Smile again 【第七話】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/10/25 01:05:15
第七話 『長谷川の過去』
「美加、先生呼んできたぞ」
「ようやく目が覚めてくれたようで…よかったよ。」
そう優しく微笑むのは、白髪頭の老人先生。
眼鏡越しに私をそっと見つめ、目じりに皺を寄せた。
私はそっとお辞儀をして、礼を述べた。
「ご迷惑を掛けてすみません。また…貴方にお世話になるなんて」
「…ど、どういう事だよ」
この言葉に過剰に反応した彼は、眉間に皺を寄せて冷や汗を流す。
私は少し待て、とアイコンタクトを送り、すぐに先生へと視点を移す。
先生はニコリ、と微笑む。だが、その微笑の後ろには切なさが見えた。
「…貴方も相当な苦労をした事でしょう。お気の毒に」
「そんな事は無いです。先生や色んな人に支えられていましたから」
そう笑むと、先生はもっと柔らかな笑顔で返したくれた。
「それは良かった。貴方の事、あれからずっと気に掛けていました」
「ご心配とご迷惑をお掛けしました。」
「いえいえ。また助けが必要ならいつでもご利用ください」
「はい、ありがとうございます。」
「では」
病室を去ると共に彼は、鬼の形相で私に問い詰めた。
「どういうことだよ…。お前、昔なんかあったのか?」
その言い方が何故か尺に触った。
まるで私が何か悪いことを仕出かしたかのようないい振りだ。
ツン、と顎を上に立てて私は言った。
「別に大した事じゃないわ。ただ…少し事故に巻き込まれた、ってだけ」
「大した事じゃない!?どこがだ!事故って時点で大したことだろ!」
妙にムキになる彼を私は不思議な目で見つめた。
首を傾げそうになったが、今の彼にしたら余計ムキになるだろう。
私は冷ややかな目で彼を見た。
「……何ムキになってるの?」
「そりゃあそうだろ!?」
そこで一旦区切ると、頭を掻き毟りながら背を向けた。
「クソッ、俺はどうして気づいてやれなかったんだ…ッ!」
「まだ会ったばかりだもの、しょうがないでしょ?」
「それだとしてもだ!俺は無神経な事ばかり…クソッ。」
どうしてこんなに自分を追い詰めているのか分からなかった。
もしかしたら…彼は“事故”という言葉と過去に何らかの接点があるのかも…?
だとしたらあのエレベーターでの反応も納得できるかもしれない。
『何階?』
『5階』
『一人暮らしだろ?いい所住んでんなぁ~』
『…1階しか違わないじゃない。』
『やっぱり違うじゃん?ハハッ、あんまりか』
『…うん』
あの時少し異変を感じていた。
もしかして、何かあるのかなとは思ってた。
「ねえ、長谷川君。」
「…?」
出会ったばかりの女に話すとは思えない。
でも、もし何かあるのなら…聞いてあげたいんだ。
「話しにくかったら、いいの。ただ、抱えてるなら聞きたいだけ」
「?」
「貴方、もしかして過去に事故に遭ったの?」
「……なんで」
目が飛び出しそうなくらい見開き、驚きの表情を浮かべる。
ただ立ち尽くして、硬直状態に陥っている。
私は心の中で「やっぱり」と呟いた。
「…何があったの?」
「そんな事より今はお前の健康が大事だろ?縁起のねぇ話はしたくない」
「って事はやっぱり…」
「おい、聞こえなかったか?この話はしねぇ、というよりしたくねぇ」
その時の表情は、今まで見たこともない顔だった。
きっと踏み入ってはいけない所だ。
…にしても、今の顔…やっぱり彼に似ている。
別れを決めて、最後に私を振り払ったときの彼の顔に。
そうだ、私。
「ね、長谷川君。頼みがあるの」
「…なんだ」
「私を星空の丘へ連れて行って。お願い」
「……」
少し間をあけて答えた。
「無理だな」
「どうして?」
「今の体で行ける場所じゃない。」
「なんで!?事故の事なんて昔の事なのに」
「後遺症って聞いた事ねぇのか?お前の場合、自覚できないモノかもしれねぇ」
「……何よ、ソレ」
頭が可笑しいとでも言いたいのか。
そう言い放ってやりたかったけど、とてもいえなかった。
だってその時の彼の顔は……
「…長谷川君?貴方もしかして…泣いてるの?」
「……ッ」
何もいえなかった。
続く。
いつもいつもいいところで・・・・笑
またたまに続きよみにきますねーbb
楽しみにしてます♪