泣いても笑ってもニュクス様
- カテゴリ:自作小説
- 2014/06/09 22:27:01
雨の降りの教会の窓から街道で遊ぶ子どもたちの声を聴く。
「わぁー雨だ、雨だ」と、男の子。
「えへへ、ばしゃーーん」と、水溜まりに自らジャンプして飛び込む女の子。
他愛もない世界・・・。
窓のガラスに映る黒髪をさわり、神楽(かぐら)はふと後ろを振り返る。
見ると、赤茶色の中央扉が今にも開こうとしている。
きっとマールだ。そう思い神楽は符を一枚、窓ガラスを上に押し上げ、外へ捨てた。
少しどてっと太っている短い赤髪の女性、マールはシスターの礼服姿でつかつかと、神楽の前へやってくる。
「見つけましたよ。神楽様・・・悪魔退治をしてもらうためにも精をつけてもらわないと困ります」
「大丈夫・・・大丈夫。もう手筈は打ってあるから」
「そうではなく。朝ごはんです。今日こそは逃がしませんよ」と、神楽の襟首をつかみ、持ち上げて連れて行く。
重さはある。しかし・・・彼女が連れ出したのは金に輝く符一枚だった。
符から符への魂の移動。
その移動の間に垣間見る黒い傘、黒い帽子、黒いイブニングドレス・・・何よりも真紅に輝く瞳と虹色に輝く長い髪。
とても人間とは思えない。彼女はいつも玉座に座り、その傍らには四人の大天使と七人の悪魔王たちが跪いている。
一体彼女は何者なのか。
そしてどうして自分の魂をいつも移動させてくれるのか。
それはまだ神楽には分からない事だった。
雨の降る中、知らない西洋の街道を雨に濡れる事も無く、歩き続ける。
水が属。それが神楽の属性だ。
雨粒をまるで階段を上がるようにひょいひょいと登って行く。
教会の鐘の下にある狭い空間にひょいっと降り立つ。
そこで寝転び、時は過ぎた。
夜の集会、オーガを暴くための集会だ。
今回のオーガは何度か人間の心臓を食べているので、人間に化ける事ができる。
それで見破る事ができずにいるのだ。
今日もオーガは自分が殺した誰かに化けて教会に来ている。
見破る事ができなければまた犠牲者は増えて行く。
「ひぃふぅみぃ・・・二十人。以外に集まったじゃない」
「あの神楽さん、ほんとにこんな紙切れで見破れるんですか?」
「まあまあ、ボクを信じて任せる」
「はい」と、しぶしぶマールは符を配ってくれた。
誰からどう見てもただの紙切れだ。
その紙切れに神楽の気を入れる。
符は金に輝き、呪を発動させる。
後ろの席に座っていた男性が青白く燃え上がる。
「キャー、火事だわ。大変よー」と、マールは素直に叫んでくれる。
「大丈夫、すぐに消えるよ」と、神楽は言う。
炎がおさまると、頭に二本の角を生やし、筋骨隆々な姿をしたオーガが現われた。
瞳の色はうっすらと赤い。
「うがぁああああああああああああ」と、オーガは雄叫びを上げる。
周囲の逃げ出そうとしていた人たちの動きを止める。
(そうこなくっちゃ)と、ボクは舌でクチビルを舐めた。
ボクは懐から小刀を取り出し、一指し指を傷つける。
一滴の血をしたたらせ、円陣を完成させる。
「フェンリル!」
真紅の目をした氷の狼。魔王の部類に属するボクの分身。
今度はオーガが動けなくなる。
悪魔同士の戦いは「怖がった」方の負け。
「喰らえ!」と、ボクは命ずる。
オーガは何もできないまま喰われた。
教会に残っている人間たちから・・・忌み嫌われる目線で視られる。
(やはり外国でも一緒か。)
ボクはフェンリルを小さくし、教会の赤茶色の扉を開けて出て行った。
続くかもしれません。しかし、ストーリーの連結性はありません。
物語としては一話限りで終わっています。
あい