加賀福助と神楽、鬼退治勝負
- カテゴリ:自作小説
- 2014/06/18 22:51:36
みんな消えていなくなればいいのに。
夕闇の中、断頭台の下でオレはそこにいる村人を呪った。
「やれ!」と、村長の声がする。
短くつまらない一生だった。
オレは妖怪になってこの村を滅ぼしてやる。
・・・。
降りてくるはずの首を刎(は)ねる刃物は降りて来なかった。
「こんにちは」
そのお方はわざわざしゃがみこみ、オレを見てくれた。
今の安倍家の当主、二代目の晴明様に助けて貰った。
オレは五歳の頃より霊が見える事を晴明様に話した。
ある一家の一人に死の影が見えた。
それを教えて・・・そいつが死んだ。
オレは忠告をしただけなのに・・・オレが殺した事になった。
それで、それでオレは・・・あの断頭台に。
オレはいつの間にか泣いていた。
優しく二代目様はオレを抱きしめてくれた。
そして加賀福助という名も貰った。
十年経ち、オレは妖魔たちを相手に戦っている。
「われここに十字の力を持って、冥府へ送り還す。臨兵闘者皆陣列在前(りんびょうとうしゃかいじんれつざいぜん)、一(いち)」
躰(からだ)は茶色、赤黒い目をした鬼は断末魔の声をあげて黒い渦の中へ消えて行く。
慣れたモノだ。
妖魔など敵では無い。
「おーい、福助」
うん?神楽(かぐら)だ。二代目様の息子で三番目の御子と聞いている。
陰陽師としての腕前はすでに二代目様を超えていると噂だ。
「何だ?」と、オレは神楽を見る。
「陰陽師が仏頂面でどうする?福助、笑顔を忘れちゃいけないよ」
「おい。」
「うん、何だい」
「お前、そんな事をわざわざ言いに来たのか?それより忘れていないだろうな。たくさんの鬼を退治した方が次期三代目になるという事を」
「福助・・・鬼になれば鬼に喰われるよ。特に言葉を話す鬼に出遭ったら、迷わず逃げるんだよ」
「余計なお世話だ。そんな心配よりも鬼退治の心配をするんだな。壺の数は今だ白紙のままだという事を忘れているんじゃないのか。オレはさっきので百体だ」
「へえ。すごいじゃないか、福助。うん、よくがんばっている。でも、そろそろ止めた方がいい。今までは過去世の運、前世の運によりて生かされてきたんだ。無理は身体に毒だよ」
「茶化すな!神楽!過去世?前世だと?違うな、オレが自分でつかんだオレの運だ!オレの実力だ!二代目様の用意してくれた壺は妖魔の魂を集める壺・・・お前の壺は白紙のまま。お前、三代目をオレに譲る気か!それともオレをなめているのか。期限はあと二週間だぞ。わかっているのか、神楽!」
「そう、怒鳴らないでくれよ。なあ、福助。瞑想は続けているか。チャクラをちゃんと練っているか。あまり焦るとほんとに身体を壊すぞ。気をつけろよ」と、神楽は手を振ってどこかへ行こうとする。
「おい、神楽!おい!」と、オレは叫ぶ。
だが、神楽はお構いなくという感じで夜の街の中へ消えて行った。
「ちっ。全く・・・まあ、この調子なら三代目はオレのモノだな」
罪人として断頭台に上がっていたオレが、安倍家の三代目か。
はは。三代目だ。オレこそが三代目だ。よーし、もう一人ぐらい妖魔を狩るか。
古びた神社・・・宇津津宮(うつつみや)神社だったか。
今は神主(かんぬし)もいない、潰れた神社・・・。
それに度重なる殺人事件を起こしているのもあの神社からだ。
きっと妖魔の仕業に違いない。
よし、行ってみるか。
オレはそう決意して、宇津津宮神社へ走った。
走りながら符を確かめる。
まだ十枚ある。十分だ。角を曲がり、細い路地を走る。
男が立っていた。
白装束を着た男だ。
「これより先に行くべからず」
「邪魔だ・・・オレは安倍家の三代目になる男だぞ。そこをどけ」
「これより先に行くべからず」
「どけよ!それとも貴様、妖魔か」
「これより先に行くべからず」
「ええい。うるさい、うるさい、うるさい!臨兵闘者皆陣列在前、一」
符にチャクラを込めて白装束の男に投げつける。
符に当たる前に白装束の男は消えた。
「妖魔だったのか?いや、妖魔なら黒い渦に飲み込まれて消えるはず・・・。じゃあ、あれは一体。
それに敵意も感じれなかった」
細い路地を抜けると、壊れた社(やしろ)の前に妖魔たちが何かを食べている。
人だ。それも男性だ。
妖魔狩りをして、よく見る光景だ。
嫌な奴らめ。
こればかりは慣れない。
さて、気づかれる前にやらなければ。三匹か。不意をつけば何とかなるか。
「臨兵闘者皆陣列在前、一」と、符を飛ばす。
見事に一匹に命中し、黒い渦の中へ断末魔と共に消えて行く。
残り二匹は一斉にかかってきた。
オレは後ろへ素早く下がり、呪(しゅ)を唱える。
もう一匹も撃破する。
さあ、これで終わりだ。
「臨兵闘者皆陣列在前、一」と、符にチャクラを込めようとするが・・・チャクラは出てこない。
「馬鹿な!」と、オレは呪を何度も唱えて符を飛ばそうとする。
茶色の躰をした妖魔はゆっくりと近づき、オレの肩に噛みついた。
「うがぁあああああああ」オレはもがく。
もがきながらも妖魔の腹を蹴飛ばす。
逃げなくては・・・。こんなところで死んでたまるか。