Nicotto Town



星の涕  【我が唯一つの望み:1】








夜空を見上げると不意に思い出す

近頃は特にだ

最初は作られた空の下だった

そうあの時

僕には、たったひとつ望みがあった

けれどもたったひとつの願いは人の数だけ存在し

次に叶えられることを今か今かと待っている

それは散らかった満天の星空によく似ている

美しくもあり、

美しすぎるがゆえに少し怖いようでもある

作られた星の下で何度も何度も確認した

なのに叶えられるのを待つ間、

お前の願いは変わってしまったのか?

そうではないはずだ

遠ざかっていくあの日に

お前は何を望んだ?

一瞬の煌きに、

その心は何を願った?

唯一つの望み

それは……



あの日プラネタリウムの前で見知った顔を見つけた。

彼女は、クラスメートなのだが新学期から二週間遅れてやってきたため

すこし浮いた存在だった。

その彼女がプラネタリウムの前でコロコロ表情を変えながら

考え事をしていた。

その姿はまるで万華鏡みたいだった。

彼女が動くたびに、世界は違った光を放つように感じた。

このままずっとそれを眺めていてもいいのだけど

さすがに少しかわいそうになってきて声を掛けることにした。

「よっ なにしてんの?」

彼女は僕の顔をマジマジと見つめると、考えるしぐさを始めた。

「おいおい、小学生の頃からずっと一緒だろうが」

「わかっています 冗談です」

彼女の冗談はわかりにくい。

本当に冗談だったのかどうかも怪しいが……。

「まあいいや で何してるの?」

「えっとですね ここは何をするところなのでしょう?」

「ここはプラネタリウム 星を見るところだよ」

「昼間から? 望遠鏡もないのに? 屋根があるのに?」

矢継ぎ早に質問が飛んできた。

「ん~百聞は一見にしかずだ、

 説明するより見たほうが早いな。今から行って見るか?」

「そうですね。 お願いします」

なぜそうなったのか、今思い返してもわからない。

数奇な運命に導かれるように、僕と彼女はプラネタリウムを見ることになった。



「大きな機械ですね」

「これが光を発生させて星を作るんだよ」

「なるほど星のお母さんって訳ですか」

「星のお母さんか、面白いね」

「そう?」

「そう」

上映の始まるまでの間、彼女とたわいのない会話を楽しんだ。

やがて照明が落とされ、ドームに満天の星が映し出されると彼女は大きな声を上げた。

「すごいすごい!」

慌てて彼女の口を塞ごうとしたが、僕らのほかにお客もいなさそうなので止めた。

「でも少し本当の星とは違いますね。 上手く言えないのですけど、

 良く見えすぎるというか 綺麗すぎるというか」

「さすがだね。 プラネタリウムでは実際の星よりも明るく投射してるんだよ」

「どうして?」

「そのほうが客が喜ぶからじゃない?」

すると彼女は少し考えてから

「逆じゃないかな?」

と言った。

「作り物は本物を超えちゃいけないよ」

とさらに続けた。

「そうだな」

僕は、その言葉に妙に感心した。



プログラムはどんどん進み

流れ星のコーナーになった。

アナウスのお姉さんの声が元気良く流れた。

「流れ星に願いを掛けると叶うから みんなもお願いしてみよう~」

ノリがやや幼稚な感じだが、それはそれで面白そうだった。

「願い事してみようか?」

「うん」

横目で見ると何やらお願いを始めてるようだった。

(さて、僕はどんな願い事をしようかな)

ぱっと思いついたのはお金。

だがこんな俗っぽい願いをするのもなんだか嫌だった。

(改めて考えると、そうそう願い事って浮かばないものだな)

再び彼女の方を見ると、不思議そうな眼で僕の方を見ていた。

(あの眼をどこかで……。 どこかで見たことがあるな)

ずっと心に引っかかっていた言葉。

それがふっと浮かんできた。

「私、涙を祖母に預けたままだから」





誰かが言っていた、流れ星に願いを掛けるとそれは叶うと

誰かが言っていた、流れ星は星の涕なのだと

ならばなみだには何かを叶える力があるということなのだろうか?

流れ星は正確には、星ではない

広大な宇宙を漂う星の欠片

そういう意味では、星の涕という表現はあながち間違いでもないだろう

だとするとこの願いは正しく叶うのだろうか?

消える涕に生まれる涙を願う

そのことは何故だかとても悲しいことに思えた

あの頃からほんと、何もわかっちゃいなかったんだな

見ていたようで見ていない

聞いていたようで聞いていない

そのことにずっと気が付かなかった

でも本当に大事なこと

それにようやく気が付くことが出来た気がする

見上げていた星が不意にひとつ滲んだ

ひとつ滲むと瞬く間に全ての星が滲んだ

アバター
2015/03/09 23:49
続きが楽しみです。
また日を改めて読みに来ますね。
アバター
2015/03/01 14:04
イイですね~^^
最後のところで彼女と一緒にプラネタリウムを見ることになった意味が分かったような気がします^^
アバター
2015/02/25 21:49
ふふっ。

また、考え深いものを作りましたねぇ~♪

涙を祖母に預けたまま   どういう意味なんだろぉ~・・・。



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