Smile again 【第一話】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/07/31 21:59:48
ーSmile again-
いつからだろう、笑えなくなったのは。
いつも私の顔から出るのは愛想笑いだけ…それ以外の笑いはどこにもない。
心底笑う、という事を忘れてしまった私には生きる価値はあるのだろうか……?
いや、無いだろう。そんな声が後を立たないんだ。そんな私はいっそのこと………
……これ以上の言葉を発すのは良くないよね。
* * *
第一話 『悲しき過去』
寒く冷たい風が吹く今日この頃。
あの日を思い出させる嫌な日だった──…。
かじかんだ両手を擦り合わせながら白い息をそっと掛ける。気休めだ。
ふと見上げた空は灰色で、快晴の空はいつしか見れなくなった……。
そんな悲しくて切ない冬の中、一人歩く道。
あの日から別々になってしまった道……。レッドカーペットが敷かれていたはずの道は
いつの間にか真っ白な道になって何も道しるべを作ってくれない。見せてもくれないんだ。
何度泣いただろう。何度彼を想って願っただろう。数え切れない程だった。
ため息を零しながら俯く。辛くて、悲しくて、でも涙はもう枯れ果ててしまった。
こんな私に生きる意味なんてあるのだろうか?疑問だ。
ピルルル....
こんな時間に電話は一人だけだ。
私はため息混じりに携帯を開き、電話を出た。
「もしもし…」
「もしもーしっ!美加?元気無いねぇ」
陽気な声で受話器越しに幸せオーラを放つ友人、武永智里。
同級生の女の子で、将来は自営業でレストランを開きたいとかなんとか。
明るくて楽しげな女の子だけど私とは少し合わないタイプ。……何て言うか、ね。
「別に何ともないよ。…それより何か用?」
「ああ、合コン行かないかなぁって思ってさ!最近振られたらしいじゃん?」
「その情報どこから来たの?」
思わず声に力が入る。“別れた”なんてデリケートな話をすぐに持ちかけてくる……。
こういう所が嫌いなんだよね。まあ、悪気は無いんだろうけどさ。
「そんな事どーでもいいじゃん!丁度今人手足らないから合コン着てよ~」
「そんな事じゃないし、合コンも行かない。じゃあね」
「ちょっ、待っ──…」プツッ....
ツー.....ツー.....ツー.....
強引に電話を切り、ポケットに仕舞う。そして再び歩き始めた。
灰色の雲を見上げながら歩く街中は騒がしくて、うるさい。
人間関係なんてほとんど上辺だ。この世にホンモノの愛など存在しない。
あの人だって…あの恋だって…私はホンモノなんだって信じていたのに………
思い出したくは無い。
もう過去なんて捨てたのだから。
「あの人はもう、いない。」
そんな独り言を呟き、また歩く。
私は一人。これからもずぅっと一人……永遠に一人。
それでいい、永久に一人生きていけばもう傷つくことなどないのだから。
笑顔を取り戻せなくてもこれでいい。もうこれでいいんだ。
誰も傷つかない。勿論、私も傷つかない。
翌日、凍りついた窓ガラスを見つめながら一人休日を過ごす。
智里の陽気な声が耳について離れない。そんな些細な事に苛立ちを覚える。
伏せた写真立てが妙に存在感を放ち、それには切なさを感じる。
あの伏せた写真立てには想い出が沢山詰まっている。彼との…想い出達が沢山。
でも触れてしまえば、もう一度見てしまえば戻れなくなる。もう二度と消せなくなる。
彼への想い、願い、全て。 あの日に帰りたいという気持ちも……。
消す機会は今しかないから。私はもう振り返っちゃダメなんだ。
それでも写真を捨てない理由は……まだ私が彼を──
考えるだけ時間の無駄だ。こんな事言ったってもう彼は帰ってこない。
今頃違う女の子と楽しくやってるに違いない。思い出すだけでゾッとする…あの夜を…。
「お、俺コイツと付き合うから別れてくれ」
「えっ…、いきなり何?意味が分からないんだけど」
「分からなくていいんだよ。とりあえず別れてくれればそれでいい」
「私が良くないよ!何なの…?私達もう4年間も一緒に居るんだよっ!?」
「もう疲れたんだよ!早く別れてくれ。」
そう言い放って出て行った。綺麗な女性と一緒に……。
4年間過ごした私達の思い出は全て捨て去って、かき消すように彼は扉を閉めた。
強引に引っ張ることも連れ戻す事もできずに私は呆然と突っ立っていた。
何度も電話したし、何度もメールした。でも返事は返ってこなかった。
彼は最後の最後まで私を受け入れようとはしなかった。
──思い出してしまった。あの夜を……
「……もう忘れなきゃいけないのにね。」
そんな事を呟きながらアドレス帳を開く。
未だに残る彼のアドレスや電話番号。消せずにいるのは私だけだろう。
頬を伝う涙は私の切ない物語だけを語っていた…。
続く。
すごくわかります。続きが気になります。
お気に入りからの訪問でした。
都筑楽しみにしてますね!