リザードマン討伐4 リルル・ガランドと名付けし者
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/29 13:37:12
沈黙が訪れる。さっきまで論議していたのが嘘のようだ。
セシル様は覚悟を決めたのか目をつぶられた。
「まもなく時間よ・・・」と、市長エリスは言う。
砂浜に波が打ち上げる。その波の向こうにトカゲの頭を持ち、二足歩行で歩くリザードマンが現れた。右手に剣を持ち、左手にはウロコの盾を持っている。その数は砂浜を埋め尽くすほどだ。さらにそのリザードマンの後ろには人魚たちの群れが男女入り混じり、集まっている。
脳裏に声が響く。
「王様の命令で・・・貴様たちの命は取らずにおいてやる・・・」
「王様の命令無くば、今すぐにでも絞め殺してやっているところですけど・・・あなたたちの戦い・・・見届けますわ」
市長エリスの秘書が倒れた。白目を向いている。脈を取ると気絶しているだけのようだ。
「これで4人ですね・・・。さすがにボクも逃げません。あの日、ボクたちを無傷で倒して行かれたあの御方にもう1度会いたい」
ボクは腹をくくった。
市長エリスは身体が震え出した。その震えはだんだんひどくなっている。
ファザル様は片膝をつかれて立てないでいる。
セシル様だけが・・・目をつぶり立っている。
さすが魔法使いを極めし者と言われるだけはある。
ボクはかろうじて立っていた。気を抜けば今すぐにでも地面に倒れてしまいそうだ。
圧倒的な威圧感。そうだ。これだ。
二度目だからまだ何とかなる。
今度こそ姿を見るぞ。
リザードマン、全員がその場に跪く。
人魚たちも頭を下げる。
市長エリスは白目を向いて倒れた。
ファザル様は顔から砂にめり込むように倒れた。
セシル様はゆっくりと目を開けられて楽しんでさえおられる。
ボクは何故か威圧感をあまり感じなくなっていた・・・。
どうしたんだろう。
それに目の前に歩いて来ているのは・・・どう見ても・・・昨日、ボクを高級宿に泊めてくれたレティじゃないか。
金髪で赤い目、それに赤いローブ。
あれ?目の色が黄金に。それにローブの色が・・・まるであの場所だけ夜の闇が訪れたように見える。本で読んだ覚えがあるぞ。
闇よりもなお暗き闇。宵闇。宵闇のローブ???
レティの全身から黄金のオーラのようなモノがあふれている。
「行くわよ、レティーシア・アヴァロニア」と、セシル様は右腕を上げる。瞬時にエネルギーが集まって行く。集まったのを見計らい、その右腕を降ろされた。
杖による魔法陣を描くという動作が無い。なのに魔法陣は完成されていて、それも複数・・・木の属性の龍、火の属性の龍、土の属性の龍、光の属性の龍、闇の属性の龍、風の属性の龍、水の属性の龍を発動させている。7匹の角を持った大きな蛇のようなエネルギーがレティを襲う。
レティは相変わらずにっこりと笑顔のまま歩いている。
避ける気配すら無い。
「レヴァンティン!」と、レティは叫ぶ。
レティの右手に赤く輝く剣が現れる。
あれが魔剣。
というかレティが、あの御方だったとは。
7匹の龍たちは吸収されるのかと思いきや、レティの後ろに整列し、レティの合図を待っている。
セシル様は手を動かし、次から次へ魔法陣を完成させている。
「ハンニバル!」と、セシル様は叫ぶ。
セシル様の左手に青く輝く剣が現れる。
セシル様も魔剣を呼び出せるのか。
なるほど。魔法を極めし者同士・・・魔法の打ち合いは無意味という事か。
これで戦いは剣術に。
「風よ」と、セシル様は風の属性魔法陣を地面を蹴ると同時に発生させる。
すごい加速だ。レティは大丈夫だろうか。
レティの声が脳裏に響く。
「わたしが求むるは底無しの闇、ブラックホール」
うん?セシル様がさらに加速??いや、身体のバランスが崩れている。
あれは明らかに転倒している。でも、転倒できず、そのまま加速している
何だあれは?
「こなくそー」と、セシル様は叫ばれている。
風の魔法陣を複数発動させて態勢を整え、青く輝く剣はレティの顔面を・・・レティの顔が無い。
セシル様はただ空を斬った。
そして何かを掴まれたのか・・・大の字になって空中に浮いている。
レティの顔は元あった場所に再構築された。
この言葉が的確な表現とは言えない。
再構築されたとしか言いようがない。
よく見れば・・・レティの左手が消えている。
また脳内の声が響く。
「心臓にレヴァンテインを移植された人間か・・・面白い事するのね。死にたくなったらいつでもわたしのところへ来なさい。死ねないあなたに死を与えてあげるわ」
「・・・バーカ」と、セシル様は言う。セシル様の声も響く。
「属性の使い方をもう少し研究すれば・・・わたしと同じ事もできるようになるわ」
「・・・無理・・・そんな事したら心臓が壊れる」と、セシル様は言う。
「リッツをもらうわ」
「好きにして・・・元々あたしのモノでも何でも無いから。彼はギルドに入ってきた新米くんだから」と、セシル様は言う。
「そう、じゃ、遠慮なく」
ボクはまた昨日と同じ水の泡に包まれていた。
「一緒に来てくれるリッツ」と、レティに頼まれる。
「・・・君が威圧感を解いてくれたから、ボクは戦いを見る事ができたよ。
レティ、ボクに名前をくれないか。そうしてくれればどこまでも君のそばにいるよ」と、ボクは言った。
「盗賊王リルルと魔神を倒したガランド将軍とをくっつけて、リルル・ガランドなんてどう?」と、レティは笑う。
「リルル・ガランドか。わかったよ、それがいい」
リッツは白い霧に包まれ、レティーシア・アヴァロニアと共に消えた。
リザードマンも人魚も消えた。
白目を向いたままの魔法使いだけが4人、砂浜に残された。
この後、水の都サンクトゥスはアヴァロニア帝国に忠誠を誓う。
忠誠を誓った褒美としてトカゲ湖を渡る許可証を貰い受けた。
また大商業都市カエサルも、水の都サンクトゥスとの貿易を元に、アヴァロニア帝国に忠誠を誓った。その後、レティーシア・アヴァロニア個人に対して魔法使いギルドから「マスターオブマスター」の称号を贈られる。無論、魔法使いギルドもアヴァロニア帝国に忠誠を誓った。
後にサンクトゥス事件と呼ばれる事件である。
リッツは名を変えて、レティと忙しく奇妙な毎日を過ごしているらしい。
完
あい