知佳とお姉ちゃん(注意空想上の人物です)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/17 22:32:59
「この状況を救えるのは、私だけだ!」と、知佳は叫ぶ。
ALT+5を連打する。パーティー全体に回復魔法がまんべんなく行き渡る。
パーティーコメントには感謝の応酬。
脳内のドーパミンが放出され、気分は高まり、興奮する。
しかし、いちばんいいところでパソコンの画面は消えた。
蛍光灯も消えた。
停電。
うそ!?最悪!!何なのこれ!私の場所を返して。
「知佳ーー、大丈夫ーー」と、お姉ちゃんの声がする。
階段の下からロウソクの灯りが見える。
「お姉ちゃん・・・」
「知佳、またパソコンやってたの?お姉ちゃんは小説読んでだ」
「あっそ。それで・・・。わたしは最悪・・・」
「そうだね。お互い異世界から強制退出をくらった気分じゃない?」
「・・・うーん。なんかその表現すごくわかるような気がする」
「うん。わかってくれる?小説を読む事も、パソコンをする事も異世界への旅立ちだよね」
「うん・・・たしかにそうだね。あのね、お姉ちゃん。わたし、この生きている世界に絶望しているの。でもね・・・あっちの世界にはわたしの居場所があるの」
「そうなの。すごいじゃない。でも・・・それを断たれて気分は最悪って事なのね」
「うん・・・まあね。お姉ちゃんはどうして小説を読むの?」
「・・・」
「ちょっと無視?」
「ごめん、ごめん。お姉ちゃん、知佳みたいに頭の回転速くないからさ。そんなすぐに答えられない。そうねーひょっとしたら違う自分になりたいからかな」
「小説を読むと違う自分になれるの?」
「なれるよ。小説の中にはちゃんと異世界が成立していて・・・読むだけで・・・読者は異世界を堪能できるし、読むのをやめれば逃げ出す事もできるし、なかなかいいでしょ。まっ受け売りだけどね」
「ふーん。でも、誰も褒めてくれないよね」
「褒めてくれる異世界が欲しいの?知佳は」
「当たり前でしょ。そのためにオンラインゲームっていう世界に行くんだよ。賞賛されたり、褒めてもらうためにゲームをがんばるんだよ」
「じゃあ、そのゲームをやるために生まれて来たの?」
「・・・それは・・・何か違う気がする」
「うん。ごめん。お姉ちゃんもよく分からない。お姉ちゃんも小説を読むために生まれて来たわけじゃないと思う。正直、これ以上考えるのは怖い」
「それは暗いし、電気が無いから余計怖いかも・・・」
「停電、治らないね」
「うん。ねえ、お姉ちゃん。正直、お姉ちゃんとこうやって話すのってさ。小学生以来だよね。わたしが高校生になってから1度も話してこなかったよね。お姉ちゃん、もうすぐ大学・・・どうするの?行くの?」
「お姉ちゃんはまだ決めてないんだ。ただ人生に迷っていてさ。それで高校の先生と大喧嘩してさ・・・そしたらいろいろカッコ悪い自分に出会ってさ。それでさらにカッコ悪い事にその先生から本を借りたりして・・・何かわけわかんないよね。あたし、何してんだろうって思いながら。でも、本読んでみたら・・・それ、家族愛を描いたお話で・・・ああ、人ってこうやって恋愛したり、事故にあったり、別れたり、死別したり、また10年後にひょこっと出逢ったりするんだなぁって面白くて」
「あはは。10年後に出逢うところがいいね」
「えへへ。そうでしょ、あたしと知佳みたいに」
「え?あっほんとだ。10年ぶりかも」
「でしょ」
「うん。お姉ちゃん・・・その・・・」知佳はあふれる涙をお姉ちゃんに気づかれないようにそっぽを向きました。
「なーに、どうし・・・」と、お姉ちゃんはロウソクの灯りの下でそっとハンカチを知佳に渡しました。
知佳はふと気づいたのです。自分は現実の世界が嫌で、オンラインゲームという異世界に逃げていたけど・・・この現実の世界もまた異世界なのかもしれないと。
たしかなものは何も無い。
停電になれば、あっさりと全てを奪われてしまう。
それでもお姉ちゃんは、ロウソクを探して火をつけて私のところへ来てくれた。
闇の中を手探りしながら・・・それも10年ぶりに。
本を読んだ影響とはいえ。
見えない大きな力によって引き合わされた・・・。
私たちは人生の支配者じゃない。
支配者は別にいて、私たちはプレイヤー。
それもこんなプレゼントをしてくれるすごい管理者・・・。
神さまっているのかもしれない。
ああ、でも。
私たち両親は今日も海外に二人とも出張していていない。
通帳だけが親子の絆・・・。
好きなようにお金は使ってきた。
お金に不自由はしなかった。
ただ心は死んでいった。
それは私だけじゃなかった。お姉ちゃんもそうだったんだ。
それを告白してくれた。
それも10年ぶりに。
涙が止まらない。どうすればいいの。
「抱きしめるよ」と、お姉ちゃんは言う。
「え?」と、知佳はお姉ちゃんの顔を見た。
いや、見ようとしたが見れなかった。
お姉ちゃんに抱きしめられたから。
蛍光灯に電気が戻った。
パソコンの起動音も聞こえる。
知佳の左手は静かに動き、パソコンの電源ボタンを長押しした。
そしてその左手をお姉ちゃんの背中にまわした。
その夜、二人はお互いの好きな曲をCDプレイヤーで聴いた。
「知佳、お姉ちゃん決めた!心にじーんって来る仕事するよ!就職する!応援してね」と、知佳の背中を叩く。
「うん。応援してる!わたしの自慢のお姉ちゃんだもの。でも、進路はすぐに決めない方がいいよー。これ、オンラインゲームの体験談になるけど、職業を決める時はほんとにこれでジーンってできるかよく調べてから動いた方がいいよー。他人に言われた最初の情報だけを鵜呑みにしないで自分で吟味する。これ、ポイントだよー」
「さすが知佳。あたしの賢い妹だね!でも、じーんって来るって言う部分しか今はわかんない。だからそれでどうやって探すかも実はわかんない。うーん、知佳ならどうする?」
「うーん。私が実際にオンラインゲームでやった事だけど、まず楽しいそうなところに自分で行くしかないと思う。それを現実に置き換えたら・・・そうね。楽しいそうな会社に見学に行くとかね・・・それがお姉ちゃんが言うじーんって来ると一緒ならそこに入社を希望してみる。」
「え?求人票から探すんじゃなくて?」
「そうよ。掲示板に書いてある情報は文字情報だけでしょ?それはオンラインゲームでも同じ。楽しそうなサークルは自分で体験してみなきゃわからないでしょ。で、求人を出しているか、いないかじゃなくて・・・お姉ちゃんはじーんって来る仕事したいんでしょ?」
「うん、そう」
「それなら楽しそうな会社を片っ端から見学に行ってみるしかない。それにお金なら困ってないでしょ。通帳しか渡さなかった親だけに・・・」
「うん。それもそう」
「お姉ちゃん・・・私、神様を信じてみる・・・」
「え?急にどうしたの?」
「お姉ちゃんを10年ぶりに引き合わせてくれた神様を信じたいの」
「・・・」
「お姉ちゃん?」
今度はお姉ちゃんがそっぽを向きました。
完
おもしろかったです(^^)
最後、ザックリと終わっちゃったね~
何で、そっぽ向いたか考える時間がなかったよ
考えさせたくなかったかもしれないけど~
知佳とお姉ちゃん、どっちも可愛くていい子だなあ。
キャラクターもちゃんとしっかりできていて、小説としてとても面白かったです。
世界観も同感^^
言葉と向き合うというのは本当に難しいことだね。最近、しみじみそう感じています。
しばらくINしないかもしれないけれど心配しないでね。