リザードマン討伐3 伝説の女帝
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/29 13:30:21
砂浜を水平線を見ながら歩いて行くと、ボクを含め黒ずくめのローブを着たギルドのメンバーと緑のローブを着た市長エリスたちがいる。
噂には聞いていたが、ほんとに銀髪なんだなと、ボクは市長を見た。
ただそれよりも気になったのはギルドマスターであるセシル様とファザル様だ。
セシル様は金髪でロングストレート、目の色は緑。ぱっと見た感じはどこにでもいる少女。しかし、その小さな身体からはただならぬオーラのようなモノさえ感じる。ファザル様は紫の髪で、青い目だ。ボクと同じ男性で、顔だけ見れば愛想の無い人みたいだが、2人しかいないギルドマスターの1人だ。市長を含め、この3人が今日の主力だろう。あとはボクと同じ新米の魔法使いだと聞いている。
「さあ、これで全員が揃った。集合場所をリザードマンの墓場から、ここサンクトゥス海岸に変更したのは標的を変更したからだ。名前を聞いて逃げ出したいモノは逃げ出しても構わない・・・覚悟はいいか」と、市長エリスは大きな声で言う。
標的の変更・・・この海岸に魔物がいるとは聞いてないけどな。たしか昨日のガイドブックにもこの海岸は観光客で賑わう観光地のはずだ。しかし、このメンバーで戦う事を考えれば強敵には違いない。
「いい面構えだ。それでは言おう。標的の名前は女帝レティーシア・アヴァロニアだ。逃げ出すなら今のうちだ。罪は問わない。港に行ってギルドへ帰
る事を伝えれば君たちは国へ帰れる」と、市長エリスは言う。
「・・・」ボクは黙った。言葉が出ない。
「・・・」他の新米たちは下を向いてしまっている。
「面白いじゃない。魔法使いとして戦ってみたかった相手だわ・・・案外あっさり勝ててしまうかもしれないけど」と、言ったのはセシル様だ。
「バカ言うな、セシル。勝てて当然だ・・・1人で国を落とした伝説は魔法使いギルドでも知らぬ者はいないが・・・それはわれわれでもできる事だ。
吸収、圧縮、解放のサイクルを赤い輝石レヴァンテインによって無限にサイクルさせるならば魔法使いほど強い兵士はいない」と、ファザル様も言う。
「そうです。ここには10人もの魔法使いがいます。そしてそのうち2人は上級者の階級にある魔法使い。さらに魔法使いを極めし者と言われる伝説の魔法使いセシル様までおられます。勝てない道理はありません」と、黒い長髪の市長の秘書は言う。
ほんとにそうだろうか。ボクは女帝レティーシア・アヴァロニアに直接出会った事は無い。だが、あの人によって落とされた国の兵士して・・・あの人と戦った事のあるボクはうんとは言えなかった。
「オレたち、帰ります」と、ギルドの新米の魔法使いたちはすでに早足で歩き始めていた。
市長エリス、セシル様、ファザル様、市長の秘書、ボク・・・5人残った
「リッツ、君はよく残ったな・・・われわれなら勝算があると思ってくれたんだな」と、ファザル様は訊く。
「いいえ。勝算はほとんど無いと思います。・・・今わかりました。新米を集めたんじゃなくて、女帝と戦闘を経験した事のあるボクたちを招集したんですね」と、ファザル様を見る。
「そうだ・・・貴重な経験者様だからな。そう・・・勝算はほとんど無いと思うのは何故だね」と、ファザル様は言う。
「そうよ、あなた。あたしたちの強さを知ってる?」と、セシル様は言う
「まあまあ、質問攻めになっているわよ・・・お二人とも。女帝とはそれほどまでに圧倒的に強い・・・彼はそう言いたいだけ」
ボクはまた黙った。つい下を向いてしまう。あれは強いとか、そんな言葉で表現する事さえおこがましい・・・何せあの人は戦わずして、1人の犠牲者も出さずに勝利を治めたのだから。
「それでも聞きたいわ。リッツ君。どうして勝てないと思うの?」と、市長エリスは言う。
「・・・・・・うまく表現はできませんが。あえて言うならあの御方に・・・魔法で挑まないならまだ勝つ見込みはあるかもしれません。ただ聞いた話では剣術もお得意で。それも魔剣を扱われています」と、ボクは全員を見渡して正直に話した。
「そこよ。まるで彼女が魔法使いを極めし者みたいに聴こえるじゃない。わたしだってそう呼ばれているのよ。分かってる?」と、セシル様は言う。
「では、セシル様に聞きます。ボクの脳裏に魔力、またはレヴァンテインを使って言葉を届ける事はできますか?」
「ええ、できるけど・・・音声を届けるには莫大なエネルギーが必要なの。だから実演は勘弁してね」と、セシル様は言う。
「・・・・・・それは1人だけでも莫大なエネルギーを必要としますか」と、ボクは続けて聞く。
「・・・そうね。必要だわ。相手と自分との空間を完全に自分の集めたエネルギーで支配しなければいけないから」と、セシル様は説明してくださる。
「では、改めて言います。10万人ですよ・・・10万人の人間の脳にあの御方は全く同じ内容を語りかけたのです。分かりますか?想像できますか?強いとかそんな言葉すら霞んで行く。魔法使いを極めるとか、そんな次元じゃない。その上、王との一騎撃ちでも・・・魔法を全て受け止めてからの反撃。つまり、吸収、圧縮、解放ができるのは当たり前・・・ボクもやはりここで帰らしてもらいます」
「待ちたまえ、リッツ。君の言う通り、われらの勝ち目は薄いようだ。しかし、相手もレヴァンテインを使用しているのは同じ。そこは異論は無いか」
と、ファザル様は言う。
「・・・ええ、ありません」
「ではわれわれ5人で最大規模のエネルギーを集め、放てばどうなる?」
「・・・ボクたちはレヴァンテインを使用してエネルギーを吸収したり、圧縮したり、解放したりしています。レヴァンテインは万能な石ではありません。許容範囲を超えるなら石を破壊する事ができます。・・・たしかに魔法使いを極めし者であるセシル様もいます。2人しかいないギルドマスターのファザル様も。その上、ファザル様と同じ上級者の称号を持つ市長エリス様もいます。そちらの秘書さんはどれくらいなのか、未定ですが。まあ、ボクは何の足しにもなりませんけど。無限のエネルギーを引き出せる方が3人揃っている事はすごい事です。たしかに女帝がいくら強いとは言え勝てる可能性はあるかもしれません。赤く輝く輝石レヴァンテインを壊せたら」
そう言ってボクは少し後悔をした。そんな事を言ったら残らなきゃイケないじゃないか。
沈黙が訪れる。さっきまで論議していたのが嘘のようだ。
セシル様は覚悟を決めたのか目をつぶられた。
「まもなく時間よ・・・」と、市長エリスは言う。