『庭先案内』五巻
- カテゴリ:マンガ
- 2009/09/04 23:44:34
ずいぶん遅くなったけど、『庭先案内』五巻(須藤真澄/エンターブレイン)やっと入手。
いつもながらにほのぼのと優しい、ファンタスティックな世界が展開する。
独立した短編を集めた作品集で、どの巻から読んでも大丈夫だけど、過去の巻に出てきた登場人物の話にはおなじみさんに会う楽しさがある。
今回一番印象に残ったのは、おなじみ幻燈機じいさんの話。
幻の海と亡くなった息子を出現させる幻燈機をたずさえて旅する老人の、今度は遊牧民が住まう土地での出来事。
ふたりの老人の、亡き子どもへの思いと、同じ思いをもつ相手への優しさが心を打つ。
余談だけど、この「幻燈機6」での、幻燈機じいさんのそっくりさんの、息子のお嫁さんが抱いてる赤ん坊(そっくりさんの孫ですね)が、実に「らしい」。
握りしめた手、乾燥した土地でやや赤くかさついた、でも丸くふっくらした頬、目を閉じていたり口を結んでいたりする表情がとてもリアルだ。
細部に神宿る。
可愛らしくデフォルメが利いた写実的ではない絵柄で、画面の中では完全に脇の要素なのに、しっかりと描かれていることにちょっと驚いた。
この作者、「あちら側」を感じさせる話が多いのだけれど、この巻にもやっぱりというか、彼岸と此岸を題材にした話があった。
“共に生きていくということ”をしみじみを感じた「待ち合わせ」、向こう側に行ってしまったおばあちゃんが、泣いてしまったこちら側の孫を笑わせようと奮闘する「あっちこっち」、そして「幻燈機6」がこの巻での、その種の作品だった。
すこし前にはギョッとするほど生々しく感じた物もあったが(何巻だったかの、ナスの牛で向こう側に戻るお盆の話とか)、この巻の「あちら側とこちら側」をめぐる物語は優しく、ほのぼのとした笑いがある。
笑いと暖かさを感じさせるアイディアストーリーを、これほどコンスタントに書き続けている人もそういない。
どちらかというとストーリー展開で読ませる長編が好きな読者なのだが、いつのまにかこのリリカルな短編が多い作者のファンになっていた。
多分、単行本全部もってるのじゃないかな?
ねこやおさんぽのエッセイ系しか読んでない人も、ファンタジィ物の方もお薦めする。
ちと色々落ち込んでたので、世界がこんな風に優しく、楽しくあるのだったらいいよな、とか思ってしまった。
「あっちこっち」みたいに向こうで楽しく暮らしててほしいな、ばあちゃん……