Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


Smile again 【第五章】

第五章 『哀しみの記憶』


あれから結局私は眠っていた。
何もやることもなく、一人眠りに落ちて涙を零していた。
今日もまた、祐樹を想って泣いた。でもいつもとは少し違う感じだった。
心の重さが違った。いつもより軽くて涙の量も少量になっていた。
それでも彼を想って泣く、という行為は消えなかった。

「…祐樹、私やっぱり貴方に会いたいよ」

呆然と眺めたアドレス帳。そこには彼の名前がある。
眺めるしかできないその名前からはもう二度と電話が来る事もないのだろう。
彼はきっと私を突き放したあの夜に私のアドレスを消しているはずだから。
今頃あの夜一緒に消えて行った美女と幸せに暮らしているのだろう。
そう考えるだけでも泣けてくる。馬鹿らしくて笑いさえ毀れてきた。
今の自分は正直、誰よりも狂ってるんだと思う……。

たまに鳴る着信メロディー。でもそれは勧誘や迷惑メールだけ。
でも今日はいつもと違うメロディーが流れた。
慌てて体を飛び起こし、画面を見る。長谷川君からだった。
顔をパアッと明るくさせて内容を見た。

『体調どう?少しは良くなったか?』

短文だけど、凄く温かさを感じた。
笑みを零し、乾いた涙を拭いながら返信を打った。

『大丈夫!!少し寝たらすぐ良くなったよ。』

そもそも、体調不良は真っ赤な噓。熱なんてなかったのだから。
彼が来て顔が熱くなって、彼が熱と勘違いしたのが始まりだった。
それでも心配してくれてる彼の文章を見るのは楽しくて、嬉しくてたまらなかった。
多少の罪悪感が隠せるほど、喜びは大きかった。

不意に零れる笑みを必死に抑えながらベッドに倒れこむ。
やっぱり私、祐樹の事忘れられそう!!…そう思った。
でもやっぱりあの写真立てを見ると悲しくなって、寂しくなって、あの夜が蘇る。
だけど首を振って記憶を振り払えば、すぐに長谷川君の笑顔を思い出せる。

祐樹との記憶が消えるのは、そう遠くないのかもしれない…。
微かな希望を胸に、また私は一眠りついたのだった。



◆ ◆ ◆
翌朝、気持ちよく目覚められた。
その日は休日で丁度気持ちも楽になれた。
輝く朝日を浴びながら大きく伸びをする。小鳥の合唱を聞きながら鼻唄を歌う。
久しぶりにこんな心地のいい朝を迎えられた。
気づけば第一に考えたのは祐樹じゃなくて長谷川君だった。

「……長谷川君から返事、来てないなぁ。」

あれから返信がない。“既読”はついてるのに…。
不意に寂しくなり、脱力した。目に映る優しい文章が再び見える。
思わずまたにやけてしまった。

きっと、もう返事しなくていいって思っただけだろう。
むしろ体がしんどい私を気遣って返事しなかったのかも…とまで思いだした。
そう考えるとそうとしか思えなくなったのだ。

「よし、今日はフレンチトーストでも作ろっと!!!」

珍しくポジティブな私は朝から料理を始める。
こんな一日が迎えられるとは夢にも思っていなかった。
心底彼に感謝をしながら、包丁を手に取りリズムに乗って刻む。

きっとすぐに返事が来るわ。
彼からきっと連絡が来る。

そう信じられた──。



◆ ◆ ◆
「……ねえ、祐樹。」
「ん?」
「私、凄く幸せ。」
「本当に?」
「うん。だって祐樹が居るんだもん」
「ったく。照れるからやめろ」
「ふふっ、ごめんなさい。でも本当に幸せなんだよ?」
「分かってる。俺だって同じだから」

あの頃の会話、何で一言も消えずに残ってるんだろう。
消えて、って唱えてもこの思い出だけは掠れない。
ぼやける事もなく鮮明に覚えている。

「あの星凄く綺麗だね。」
「ああ。何か…あの星、美加に似てねえ?」
「はぁ? 何そのベタな発言~!!」
「笑うな。俺は何時だって真剣なんだから」
「信じられないなぁ。じゃあ、どこが似てるか言ってみてよ!!」
「おま、それは聞かない約束だろぉ?」
「いつ約束したのよ!!いいから言って。」
「……全て。」

そう顔を赤らめ、声を振り絞って言った彼の一言が脳裏に焼きついている。
結局あの意味を私は今でも理解できずに居る。
星空の丘で見上げた夜空。彼の発言を理解できないまま私は月日を過ごしたんだ。
確かめたい。会ってあの意味を知りたい。
きっとこれが未練の根になっているはずだから。


作り終わったフレンチトーストを皿に盛り、砂糖を掛ける。
そのときだった。突然大きな頭痛が私を襲った。

「ッ…!!!!」

何が起こったのかわからず、床に崩れ落ちる。
ハァッ、ハァ…と呼吸が荒くなるのが分かる。必死に胸を押さえて整えても無駄だ。
そしてついに私は意識を失い、倒れこんだ。

私のほかに誰も居ない部屋で一人、意識を失ったのだ。
意識が失う瞬間、聞いたこともない言葉が脳を過ぎった。


「美加の記憶を…返してください…!!!」

そう叫ぶこの声はハッキリ誰だか分かる。
…紛れもなく祐樹の声、だった。


続く。

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2014/10/12 22:36
記憶を返してってどういう事なんだろう・・・。
続きが気になります



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