もうひとつの夏へ (6)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/08/31 03:55:18
「痛っ!」
女性の声が聞こえた。
そして、また僕の元へ飛んで帰ってきたキーホルダー・・・。
え?
エーーーーー???
慌てて上がろうとしてもつれて転ぶ。
靴を脱ぐのももどかしく、そのまま土足で上がってしまった。
こちらに背を向けている女性に見覚えはなかった。
でも、もしかして・・・。恐る恐る声を掛けてみる。
「・・・佳代なのか?」
「ふぇ?」
間抜けな声をあげる女性。
この時点で確証した。奇跡は起こったのだ。
そのまま彼女の背中に抱きついて、泣いた。
「佳代・・・。良かった、良かったな」
「ふぇ?ふぇぇええええ???」
何が何だかわからないのだろう。僕にだってわからない。
それでも、佳代が生きている。それ以外のことはもうどうでも良かった。
ひとしきり泣いたあと、はっと我に返る。
「佳代だよな・・・?」
ここに来て冷静になる。もし違ったら、とんでもなく恥ずかしい。
「あの~恭ちゃん?」
女性はゆっくり振り返ると、僕のほっぺをつねった。
「痛タタタタ」
「悪ふざけは、そこまで」
と一蹴されてしまった。本当に佳代なんだ。
8年前と変わらないノリが少し懐かしかった。
色々話したいことはあった。
でも何を話せばいいのか考えがまとまらない。
考えて出た、言葉はひどく間抜けなものだった。
「佳代、僕と付き合ってくれないか?」
佳代はすこし考える素振りを見せた後、声を張り上げた。
「アホかっっ!!!・・・とっくの昔から付き合ってるでしょ」
付き合ってる記憶はまったくないのだが、どうやらそういう世界らしい。
そういう風な世界に変わってしまったのだろう。
そんな事を、思っていたためか、佳代の視線がが僕の胸ポケットで止まっていることにまったく気が付かなかった。
「いっただきっ!」 「・・・あ」
あっという間に、手紙は佳代の手に渡ってしまった。
「何コレ?ラブレター?貰ったの?」
8年前の僕の手紙を奪うと、ニヤニヤしながら、おもむろに読み始めた。
「え、これって・・・?」
佳代はすぐに気づいたようだった。
「ああ、あの時渡すはずだった手紙だよ」
読みながら、佳代は色々話してくれた。
8年前の駆け落ちは失敗したこと。
けれども、そのことで僕の転校は無くなった事。(父親の単身赴任になったらしい)
その頃からずっと付き合っているらしいこと。
などなど、消え去った時間を埋めるべく、様々な話に耳を傾けた。
一通り読み終えると、佳代は真顔で僕に向き合った。
「それでさ・・・じゃがいもは食べられるようになったの?」
あ、きちんと答えないと、とっさに思いついたことがあった。
辺りにを見回すが使えそうなものは恐竜のキーホルダーくらいしかなかった。
(これでいくか・・・)
キーホルダーを握り締め、佳代の左手を取った。
「ああ、食べられるようになったよ」
そう言いながら、キーホルダーのリングを薬指に引っ掛けて見せた。
上手く伝わったのだろうか? 佳代はキーホルダーを見つめながら考え事をしているようだった。
どれくらいの時間がたったのだろうか?それほど長い時間ではなかったはずだが、空気が乾いているのか、やけに長く感じた。
そして静寂を切り裂いたのは佳代の意外な一言だった。
「ねえ、恭ちゃん・・・。公園いこうか?」
「ふぇ?」
今度は僕の方が間抜けな声を出してしまった。
既に時計は22時を回っている。
こんな時間に公園にいく馬鹿はいないだろう。
そう言おうと思っていた頃には佳代は玄関に居た。
「ほら、行くよ」
しびれを切らして、佳代は僕の手を取って引っ張っていく。
どこかで見た光景だな。・・・すぐに思い出すことができた。
(さっき駅でこんな感じだったな、立場は逆だけどさ)
そんな事を思いながら、ずるずると佳代に引っ張られていった。
愛犬のプリンが部屋の奥から飛び出してくる。
散歩だと勘違いしたのだろうか?
「プリンはお留守番ね」
佳代はそういうと、玄関を閉めた。
二人手を繋いで、夜道を公園に向かって歩いていく。
佳代は無言だった。
僕も無言。何かを話しかけられそうな雰囲気ではなかった。
半分ほどまで来ただろうか、その時頭上より冷たいものが降りてきた。
どうやら一降り来そうな感じだ。
どうする?佳代の顔を横から見つめる。
それに気づいた素振りもなく佳代は走り出していた。
僕も追いかけるように駆け出す。
走り出すと、雨足はどんどん強くなり公園に着く頃には土砂降りになっていた。
「やっぱり佳代は雨女だな」
「それは恭ちゃんの方だって」
雨宿りしながら2人して笑い出した。
(つづく)
雨女だったのですかw意外ですね。
イメージでは完全に晴れ女だったのですが、わからないものです。
恐竜のキーホルダー、妙な使われ方でしたか?
じゃがいもも意外なキーアイテムになっています。
次で完結します。お楽しみに。
最近「雨女だ~」としばしば言われるの思い出した(´▽`*)
意味があってよかったよぉぉ…
じゃがいもも食べれるようになってるぅぅぅぅ
・・・
ってことはぁぁ?(゚ー゚)ニヤニヤ
うむ・・・
左手を取ってからの台詞、じゃがいものことなのに
なんでこんなにかっこよく聞こえるのでしょう・・・(;◔ิд◔ิ) ドキドキ。。。