Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


それでも、私は 【 前編 】

それでも、私は 【 前編 】


「本当に行っちゃうの?」

「ああ、じゃ」

本音はいつも心のどこかに隠れて出てこない。
出てきてもその言葉は捻じ曲がって現われる──。
それを決して“本音”とは言わない。それは“偽り”と言うんだ。

「うん、バイバイ。」

偽りと化した本音は誰のためにもならない。
臆病な自分を庇うわけでもない。ただ自分の心に後悔を生むだけ。
それでも素直になれないのは・・・どうしてだろう?

◆ ◆ ◆

寒い気候が体を叩く夜、私は一人缶コーヒーを握りながら座っていた。
公園のベンチは特に冷たくて、風通しも良かった。
大きな風で靡く髪は、後ろの木のほうへと揺れていた──。
その横に立つ大きな時計の針が九時を刺した時、私の目の前に彼が現われる。
それまで、私は缶コーヒーを湯たんぽ代わりにし、待つ。
そして九時を針が刺した時、現われた。
彼は大きなマフラーを首に掛け、クセッ毛をクシャ、と撫でながら息を切らす。

「ごめん、待った?」

微かに掠れた声でそう尋ねる。
私はゆっくり首を左右に振って、微笑んだ。
途端に彼は「よかった」と小さく囁き、私の隣に腰を落とした。
そこから数分の沈黙が続く。これはお約束とも言っていいほど毎回の事だった。
だが数分後、しっかりと会話のラリーは続く。

「そういえばさぁ・・・」

「うん」

適当な会話、他愛もない会話が続く。
そして時間が来ればすぐに私たちは潔く別れる。
お互い、永遠の別れが来るとはこの時思いもしていなかったから。

「──じゃ、そろそろ」

「うん、またねー」

今思えば、この頃から友達感覚だったのかもしれない。
「またね」という言葉がいつも最後だった。
いつでも会えるって思ってた。正直、彼氏という価値観を失いつつあったのかもしれない。
私たちには「別れ」という意識がなかった。会えば笑う。それだけだった。
だが別れというモノは唐突にきて、嵐のように去っていくのだ。
別れは予感をさせない。本当に唐突なのだ。

「・・・そろそろ終わりにしない?こういうの。」

「え?」

「なんていうか、俺達って曖昧な関係じゃん?正味、友達と変わらない。」

「──・・・。」

何とも言えない。いつだって素直になれないのが私の悪い癖だ。
別れを実感した瞬間、本当に大事なモノに気づく。
だがその時はもう手遅れで、手を伸ばしても届かない存在になっている・・・。
彼の切なげな横顔を見てようやく気づく。やっぱり彼が好きだって。
でも気づいたときにはもう遅い。

「・・・そう・・・だね。」

そう答えるしかなくなっている。いつだってこうだ。
そしてすぐに別れは去る。

「じゃあもうこれで・・・。さよなら」

「──うん。」

別れの言葉が「またね」じゃなくなる時──、本当の別れを告げる。
引き止める言葉も教わってない私はただその場に立ち竦む。
彼を今引き止めても出る言葉はきっとつまらない。
彼を引き止めるほどの価値はきっと持っていない・・・。
無価値の私には何もない。空っぽだ。
彼がいたからこそ私の価値観はあった。彼のおかげで生きる意味も学べた。
なのにこれからどう生きればいいの。
そう塞ぎこんだ時、もう君は隣に居ない。
「俺が居るよ」って笑ってくれない。

あの日に戻りたい──・・・。
そんな願いは遥か遠くの空へ消える。


続く。

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2014/04/29 20:41
この切なさ共感できます・・・(´;ω;`)



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