Nicotto Town



私はパンツ

「よぉ、パンツとブラ。久しぶりだなぁ」

引き出しの空いた隙間から
ネコの黒べえが覗いてきた。

わたしはパンツ。
たいていは引き出しに入ってる。
たまには外に出るけど、外に出たからって
景色が見えるワケじゃないし、これといって
刺激的なことがあるワケじゃない。

相棒のブラだってご同様。
薄着の季節は多少は外が見える
こともあるようだけど、そんなにハッキリと
見えるワケじゃないらしい。

だから引き出しの中で時々ふたりで
「つまんないねー、外に出ても」
なんて言う話をしていた。

そんな時に、この黒べえがちょっと開いた
引き出しの外から声をかけてきたのが
あの「雪だるま事件」の発端だった。

「よかったら外に連れて行ってやるぜ」

あの時、うかうかとついて行かなきゃ
良かった。ホントひどい目にあったんだから。

だからつい黒べえには冷たくなる。
「一体何の用かしら。」
「わたしたち、もぉ外に出るのはこりごりよ」

「そーいわないでさぁ、お嬢さんたち。ちょっと
外に出てみねぇかぃ。今夜はすうぱぁむーん
なんだぜ。きれいな大きなお月さまがみえるんだ。
しかも、運が良かったら流れ星もみえるかもしれねぇ」

「お月さま?」
「流れ星ですって」

「そーよ、それに桜だって見れる・・・かも」

「桜って、お花見の」
「みれるの?」
「そうともよぉ。みたくねぇかい?」

なんだかんだ結局、黒べえと外に出ることに
なってしまった私たち。全く見かけに寄らず
口が上手いんだから、このネコ。

日が暮れて薄暗くなっているなか
ブラが黒べえのクビにうまく
からまって、わたしもそこに
引っかかっていく。

「変な道とおらないでよ」
「はいはい、お嬢さん方」

とはいっても、ネコですから人間の
通る道とは違うところを平気で通っていく。
屋根だったり塀だったり。

私たちは滅多に見ることのない風景なんだけど
ブラも私も黒べえにおとされないように必死。
り景色をみるなんて余裕がありません。

そしてドンドン行くうちに池のほとりの
大きな桜の木の下に着きました。

桜の木の下には猫たちが集会をしている様子。
いろんなネコがいますが、その中でひときわ
大きい三毛猫がボスでしょうか。

「おそかったじゃないか、黒べえ」
「申訳ありやせん、あねさん」

黒べえが三毛猫にペコペコしています。
この三毛猫が一番偉いのかな。

「その首に巻いてる変なのはなんだい?」
「これは、ブラとバンツですよぉ。あねさん」
「ふぅぅん。そんな変な趣味があったのかい」
「いや、好きでまいてるワケじゃ・・・」
「で、ホントウに花は咲かせられるのかい」
「もっ・・・もちろんでさぁ」

それから黒べえは、その大きな三毛猫に
なぜこのブラとパンツをつれてきたか
あの「雪だるま事件」を話し始めた。

あの雪の降った時に、誰かが作った
雪だるまの前を通りかかったら
「人間の着ているやつが着たいなぁ」って
いうもんで、部屋に戻ったところコイツラが
「外に出たい」っていうのが聞えたんで、ちょうど
いいやってんで、雪だるまに持っていったんでさぁ。

コレだって立派な「人間の着ているもの」にちげぇねぇ。

ところが雪だるまが、こいつらを着けたら
急に体がかーーっと熱くなって
溶けちまったんでさぁ。

「そーよ、おかげであたし達びしょ濡れ」
「それに寒いのなんの、ヒドイ目にあったわ」

「ふぅぅん、なるほどねぇ。それで?」
「それであっしは思ったんでさぁ、これはきっと
この木にこのブラとパンツをはかせたら花が咲くんじゃないかと」
「なるほど。おもしろいじゃないか」

大きな三毛猫に褒められたと思った
黒べえったら、もぉ顔がすっかりデレデレ。
黒いから良く分かんないけど、あの時の雪だるま
くらい真っ赤になったんじゃないかしら。

「そんな馬鹿な話きいたことないですよ、あねさん」
茶色の虎猫がしゃしゃり出てきて、ふんっと
鼻を鳴らした。

「どーせこいつのデタラメですよ」
「でたらめたぁ、いってくれるじゃないか」
黒べえはヒゲをふるわせて食いつかんばかり。

「いいじゃないか、やってみりゃあわかることさ」
三毛猫のねえさんの一言で二匹とも
おとなしくなるのが凄いところ。

「そろそろ月も出ることだ。花が咲くかどうか
さっさとやってみな」
「ガッテンでさぁ。おい、頼むぜ」

頼むぜって言われたって
わたしたちはただのパンツとブラですよ。
黒べえが頃合いの枝にうまく引っかけて
とりあえずパンツとブラを着けたような
桜の木ができあがったものの、
咲くような気配はない。

「ふふん、どーした。咲かないぞ」
「うるせぇなあ、もうじき咲くんだよ」
「あねさん、こんなやつのふざけた話に付き合うのはやめて、もぉいきましょうよ」

黒べえと虎猫がまた言い合いを始めて
いまにも取っ組み合いになりそうになったとき
大きなお月さまが山の向こうから顔を出した。

「あらまあ、みてよブラ。あれがお月さま」
「ホント。なんてきれいなの」

そして月にてらされた桜の木が池に
クッキリとうつった瞬間、ぱあぁっと
桜が咲き出したの。

三毛ねえさんが大きなため息をついて
うっとりとみとれるほど見事な
桜だった。

もちろん黒べえも虎猫もいまにも喧嘩を
おっぱじめようなんていうのをスッカリ忘れて
月にてらされた満開の桜を眺めてます。

「見事な桜だねぇ」
「へへへ、どーです。いったとおり咲きやしたでしょ。」

虎猫はちっと舌打ちして面白くなさそうな
顔をしていましたが、まあそこはネコ。
何事もなかったかのように月と桜と
のんびりながめだしました。

わたしたちも満開の桜と大きなお月さまに
ウットリです。

黒べえは三毛猫のねぇさんのソバで
ハートマーク満載って雰囲気が
ありあり。

さぁっと風が吹いてきて
桜の木の枝が揺れたと思ったら
ブラがひらひらっと外れそうに。

「きゃああ、ちょっとぉぉ。黒べえっっ」
「黒べえっっブラが飛んじゃうっっ。」

さっと木に登って落ちそうになったブラを
虎猫がなんとかキャッチしてくれたと
ホッとしたところ、今度は私が
池に落ちそうです。

「いやぁぁ、池に落ちるぅぅ」

黒べえが慌てて飛んできたモノの
タッチの差で私は池に。幸い岸の近くだったので
なんとか黒べえが手を伸ばしてすくい上げてくれたけど
もぉびしょびしょです。

「あああ、もぉぉやっぱり外に出るんじゃなかったぁぁ」
わんわん泣く私のソバで黒べえは
おろおろ。

そこに三毛猫がやってきた。
「今日はありがとうよ。あんたたちのお陰で
いいお花見ができたよ。このお礼はきっとするから
機嫌を直しておくれでないかい。今日はこの黒べえに
送らせる。ちゃんとキレイに乾かしてやっておくれだよ、黒べえ」

丁寧に三毛猫から挨拶をされて
私もちょっとは気が落ち着いた。

「まかせておくんなさい、あねさん。ちゃんと
このお嬢さん達はキレイにして乾かしてやりまさぁ」

そのあとはまた黒べえの首にからまって
部屋に戻って、前の時と同じように洗濯機に
ほおりこんで洗濯から乾燥までバッチリ
やってもらって、やれやれです。

前もそうだったけど、この黒べえは意外と
手先が器用で洗濯機くらいは簡単に
操作できる。さすがにたたんで
引き出しにしまうなんてところ
は無理だけど。

その数日後、引き出しの中で
刺激のない平和な一日をブラとのんびり
楽しんでいるところに、黒べえがやってきて
「ねぇさんからのお礼」をおいってったのは
またのお話し。


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WACOAL BODY BOOK版 スペシャルストーリー「私はパンツ」はこちら

アバター
2014/09/21 13:15
どうやって運ぶか考えたんだけどねー(笑)
口でくわえるとブラもパンツも地面をズルズル
しちゃいそうでさー。かなりムリヤリだけど首に
からまって貰いました(゜∇^*)テヘ
アバター
2014/09/21 13:12
WACOAL懸賞ですか~
おもしろいねえ~
展開も抜群だし
黒べえが
首ブラとパンツをからませて行くところなんざ~
笑っちゃいました
いや~
なかなか
「猫」ストーリーとしてもおもしろいよ~
わはははは
アバター
2014/09/20 21:39
ありがさうございますー。
そんなに褒めて頂けるとかえって恥ずかしいような(゜∇^*)テヘ
かがくいひろしさんの「まくらのせんにん」という絵本のようなのが
書きたいなあと思って書いてみましたが、「どこがまくらのせんにんだよ?」
みたいなモノになってしまってます(笑)
アバター
2014/09/20 21:35
かめさん、すごい!
発想がとても面白くていいですね^ ^

それに話の展開も、先が見えるようで見えないワクワク感があって
読んでいるうちにどんどんその世界に引き込まれていました。

登場キャラ達の個性もばっちりで上手く表現されていて
最後までとても楽しく読めました。

ストーリーも構成も上手い!流石ですね^ ^
これは子供に読み聞かせて楽しめる素敵な絵本でありながら
大人にとっても読み応えのある「大人の絵本」でもありますね。

ここまで完成度が高いので当選したことが頷けます。
おめでとうございます!(≧∇≦)ノ☆彡

文字数制限3000字って、一見長そうに感じるけど
いざ書き出してみると短か~い(≧∇≦)ですよね^ ^
アバター
2014/09/20 11:19
あー、ホントはねーちゃんと結末着けたんだけど
ニコットの字数軽減に引っかかって
切ってしまったのでこういう形に(笑)
アバター
2014/09/20 11:15
うんうん(^-^*)(・・*)(^-^*)(・・*)いいお話しでした♪

何で、読んでないんだろう??

続きがあるのよね~読者になるから、よろしくね*^^*
アバター
2014/08/27 21:57
字数制限のため500文字くらい切りました(笑)
書いてる途中、ずっと非公開にしておいたので
後ろの方に流れましたねー。探して読んでもらって感謝です♪
アバター
2014/08/27 21:33
ここに書いてあったなんて気付きませんでした。

リズムがあって面白いですねぇ。
これで終わりかな、と思うとまたどんどん話が進んでいくんですね。



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