ペンギンの仔 『きゅうり』
- カテゴリ:自作小説
- 2014/06/12 17:46:58
「なんてきれいな水だろう」
ペンギンの (以下仔と略) 仔はうっとりと呟きました。
谷間を流れる大きすぎず小さすぎない川は青く流れて、そこここに小さな魚の影が遊んでいます。
この水でうどんを捏ねたら、とても美味しいに違いない。仔はいそいそとリュックを下ろし準備を始めました。
小麦粉・お塩・ボウル……
「あ」
出汁を入れていたボトルを見て顔が曇ってしまいます。
「しまったぁ、あと一回分しか残っていないや」
これを使ってしまったら次はいつうどんが作れるかわかりません。
「でも、あと一回は食べられる」
小麦粉と塩をボウルに入れて、川の水を混ぜぺちぺちと捏ねたなら、ぺったんぺったん叩きます。
しばらく食べられなくなる最後のうどん。美味しくなってね、おまじないに鼻歌添えて。
♪ 人里に出たら畑を手伝って出汁を分けてもらえるといいな、ふんふんふん ♪
「出汁は無ぇけどキュウリならあるぜ」
仔はびっくり振り返りました。
「君は誰だい?」
「人間はカッパって呼んでいるがな」
「カッパさん? こんにちわ、そのキュウリ譲ってくれるのかい?」
「いいぜ。その美味そうなモンを俺にも分けてくれるならな」
「いいよ。でもこれが最後のうどんだから、あたしと半分こだよ」
交渉は成立です。カッパは仔の隣に座って、うどんの出来るのを待つことにしました。
さて、仔は一本のキュウリを前にちょっと首をかしげます。
暖かいうどんにキュウリを入れて美味しくなるのかしら。
麺をゆでている間考えて、ぴんぽんと頭の中でひらめく音が鳴りました。お爺さんのお店には、冷たいうどんもあったのです。
熱い麺を川の水にさらして、キュウリは半分輪切りに、残りは摩り下ろして出汁に混ぜて、冷たい麺にかけるのです。
丼がひとつしかないので、仔はマグカップに自分の分を入れて丼をカッパに渡しました。
「美味ぇな、いい加減飽きたキュウリも違う味になっていいもんだ」
褒められて、てへっと笑いながら仔も箸を動かします。
「出汁があればもっと作れるのか?」
カッパが聞くので仔は「うん」と頷きました。
「ちょっと待ってろ。俺が調達してきてやらぁ」
「カッパさん出汁を持っているのかい?」
「俺は持ってねぇけど、ある所を知ってるぜ」
しばらく待っていると出汁醤油の入った瓶を持ってカッパが戻ってきました。
「これでもう一杯作ってくれ。今度は半分じゃねぇやつをな」
「凄いや」
喜んで蓋を捻ると、それはまだ新品の瓶でした。
ふわりと香ばしい空気が広がります。びっくりするくらい美味しいうどんが作れそうです。
「こんないい物どこにあったんだろう」
「下の雑貨屋からちょろまかしてきたんだ」
得意な顔でカッパが『へへん』と鼻をこすったのを見て、仔の顔が急に蒼褪めました。
「盗んだのかい!」
「いいんだよ、人間は少なくなって買う奴も居ねぇ。ずっと棚に置きっぱなしだ。
なら美味く使ってやった方がいいに決まってるってもんだ」
「だめだよ、あたしはこれを使えないよ」
カッパは「はぁ?」と仔を睨みます。
でも、仔も譲りません。
お爺さんのお店に来るお客さんは皆良い人だったけど、良い人ばかりでもありませんでした。
うどんを待っている間に読んでもらう雑誌、トイレの棚にある買い置きのペーパー、色んな物をちよっとずつこっそり持って行ってしまう人。
その度にお爺さんは寂しそうな顔で深い溜息を吐くのです。
通りすがりの旅人は、もうこの店に来ないだろうから「返してくれ」と言う事はできません。
『この一冊の本やペーパー一個買うのに、もまた何杯うどんを売ればいいのやら、なぁ』
雑貨屋さんがお爺さんと同じ、寂しそうな顔で吐く溜息を想像して、仔も深い溜息を吐きました。
「でも今さら返せねぇだろ。もう封も開けちまったしよ。割り切って使っちまえよ」
「だめだよ」
けれど確かに、封を開けてしまった瓶は返せないし、ふたりともお金だって持っていません。
「お爺さん、あたしはどうすればいいんだい?」
溜息を何度も吐きながら、仔はまたうどんを捏ね始めました。
さっきと同じ冷たいうどん。これを食べると心も冷たくなってしまいそうです。
もしかしたらさっき貰ったキュウリも同じように、盗んだものなのでしょうか。
尋ねるとカッパは急に怒りだしました。
「これは俺の祠に供えてもらったもんだ!」
「祠?」
カッパには『祠』という家があったのです。そこに人間がお供えを置いてゆくのです。
「昔はいろんなモンを供えてくれたのによ、この何十年かキュウリばっかりになっちまってよ。
魚とキュウリばっかり食って、もう飽き飽きなんだよ」
何十年かぶりに食べた、魚とキュウリ以外の味はどれだけの感激だったでしょう。
「でも人の物を盗むのはダメなんだ」
「ちっ」カッパは舌打ちをして、仔から目を逸らしました。
「だったら、よぉ……」
ふたりは新しく出来たきゅうりうどんを、雑貨屋さんに持っていきます。
お婆さんが席を立つ隙を見て、こっそりテーブルに置いてゆきます。
出汁の代金にはほど遠いけれど、ごめんなさい、ありがとうの気持ちをたくさん練り捏ねました。
この気持ちを食べてください。
出汁は返せなくなったけど、大事に大事に使います。
だけど……
「今度は粉が無くなっちゃったよ。最後の一杯が作れるほどしか残ってないよ。
また半分になるけど、それでもいいなら作ってあげるよ」
カッパは「ありがとう」と小さく呟いて頷きました。
お供えのキュウリももうありません。全部雑貨屋さんの為に使いました。
次のうどんは麺だけの素うどんです。
仔がぺったんぺったん捏ねていると、祠に人がやってきました。
「げっ雑貨屋だ」
盗んだ事がばれたのか。カッパは木の陰に隠れます。
けれどお婆さんは祠に向かって屈むと両手を合わせ
「美味しいうどん、誰が持ってきてくれたやら。
お礼の言う相手がわからんからここにお礼を置いてゆきますよ」
お婆さんの背中を見送って、カッパは供え物のキュウリを手に取りました。
そしてひと口、がぶり。
「美味ぇ。キュウリってこんなに美味かったんだな」
ほとほとと涙がこぼれます。
「お婆さんのありがとうの味なんだね」
仔が半分この丼を手渡しました。
「いや、これはお前が食いな。今度は俺がそっちを食うよ」
マグカップに入ったうどん。
丼の方が見た目もきれいで美味しいのに、と言うと
「お前の気持ちをさっき食ったからな、今度はお前が俺の……」
ありがとうを食う番だ。でも照れくさくなって最後まで言えずに、カッパはマグカップのうどんを啜りました。
ねぇ、何でこんなに美味しいのかな。
具も入っていないただの冷たい、半分このうどんなのに。
次は小麦粉を求めて旅に出るよ、よっこらしょとリュックを背負う仔の背中を見送りながら
「お前がまたうどんを作りに来れるように、ここの水がきれいなようにこの川は俺が守るぜ。
だからまた……」
こちらこそ、いつも無言立ち寄りで読み逃げばかりさせていただいております(^_^;)
ニコでお店屋さんが出来るという時に、
うどん屋さんが出来ればいいなぁ~と思っていたのだけど
ちょっと想像と違うお店屋さんでしたww
いつも来訪&今回のコメント、ありがとうございました(´▽`)
息子自慢の方も読んでくださってありがとうございます~^^
きっとこの川の奥にはカッパの隠れ里とかあって
皆仲良く暮らしてるんだろうけど、
このカッパは悪さをするので追い出されたんですよ、きっと(今思いついたww)
想像上の生き物なので、寿命は無い、という事でww
読んでくださってありがとうございました~(´▽`)
読んでくださってありがとうございます~(´▽`)
このまま書き進めて行くとペンギンの仔が悟りに至った世捨て人のようになりそうなので、
次はちょっぴり物わかりの悪い仔で書きたいと思ってます(・∀・)
素敵なお話を、ありがとうございました。
お店の方に、お伺いしていたのですが、
なぜ?おうどん?と思っていたのです。
ありがとうございます。
息子さん自慢、とても素敵でした。
またおじゃまさせてください。
ありがとうございました。
長生きしてくれよ!!!
仔の旅は、まだまだ続きそうですね。。。
心があったまります。
キャラの口調、結構頑張って作りました(・∀・)
ちなみにペンギンの仔の口調は、とある漫画の主人公を真似ております(マテ)
お料理の味って、その時の作った人、食べる人の気持ち次第で
同じように作っていても変わりますよね^^
どうせ食べるなら美味しい気持ちの味がいいですね^^
今回も読んでくださってありがとうございました♡
岡山が都会なのは新幹線が停まる駅周辺だけのように覚えているのですがww
そのうち舞台はまた都会へと戻ってゆくかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いいたします(・∀・)
今回も読んでくださってありがとうございました♡
そうなんですよ!
ペンギンがよちよちと歩いて旅する姿を見れば
誰だって優しく、施しや善行のひとつもしたくなるはず!
と、意識して書いてみましたww
今回も読んでくださってありがとうございました♡
日本は山や川の水がそのまま飲めるという、とても恵まれた環境です。
こっこちゃま方面にも、美味しい湧水山水の場所が絶対あります。
そういう物をいつまでも美味しくいただけるように、大事に守ってゆきたいですね^^
今回も読んでくださってありがとうございました♡
お出汁をちょっと濃いめに作って、摩り下ろしたキュウリを混ぜると
お葱とか薬味が無くてもそれっぽくいただけるのです(・∀・)
キュウリの青臭さが嫌だと言う人もいますが……
よかったらぜひ一度試してみてください^^
今回も読んでくださってありがとうございました♡
昨今の殺伐とした世の中で、のほほん~と何か書けたらいいなぁと思いました^^
きっとペンギンの仔はのんびりのほほん~とこれからも歩いてゆくのでしょう^^
今回も読んでくださってありがとうございました♡
最初にキャラ設定を何でもアリにしちゃったので
これからも何てもアリなとんでもないキャラクターをどんどん出していけたらいいなと^^
昨今は殺伐としたニュースが多いので
そういう方向でのほほん~と続けたいなと思います^^
今回も読んでくださってありがとうございました♡
ニュースを開けば殺伐とした話題ばかりの昨今、
いい人ばっかりに恵まれる、ある意味ご都合主義な気もしますが
どうせ物語なのだからそんなものがあってもいいなぁと思います^^
きっとこれからもこのシリーズを書いたら、いい人ばっかりなのでしょうww
最後の三行、何度もキャッシュ消したりして試したのだけど
結局修正できませんでしたー><
でもそのうち書きもらしている部分とか書き直して自サイトで更新します(・∀・)
…そのうちって、いつだろう…
半分こは色んな意味で美味しいですね^^
譲り合う気持ちとか、同じ物を一緒に食べる共通感とか、
普段喧嘩ばかりしている関係でも、この瞬間はとても仲良くなれるんでしょう。
今回も読んでくださってありがとうございました♡
そもそもペン仔に尻仔玉があるのだろうか…ww
カッパさん、きっとうどんが気になっちゃって尻仔玉抜くの忘れちゃったんですよww
今回も読んでくださってありがとうございました♡
いいお話でした。
登場キャラの口調で、情景と雰囲気がすっごく出てると思います。
岡山と言う都会育ちの僕にとっては物語の舞台もとても魅力的で夏を感じました^^
伝説の生き物が住んでそうなくらいキレイですもんね^^
キレイなお水とキレイな心が いつまでも守られますようにw
いい話だから。
うどんを作りながら次はどんな出会いが待ってるのか楽しみですvvv(≧▽≦)
人からの想い。
ペンギンの仔やカッパからの想い。
少し目頭が熱くなって…
でも、いい人に出会って欲しいなって思うお話でした。
壁紙は、綺麗な流水の緑いっぱいの小川でしょうか。
こういう色の見えるお話は、背景のあるホームページで読みたいと思います。
どうして、ラスト3行上書きできないんでしょうね~
キャッシュ消して、明日の日付になったら再チャレンジしてみたら如何でしょう。
折角の3行が沈んでします(T_T)
そしておばあさんの気持ち。
仔の気持ち。
カッパの気持ち。
みんな、おいしい気持ち^^♪
出会って別れて、別れて出会って。
今度は誰と出会うのでしょう。
できたら、小麦粉を持っている誰かがいいな。
何でだろう、最後の三行入れると更新できない(´・ω・`)