先週 クリーニング屋事件のことを書いたら，
１０年以上前に東京駅で会った男性のことを思い出しました。

夜の７時半頃だったと思います。
ＪＲ東京駅の総武線快速のホームで，千葉方面行き快速電車を待っていました。
すると，７０歳ぐらいの小柄な男性が近付いてきました。
仕立ての良さそうなスーツを着ていて，きちんとした社会人のようです。

その老人は，とっても静かな口調で切り出しました。
「すみませんが，腕時計を買っていただけませんか？」

！！！！！

私　「いや…。要りませんけど…」
老　「そうですか…」
私　「…。なぜ，そんなことを…」
老　「いや，あなたは時計をしていなかったから，買ってもらえるかと思って」
私　「ああ。私は，夏場に腕に汗をかくのが嫌で，懐中時計にしてるんですよ」
　と言って，ズボンのポケットから懐中時計を出して見せました。
老　「あああ。そうだったんですか」
私　「だから，腕時計は要らないんですけど…，なぜ買ってほしいんですか？」
老　「財布と定期入れを落として帰れなくなったんで，
　　　誰かに時計を買ってもらって 切符を買おうと思ったんです」
私　「そうなんですか…」

ホントは要らないんだけど，困っているなら買ってあげようかな…。

私　「時計，いくらですか？」
老　パアッと目を輝かせて 「３万円でどうですか？」

！！！！！　高けっ！

私　「そりゃあ無理です。必要ないし，買いません。
　　　でも…。う～ん…。
　　　困ってらっしゃるんでしょうから，
　　　時計は要りませんが 切符代出してあげましょうか？
　　　５００円で帰れますか？　千円ないと駄目ですか？」
老　「それが，その，新幹線で，静岡の方の…（ゴニョゴニョゴニョ）」

んんんんん？　なんか怪しくないか？

改めてその小柄な老人をよく見ると，スーツは良い物のようですが，
ワイシャツの襟と袖が，すっっっっげえ真っ黒！！！

こいつは，何日も何日もずーっと，クリーニングに出してないぞ。
普通の会社勤めで上司や部下や取引先がいたら，
ここまで汚れる前にクリーニングに出すよなあ。
こんなに汚いシャツを着ていられるのは，
誰とも関わらずに一人で何かをしているんだろう。
こいつはきっと，相手を信用させる衣装としてスーツを着ているだけの，
詐欺師に違いない！！！

私　「じゃ，切符代は出してあげますけど，
　　　まず，落し物の届出に一緒に警察に行きましょう」
老　「あ…。いや…。もう少し，落とした場所を探してみます」
老人はそそくさと去っていきました。

その後の数日間に２回，ほぼ同じ時間帯に 同じホームで，
電車に乗らずにウロウロしているその老人を見掛けました。
もしも誰かに時計を売ろうとしたら 本当に詐欺師だったと確信できるので，
捕まえるか 駅員に知らせようと思いましたが，
なかなかターゲットが定まらないのか，私に気付いてやめたのか，
老人は２回ともいなくなっちゃいました。


そう言えば，２０年ぐらい前に出張した名古屋駅にも，
怪しいお婆さんがいたっけなあ。

私が売店でお土産を買っていると，
着物を着た上品な感じのお婆さんが近付いてきて，
「財布を落としてしまって，家族に電話したいから，千円頂けないかしら」
と言うので，私が
「じゃ，テレカを貸してあげましょう。公衆電話は…」
と言ってキョロキョロすると，
「あ。カードじゃなくて，お金がいいんだけど…」
なんて言うから，
「じゃ，まず，警察に財布が届いていないか，一緒に行ってみましょう」
と言って手首をぐいっと掴んだら，
「いいんです。いいんです。大丈夫です」
って走って逃げていきました。