Smile again 【第六章】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/10/19 01:58:47
第六章 『決断の時』
「ッ……」
目を覚まし、最初に目に映ったのは壁だった。
次に見えたのは木製の床。木の匂いが穂のかに香る。
次に見えたのが、床に転がり、とても食べられるものじゃないフレンチトースト。
まさにスクランブルエッグ状態で食欲さえも失わせた。
まだ意識が朦朧とする中、一人の部屋でゆっくりと意識を引っ張る。
だがまだ体は言うことを聞かない。目と耳、そして嗅覚だけが反応してくれた。
これを頼りに私は状況を探った。
とりあえず、カーテンから光が漏れていると言う事は午後か午前だろう。
さほど時間は経っていないみたいだ。
鼻をクンクンと利かせると、穂のかに香る紅茶の香り。勢いで零してしまったのだろう。
テーブルから伝って落ちているのが分かる。
時間がそこまで経っていない、と把握した私は安堵のため息を吐いた。
「ハァ…」
そしてまた意識が薄れさせていく…。
その時だった。
ピーンポーン。
部屋中に鳴り響いたインターホン。
体をピクリと動かした私は、思うがままに体を動かせるようになった。
だがまだ完全に治ったワケではないらしい。体が少しよろめいている。
目だって上手く開かない、頭だって回転しない。
とりあえず扉に靠れかかり、小さな覗き穴から来客を確認した。
そこに映っていたのは、腕を組んで眉を歪める長谷川君の姿があった。
だるい体を必死に動かし、鍵を開けた。
扉を開いた途端、「よっ」と左手を挙げて笑う彼が居た。
「大丈夫か?少し、心配になってきたんだ」
答えたいけど、言葉が出ない。
こういう時なんて言えばいいんだっけ……。
意識を必死に取り戻そうとしている私を、彼は不安気に見つめた。
そして覗き込むように顔を見て、首を傾げた。
「どうした?やっぱ治ってないのか?」
「……えっ、と…」
このままじゃ心配させてしまう。
だけど思うように口が動かないし、頭が回らない。
「目、すげぇうつろだけど…やっぱまだ熱あるんだな。」
「…うん。だか、ら……」
急にまた意識が飛びそうになる。
突然よろめく体は彼の胸へ真っ直ぐ飛び込んだ。
だが私は恥しがる余裕もなくただ靠れかかった。
「どうしたんだよ…!イキナリ…」
少し照れ臭そうな彼の声を耳に私は再び意識を失った。
そして頭の中でこんな記憶が蘇った。
『わぁ、見て!綺麗なウェディングドレス』
『本当に美加はこんなのに目がねぇな。』
『女の子だもん。当然でしょ?』
『確かにな。』
『………』
『………』
『……なぁ』
『ん?』
『もし、もしさ…俺と結婚式挙げる、ってなった時な』
『う、うん…』
『このウェディングドレス、着させてやるからな。』
『──…祐樹。
……ふふっ、うん!約束だからね?』
──祐樹…、祐樹。
あの約束…まだ記憶に残っているよ。
ねえ、祐樹…祐樹…
********
「祐樹…」
そう呟いて目を覚ました場所は病院。
右には点滴が吊るされている。
そして左側には目を見開いている長谷川君の姿があった。
「美加!」
「…長谷川、君?どうしてココに…」
「お前が急に倒れるから…ってそんな事より先生呼んでくるわ!」
慌てて立ち上がり、彼は病室を後にした。
背中を見送り、私は一人、さっきの記憶を辿っていた。
あれは祐樹とウィンドウショッピングしている時の記憶だけど…なんで突然。
しかも“約束”ってキーワードを聞くとなぜか胸が痛む。
というより、何かを吐き出したくなる。
──何だろう。
「……祐樹、約束。」
キーワードを並べても思い出せない。
ただモヤモヤだけが募る。
「……星空の、丘。約束…」
きっとこの場所に何かあるんだろう。
そう確信した私は一つの決断に出た。
続く。