Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


Smile again 【第四話】

第四話 『触れた手』


静寂に包まれた部屋で鳴り響く一本の電話。
身を縮ませ、一歩、また一歩と携帯に近づいて行った。
画面に浮かび上がる名前はあの人の名前だった。
あの夢の後だからだろう。携帯を取るのが遅れてしまった。

「もしもし…」
「もしもーしっ!あれ?元気ないな。」

陽気な長谷川君の声は不安な私の心を打ち砕く薬のようだった。
不意に笑みが零れる。歪んだ口許から零れそうになった言葉をグッと飲み込む。
素直になれない私はまだ寝起きを装った声で呟いた。

「う~ん…、ちょっと眠くてね。」

前髪を掻き揚げ、椅子に座る。
殺風景な部屋が一気に目に入り、私はそっと顔を伏せる。
受話器の向こう側から聴こえる陽気で落ち着く声へ耳を澄ませる。

「大丈夫かー?俺の声で起きろっ。」

冗談交じりに言った言葉に心が飛び跳ねる。
こんなの祐樹以外ないってずっと思っていたのに……。
ニヤけが止まらない私は必死に口を覆い、その言葉に応える。

「もう起きてるもぉん…。」
「ハハッ、まだ声が篭ってるぞ?」

それはニヤけを止めるために口を覆っているから、だなんて言えない。
必死に言い訳を探す。

「か、風邪!風邪引いちゃったの…。」

不意に出た言い訳だった。本当はどこも悪くなんかない。
まさかこの一言で左右されるなんて思いもしなかった。

「風邪っ!?それ本当か!?」

思わぬリアクションをとられた。
焦る私を置いて彼の口はマシンガンのように動き出した。

「だからあれだけ言っただろ!あんな薄着してくるからだよ!ったく…」
「……ごめんなさい。」

何故か説教を受けた。
ため息を混じりに謝る私の声を聞いた途端、彼は言った。

「すぐ行く。待っとけ」
「は?」

反論する暇もなく通話は切れる。


数分後には激しい足音が聴こえてきた。
『ピンポーン』と鳴り響くインターホン。重い体を上げて扉を開ける。
目の前には息を切らし、手ぶらの彼が立っていた。

「…ほっ、本当に来たんだ。」
「当たり前だろ!昨日公園で長話してたせいだからな」
「え、でもほら…長谷川君のせいじゃないし……」
「熱はあるのか?」

上着を脱いでTシャツ姿になる。彼の大きな背中が目に映る。
熱はないはずなのに「ある」って言ってしまいそうになるくらい体温が上昇した。
熱る体を扇いで覚ましながら、応える。

「大丈夫。」
「大丈夫じゃねぇーだろ?扇いでるし…」
「え、あ、熱いもん。」
「はぁ…あのなぁ……」

そうため息を吐くと、途端に私の額に掌を合わせ眉間にシワを寄せて言った。

「今は真冬!暖房もついてないのに熱くなるわけねぇから。」
「…あっ…」

また体の体温が上昇する。顔が近いせいで不意に目を逸らしてしまった。
彼の凛々しい瞳が真っ直ぐに飛び込んできて胸が飛び跳ねそう。
「うぅん」と唸りながら熱を測る彼の掌がどんどん熱くなる。段々鼓動は速くなるばかり。
数秒経った頃だ。彼の掌はゆっくり離れた。

「熱…はねぇかな。」
「だ、だから大丈夫って言ったじゃない。」
「でも顔赤いから今日は安静だな。」
「えっでも学校……」
「一日くらい休め!そーんな体で行かす訳には行かない」

お玉でグイッと顔を指される。
用意されたお鍋がコンロの上に置かれている。

「もしかして…お粥作ってくれるの…?」
「病人にはお粥だろ。そのつもりで着たし」

そう言って炊飯器へ足を運び、ご飯を掬い上げる。

「はい病人は寝ていよーね」

肩をつかまれてベッドに倒される。
どうしてだろう。このまま一緒に倒れたかったな…なんて思っちゃう。馬鹿みたい。
そんな妄想をした自分を罵りながら布団にもぐる。
黙々とお粥を作る彼の背中を布団の隙間から見つめていた。

「……ありがとぅ。」

小声で呟く。その声は届くわけもなかった。


「さぁ、できたぞ~」
「わあ…美味しそうだね」

ピカピカ光ったお米と、粥のいい香りがした。
一口食べればもうそれは絶品だった。

「料理、上手いんだね」
「まあな。家で作ってるし…」
「い、家で?長谷川君が作ってるの…?」

尋ねると、彼はただ無言で微笑む。
その笑みで話はそらされ、デコピンをお見舞いされた。

「病人は寝てろ!後、長谷川君じゃなくて亮太でいいからな。じゃ」
「え、まっ…」

そういい残して彼はヒーローのように去って行った。
ポツリと置かれたお粥はただ湯気を浮かばせていた。
不意に零れた言葉を誰も聞くことはなかった。


続く。

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2014/10/05 15:35
わぁ・・・(*´∀`*)続きが気になります!!



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