Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


それでも、私は 【 後編 】

それでも、私は 【 後編 】



あれからいくつもの季節を過ごした。
ボーッと突っ立って過ぎていく季節は感触がなかった。
刻一刻と過ぎる時間は手を伸ばしても止まってくれない。触れさせてもくれない。
指先で感じるのはただ過ぎ行く時間と季節だけだ。
それが悲しくて涙を不意に零してしまう。

「・・・翔太」

一人孤独な部屋で彼の名を呼ぶ。
手首で伏せた目は何も映らず、真っ暗だ。だが、一筋の光のように彼だけ浮かばせる。
そして走馬灯のように次々と彼との思い出がフラッシュバックするのだ。
笑い合った日、泣きあった日、喧嘩して仲直りした日、手を繋いで歩いた日──。
全てが美しくて涙が止まらない。

「──翔太、会いたい。」

ただの独り言。誰も聞いてはくれない。

「どこにいるの?会いたい。」

声なき声は届くこともない。ただ孤独に浮かんで消えるだけ。
何も見えない天井に伸ばした手は何もつかめない。
ただ私は彼が目の前にいることを想像する。そして、それに向かって手を伸ばす。
何も感触がないのは分かってる。何もつかめないのは分かってる。
それでも、私は手を伸ばす。

そんな時だった。
不意に携帯電話が鳴り響いた。
慌てて起き上がり、確認する。画面には大きく彼の名前があった。
大きく息を呑み、電話に出る。

「・・・はいっ」

微かに震えた声で呟く。
途端に聞こえた救急車の音と、人の騒ぎ声。
そして微かに震えた声と鼻をすする声が聞こえた。

「・・・翔太?どうしたの?」

嫌な予感と胸騒ぎが収まらず、思わず携帯を両手で握る。
数秒後、電話の主はようやく声を出してくれた。

「もしもし、突然の電話ごめんなさい。」

その声はとても美しく、透き通った声だった。
戸惑いを隠しきれず、震えた声で答えた。

「い、いえ。」

「私、翔太の姉です。貴方にどうしても伝えたくて・・・」

「な、何をですか?」

「──実は」

全て理由を聞いた瞬間、私は携帯を落とした。
数分間、動けず硬直状態に陥っていた。
目は瞬きを忘れ、ぱっちりと見開いている。指先はガタガタと震え始めた。
優しい気候は次第に荒い気候へと変わり、髪を何度も叩き付けた。
電話の向こう側で震えながら話す彼女・・・。

「翔太が事故に巻き込まれちゃって・・・。子供を助けようとしたら車に撥ねられたみたい。
運転手は悪くないって言われてるし、子供の親は罪悪感に苛まれてるし・・・。
しかも、翔太は意識不明の重体なの。それで、昔よく話を聞いてた貴方に電話したんだけど・・・。」

「翔太は・・・彼は今どこに?」

「○○病院。大きなところだから大丈夫と思うけど──・・・。」

「わかりました・・・。」

そんな会話をしてからもう数分が経つ。
準備にもすごく時間が掛かってしまった。
ようやくタクシーを捕まえて、病院に着くと、言ったとおり彼女は居た。

「あ・・・、来てくれてありがとう。」

小さく手を振って歩み寄る。
私はそれより翔太が気になって仕方が無かった。

「翔太は・・・」

「うん、こっちよ。」

手招きされて向かった先は大きな病室。
ノックして入ると、そこには呼吸器をつけた彼が眠っていた。
私は口を手で覆い、棒立ちして見下げるしかできなかった──。
その隣でお姉さんは涙ながらに言ってくれた。

「貴方の事ずっと話してた。別れた後もずっとずっと言ってたのよ」

「え・・・?」

「貴方に会いたいってずっと言ってたわ。写真を眺めて・・・」

「・・・翔太が?」

そんな話を聞いて驚いた。
彼から切り出してきた別れだったのに・・・。

「翔太・・・、ごめんね。」

「謝らないで。翔太はきっとそんなこと望んでないわ」

「──ありがとう、ごめんなさい。」

彼の手を握り、そっと目を閉じる。
共に流れる涙は彼との思い出を物語っていた。

◆ ◆ ◆

それから私は毎日お見舞いに行った。
彼の意識が戻るまで・・・彼の隣に居ると決めた。
彼が目を覚ましたら、昔のように戻ろうって言ってみようって決めた。
それまで、私は彼のために生きる。それが昔の生きがいでもあったから。
何も苦しくない。彼の隣に居れば幸せだから。

「翔太、今日も来ちゃった。」

なんて言いながら丸椅子に腰を下ろし、微笑む。
彼の顔は、昔寄り添って寝たときの寝顔と何も変わっていなかった。
握った手の温もりだって何も変わってはいなかった。

「相変わらずだね。」

ついそう言ってしまうほどだ。だが彼は答えてくれない。
目を覚ましていたらなんていってただろう。
「お前もな」って笑ってくれた?それとも「今更戻るな」って叱られる?
それでも、私は彼の傍に居る。いや、居たい。
このまま目を覚まさなくても・・・、傍に居たい。

「ごめんね、こんな彼女で。って、もう彼女じゃないんだけどさ」

苦笑いを浮かべ、拳を握り締める。
この場で大きく叫びたい。「君が好きだ」って。「今でも好きだ」って。
ずっとずっと会いたかったんだよ、って・・・言いたい。

その時だった。彼は突然目を開いた。

「──翔太!?」

そう大きく叫ぶと、彼はもう一度目を閉じた。
そして、彼は微かに私の手を握り返してくれた。
だが、意識は戻ってないようだ。

「・・・翔太っ」

もう少しできっと彼は目を覚ます。
その“もう少し”がどれだけかは分からない。でも、きっともう少しで会える。
本当の彼に。それがもし何年先であっても・・・何十年先でも・・・

それでも、私は貴方を愛して待ち続ける。

アバター
2014/05/06 14:13
今回もステキなお話ですね。
想い合っている心は綺麗で、とても強いものなんだと思いました!!
アバター
2014/05/06 12:45
本当にいなくなってしまってから、気づくこと沢山ありますよね。
アバター
2014/05/06 03:02

はじめまして♪
こんばんは\(^▽^)/!

私はサブアカウントで
ブログ小説を書かせてもらっております
紅覇-koha- でございます♪

現在、「揺らぐ心に君の手を」という作品を書かせていただいております。

私の実際経験したことをもとに、作らせていただいております♪
よければ見ていただけたらいいなって思ってます!

ぜひ、一度見ていただけると嬉しいです!



失礼しました。




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