Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


加賀福助と神楽、鬼退治勝負


みんな消えていなくなればいいのに。

夕闇の中、断頭台の下でオレはそこにいる村人を呪った。

「やれ!」と、村長の声がする。

短くつまらない一生だった。

オレは妖怪になってこの村を滅ぼしてやる。

・・・。

降りてくるはずの首を刎(は)ねる刃物は降りて来なかった。

「こんにちは」

そのお方はわざわざしゃがみこみ、オレを見てくれた。

今の安倍家の当主、二代目の晴明様に助けて貰った。

オレは五歳の頃より霊が見える事を晴明様に話した。

ある一家の一人に死の影が見えた。

それを教えて・・・そいつが死んだ。

オレは忠告をしただけなのに・・・オレが殺した事になった。

それで、それでオレは・・・あの断頭台に。

オレはいつの間にか泣いていた。

優しく二代目様はオレを抱きしめてくれた。

そして加賀福助という名も貰った。

十年経ち、オレは妖魔たちを相手に戦っている。

「われここに十字の力を持って、冥府へ送り還す。臨兵闘者皆陣列在前(りんびょうとうしゃかいじんれつざいぜん)、一(いち)」

躰(からだ)は茶色、赤黒い目をした鬼は断末魔の声をあげて黒い渦の中へ消えて行く。

慣れたモノだ。

妖魔など敵では無い。

「おーい、福助」

うん?神楽(かぐら)だ。二代目様の息子で三番目の御子と聞いている。

陰陽師としての腕前はすでに二代目様を超えていると噂だ。

「何だ?」と、オレは神楽を見る。

「陰陽師が仏頂面でどうする?福助、笑顔を忘れちゃいけないよ」

「おい。」
「うん、何だい」
「お前、そんな事をわざわざ言いに来たのか?それより忘れていないだろうな。たくさんの鬼を退治した方が次期三代目になるという事を」

「福助・・・鬼になれば鬼に喰われるよ。特に言葉を話す鬼に出遭ったら、迷わず逃げるんだよ」

「余計なお世話だ。そんな心配よりも鬼退治の心配をするんだな。壺の数は今だ白紙のままだという事を忘れているんじゃないのか。オレはさっきので百体だ」

「へえ。すごいじゃないか、福助。うん、よくがんばっている。でも、そろそろ止めた方がいい。今までは過去世の運、前世の運によりて生かされてきたんだ。無理は身体に毒だよ」

「茶化すな!神楽!過去世?前世だと?違うな、オレが自分でつかんだオレの運だ!オレの実力だ!二代目様の用意してくれた壺は妖魔の魂を集める壺・・・お前の壺は白紙のまま。お前、三代目をオレに譲る気か!それともオレをなめているのか。期限はあと二週間だぞ。わかっているのか、神楽!」

「そう、怒鳴らないでくれよ。なあ、福助。瞑想は続けているか。チャクラをちゃんと練っているか。あまり焦るとほんとに身体を壊すぞ。気をつけろよ」と、神楽は手を振ってどこかへ行こうとする。

「おい、神楽!おい!」と、オレは叫ぶ。

だが、神楽はお構いなくという感じで夜の街の中へ消えて行った。

「ちっ。全く・・・まあ、この調子なら三代目はオレのモノだな」

罪人として断頭台に上がっていたオレが、安倍家の三代目か。

はは。三代目だ。オレこそが三代目だ。よーし、もう一人ぐらい妖魔を狩るか。

古びた神社・・・宇津津宮(うつつみや)神社だったか。

今は神主(かんぬし)もいない、潰れた神社・・・。

それに度重なる殺人事件を起こしているのもあの神社からだ。

きっと妖魔の仕業に違いない。

よし、行ってみるか。

オレはそう決意して、宇津津宮神社へ走った。

走りながら符を確かめる。

まだ十枚ある。十分だ。角を曲がり、細い路地を走る。

男が立っていた。

白装束を着た男だ。

「これより先に行くべからず」

「邪魔だ・・・オレは安倍家の三代目になる男だぞ。そこをどけ」

「これより先に行くべからず」

「どけよ!それとも貴様、妖魔か」

「これより先に行くべからず」

「ええい。うるさい、うるさい、うるさい!臨兵闘者皆陣列在前、一」

符にチャクラを込めて白装束の男に投げつける。

符に当たる前に白装束の男は消えた。

「妖魔だったのか?いや、妖魔なら黒い渦に飲み込まれて消えるはず・・・。じゃあ、あれは一体。
それに敵意も感じれなかった」

細い路地を抜けると、壊れた社(やしろ)の前に妖魔たちが何かを食べている。

人だ。それも男性だ。

妖魔狩りをして、よく見る光景だ。

嫌な奴らめ。

こればかりは慣れない。

さて、気づかれる前にやらなければ。三匹か。不意をつけば何とかなるか。

「臨兵闘者皆陣列在前、一」と、符を飛ばす。

見事に一匹に命中し、黒い渦の中へ断末魔と共に消えて行く。

残り二匹は一斉にかかってきた。

オレは後ろへ素早く下がり、呪(しゅ)を唱える。

もう一匹も撃破する。

さあ、これで終わりだ。

「臨兵闘者皆陣列在前、一」と、符にチャクラを込めようとするが・・・チャクラは出てこない。

「馬鹿な!」と、オレは呪を何度も唱えて符を飛ばそうとする。

茶色の躰をした妖魔はゆっくりと近づき、オレの肩に噛みついた。

「うがぁあああああああ」オレはもがく。

もがきながらも妖魔の腹を蹴飛ばす。

逃げなくては・・・。こんなところで死んでたまるか。




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