アレクサンドリート・デュ・ディアーブル
- カテゴリ:小説/詩
- 2014/12/15 00:16:37
12の場所に針は動く。
ニュクス様のおいでになられる時間だ。
私は赤き炎を左目から取り出して炎の絨毯を敷く。
四角の黒き扉は開き、ニュクス様は降臨される。
「お待ちしておりました。何をお食べになられますか?」
「アレクサンドリート・デュ・ディアーブル…タルタロス、わが息子がまた絶望を1つ刈り取ってきた。その絶望は星のグラスの中に閉じ込めている」
「それはそれは…ではそれを一緒に味わいましょう」
「ふむ。冥府の薔薇は咲いたか?」
「はい、ジャムにしてご用意しています。またお茶の用意もできております。味付けはいかがいたしましょうか」
「今日はリンゴがよい」
「はい、リンゴならここに」と、私は右目にある深き森からリンゴを取り出してみせた。
「そのリンゴは人として生まれる事を望むか?」
「ニュクス様にお召し上がりいただくとはそういう事でございます。生前は自虐の強い者でしたが、やっと誰かの役に立ちたいと望み、星のグラスからリンゴに姿を変えて今ここにいます。そして今宵の私は女性でしょうか、それとも男性でしょうか」
「わらわにとってそなたはわらわの一部…男性として使役すれば男性。女性として使役すれば女性。だが、わらわはそなたが固定される事を嫌う。それゆえに揺らぎを与えた。活動時間にも制限を与えた。ゆえにそなたはどちらでも無い。揺らぐ存在。それがそなたよ」
「さすがはニュクス様…私自身分からなくなるのです。自分は本当はどちらであったのか。お聞きしてあらためて自分という存在を理解しました。ではリンゴを切ってまいります」
ああ、最後のセリフまでの流れがとても素敵です。
揺らぐ存在…深いですね