直ぐか?」

とりあえず、顔を動かす。
それからの記憶は曖昧だけれど、彼が抱っこしてくれたのは覚えている。
そして、その道中の景色…忘れられない思い出だ。


「よっこいせっとぉ…今手当てしてやるかんなぁ~」

ポケットから出したのは、小さなハンカチ。
男のくせに、レースのハンカチなんかもっちゃって…。
横目で見る私に、気づいたのか、ニカッと笑って手当てを始めた。

「なんかぁ、お前人間みたいだなぁ」

笑いながら言う彼の横顔は、凄く綺麗で美しかった。
お茶目なのに、どこか凛としていて…芯のある人なんだろうなと思った。

「はいっ、終了!元気になれよ」

彼の背中を呼び止めたくても、声が出ない。
お礼がいいたい。どうしても彼に伝えたい……。
手当てで癒えた力を振り絞り、私は化けて白い煙に包まれた。

「…えっ」

目を丸くする彼。
振り絞った力で苦しくなる私。
でも、伝えないとどうしても駄目だった。

「あ、ありがとう…ございます…」

もう、これ以上はなせないだろう。力がない。
それに──…

「やっぱ人間なんじゃん!」

彼の笑顔が眩しすぎた。

今でもこの光景を鮮明に覚えている。
でも、あれから彼に会えていない。
ただ、願いが叶うならもう一度彼にいいたい。

「ありがとう。」それ以上の気持ちを今、伝えたい…。
貴方が恋しいです。




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