Nicotto Town


✪マークは作り話でし


✪ じかん (後)

「言いにくいことですが、瑠璃ちゃんは白血病にかかってます」
先生はひと息ついた。
「この病気は治るものもあるのですが・・・、
瑠璃ちゃんの場合は完治が難しいでしょう。
このままだともって一年、
手術をしたら半年ぐらいは命を伸ばすことができます。
が、全身の血を入れ替えますのですぐに入院してください。
つまり、そのあとは病院でずっと過ごすことになります」
・・・・コノ人、何ヲイッテルノカシラ?。
と瑠璃のお母さんは思った。
先生は続けた、
「もう一つの生き方は手術をしないで、
そのかわり思い切り外で過ごすことです。
めまいや体の衰えはぼちぼちやってきます、
このまま気がついていなければ普通どおり学校に通っていたと思います。
病院か普通の生活か、どちらを選ぶか決めてください。
どちらにしても瑠璃ちゃんにこのことは言わない方がいいでしょう。
たちの悪い貧血病にでもしておいて」
どちらにするもしないも、お母さんはうまくのみこめなかった。
・・・冗談ジャナイ、瑠璃ハマダ十二歳にナッタバカリナノニ。
瑠璃ニ、アンナ元気ナ子ガナンノ罪ヲオカシテ、
死刑センコクヲウケナケレバナラナイノ? 。
この時からお母さんの時間が狂いだした。
お父さんに「りっぱに育てる」と約束したのに。
うつろな頭でお母さんは考えに考え、迷いにに迷って、
家に帰りおばあさんに相談した。
お母さんはそのことを言った途端、泣き出した。
瑠璃が学校から帰ってきたときは平気な顔をするのがつらかった。
「瑠璃よくきいてね」お母さんは前もって心に決めていた。
「あなたはみかけは元気な子と変わらないけれど、
たちの悪い貧血病にかかっているんだ。
血を入れ替える手術をすぐしないと・・・・」
「ドラキュラみたい」
「なに、みたいですって」
「人の血を吸って生きるドラキュラ」
お母さんはドキッとしたが、おばあさんが立ち上がって目頭を押さえた。
瑠璃はお母さんから入院だとの、
手術だのと言われた時はなんだかバカらしかった。
病気らしいところが全然なかったからだ。
・・・・お正月は家に帰れるかしら?。
・・・・学校を休むことになるが、六年生は卒業できるのかしら?。
もう一度六年生なんていやだな~、そんなことが心に引っ掛かった。
一回目の手術の日が来た。
脊髄に太い針がつきさされ、
悪い血が抜き取られ良い血と入れ替えられた。
それは苦しいことだった、
まして手術のあとはさきは強う薬の副作用で胃液をはき続けた。
一日じゅう腕に針をさされたまま点滴もした、
点滴をしているのでおしっこさえお母さんの世話にならなければならなかった。
手術がすむと、いつもの元気に戻ったが、
外へは一歩も出してもらえなかった。
白血病は外気や病原菌にとても弱く他人から風邪をうつされると、
それがもとで死を早めることがあった。
五階の部屋からは木や空やビルやカラスが見えたが、
ガラスにへだたれているために風にもあたれなかったし、
雨の匂いもかぐこともできなかった。
一回目の手術のあと、検査があった。
二ヶ月ほどして、二回目の手術がおこなわれた。
それまではテレビを見たり・手紙を書いたり・本を読んだり、
好きな食べ物を買ってきてもらったりして長い一日をどうにか楽しんだ。
こうして手術は三回・四回と続けられた。
お正月も家に帰れなかった。
お母さんは仕事をやめた。
手術がかさなるにつれて、瑠璃は眠る時間が多くなっていった。
元気だったときは毎日毎日同じことをしていて、
それをありがたいと思わなかったがこうなってみると、
毎日毎日していた当たり前のことが懐かしくなってきた。
たとえば、朝起きて顔を洗い歯をみがいてトイレに行き、
「遅刻しますょ」とおばあちゃんに言われ、
学校に行き、帰ってくるとお母さんに、
「宿題したの?」と言われる生活。
そんな生活どころか、薬づけのせいで胃があれ、
口に吹き出物ができ、床ずれがしてお尻が痛くなり痔になった。
面会謝絶の札がドアの外にかけられなくても、
ビビや大好きな友達にやつれた顔を見られたくなかった。
友だちはみんな中学生になっているはずだった。
おばあさんは白衣を着て、マスクをして病室に入った。
おばあさんは病室を出たところでよくお母さんに、
「年よりの私よりも先に死ぬなんて、神様を許せない」
と、言いながら泣いた。
一年がめぐってきた。
瑠璃はけなげに病気とたたかった。
先生はお母さんに言った、
「瑠璃ちゃんはよく頑張っています、
あんな辛抱強い子を見るのは初めてです」
入院して二度目の冬が来た。
お母さんは絶対泣かないと決心していながら、泣いた。
それからしばらくして、四十度ちかい熱がでだした。
熱は死の前ぶれだった。
お母さんは冗談をいい、わざとケンカをふっかけた。
また、お正月がやってきた。
お正月というのは、家族が家にいてはじめてお正月といえるのに、
おせちどころかジュースしか瑠璃はのどを通らなくなってた。
一月二月は闘病のまま過ぎた、
闘病生活がこんなに苦しいものなら、
・・・・命ヲチヂメテモ外デ自由ニスゴサセレバ、ヨカッタカシラ?。
と、お母さんは思った。
四月の夜中、瑠璃は何気なく懐中時計をとりだした。
針は午前四時をさしていた。
時間を読み取ったとたん、長い針がゆるやかに逆に回り始めた。
チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・チ・・・。
懐中時計の小さい音とお母さんの軽いいびきだけが、
薄暗い病室の中にきこえた。
瑠璃は長い針に人差し指をあてたり、
リューズを引きあげて逆回りを止めようとした。
ところが針はどんどん進んだ。
・・・・あたし、死ぬのかしら?。
瑠璃はそのときはじめて思った。
だから、たたいたり、爪ではじいたりしてどうにかして針を止めようとした。
針はガラス板にへだてられていて、触れるはずがなかった。
それなのに、ついに指が針に触れた。
そのとたん、
「瑠璃・瑠璃・それにふれてはだめ・さわらないで」お母さんの大きな声がした。
そのとき、体が指先から時計の中へ吸い込まれていった。
「いかないで」お母さんは腕を伸ばして瑠璃の足首をつかんだ。
ふたりはそのまま、時計の中へ・・・・。
ふわっと体が浮き、体が宙に投げ出された。
そこは宇宙のようで足の下にも頭の上にも星があった。
「宇宙遊泳ってこんな感じなのかしら」瑠璃は言った。
「水の中で宙返りしているみたいね」
ふたりが話をしていると老人がひとり、
同じような格好で宙に浮きながら近づいてきた。
「時間の源へようこそ」瑠璃はお喋りになっていた。
「あたし、時間を探しにやってきたの。
時計の針が逆にまわりだしたんだもの、こんなことってはじめて。
少しでいいから時間をわけてちょうだい、
ここにあたしの時間ないかしら?。
時計の針をもとに戻してちょうだい。
時間を明日に向けてちょうだい。
瑠璃、まだしたいことがたくさんあるの、中学へも行きたいし、
高校へも、大学も行きたいし、キャビンアテンダントにもなりたいし。
女優にもなりたいし、お母さんにもなりたいし、親孝行もしたい」
「よしよし、ま、落ち着きなさい」老人は言った。
「時間をくれるの?」
「いいとも」
「瑠璃、よかったわね」お母さんはポンと背中をたたいた。
少し落ち着くと周りが見えてきた。
「きれい」瑠璃は手のひらをチューリップの花のようにあわせた。







アバター
2014/12/01 07:18
ここあるのを気がつかず、後読みしてしまいました(ノ∀`)
アバター
2014/12/01 03:33

 うううう
 胸が詰まってます・・・

 「完」もでてるのね。
 涙を吹いてから読んできます・・・




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