恋の芽が出る頃に 【 第三十五章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/04/23 21:29:29
第三十五章 『愛する資格』
「拓斗!次あれ乗ろうよー!」
「えぇ、もう疲れたって・・・」
「いいから~!」
ずっとずっと憧れてた遊園地デートが叶った。
拓斗と何度か約束はしてたけど、行けた事は一度もなかったから。
私は強引に拓斗の腕を掴んで観覧車に押し込んだ。
彼氏と一度は乗ってみたい、って思ってたアトラクションだから今日は本当に嬉しい。
そんな感情が滲み出てつい笑みがこぼれた。
「・・・楽しい?」
二人きりの空間で口火を切る拓斗。
私は大きく頷いて窓に視線を戻した。
こんな空間でさすがに視線を絡ませるのは気まずい。
だが拓斗は視線を外そうとしなかった。むしろ見つめて微笑んでいた。
そんな微笑が窓に映って鼓動が早くなる。
「な、何?」
思い切って尋ねる。
すると拓斗はプハッと笑って左右に首を振った。
「何もない。ただ・・・幸せだなって」
そう微笑む彼にまたドキッと胸の奥を揺さぶられる。
そして微かに昔を思い出してしまった。
あの頃の・・・私が坂谷君に受けた衝撃と、今の衝撃が似ていたからだ。
「──ごめん、変な事言ったね。」
寂しげに視線を逸らす彼。慌てて私は訂正した。
「ううん!そうじゃなくて。その・・・、私も幸せ、だし」
そう答えると、彼は顔を明るくさせて笑った。
「そっか」と赤らむ彼の笑顔は誰よりも可愛くて、輝いていた。
こっちまで微笑んでしまうような・・・そんな笑顔だった。
そして、ついこんな言葉が毀れた。
「・・・ごめんね、拓斗。」
「え?」
その時、頭にあったのは坂谷君との事。
あの日あの時、実際私は拓斗を忘れて彼を想っていた。
こんなに想ってくれている拓斗を切り捨てようとしてた──・・・。
いや、むしろ利用しようとしてた。諦められない理由にしようとしていた。
「私、拓斗が好き。本当だよ」
そう告げると、彼は頬を赤らめて私を抱き寄せた。
そして、吐息を耳に掛けながらそっとこう言った。
「知ってる。分かってる!」
そんな陽気な声に涙が込み上げる。
今まであんなに傷つけたのに、変わらず居てくれる。
昔と変わらない陽気な声で私をこうやって抱き締めてくれる・・・。
彼の背中に腕を回して、そっと目を閉じる。途端に落ちる涙は彼が掬い上げてくれた。
きっとこの気持ちは変わらない、ずっと、きっと。
その時、突然電話が鳴り響いた。
「──っと、ごめん!電話みたい。」
「・・・あ、うん。」
それは私の携帯ではなくて、彼の携帯だった。
珍しくてつい目を丸くしてしまう。彼はあまり携帯鳴らないから・・・。
「・・・!」
「? どうしたの?」
そう尋ねるや否や彼は慌てて電話を切り、携帯を仕舞う。
そして冷や汗を流しながら無言で首を振った。
首を捻り、もう一度尋ねても言葉は返ってこなかった。
私の頭の「?」は消えず、帰宅時になってもそのしこりは消えなかった。
夜道で二人、遊園地の帰りにも関わらずテンションが低かった。
拓斗もあの電話以来、あまり口火を切らなくなった。何故か静かになってしまったのだ。
あの携帯には何が表示されていたのだろう。あんな彼はじめてみた・・・。
夜道は段々と暗くなっていき、家に着いた時には十一時を回っていた。
「ヤバイね、早く寝なきゃ。」
そう言いながら鍵を開けて、中に入る。
途端に振り返ると、棒立ちしている拓斗が居た。
「・・・入らないの?」
尋ねると、彼は真っ青な顔で私に言った。
「ごめん、今日は帰る。・・・またな」
「──えっ?」
事情も言わず彼は走って帰ってしまった。
何事か私にはまったく分からない。むしろこんな事初めてでパニックに陥っている。
彼がここまで携帯の着信で焦りを見せたりするのは初めてだ。
もしかしてご両親の様態が悪くなった、とか倒れたとかじゃ──・・・。
まさか私に黙って平気な振りしてたけど病院から電話来たとか?
「拓斗っ!!」
じっとはしてられず、慌てて走った。
彼の家は知ってるし、今ならきっと間に合う。そう信じて拓斗の背を追いかけた。
予想通り拓斗の背中にすぐに追いつき、手を伸ばした。
「たくっ──・・・」
その時、僅か数mの距離で私は見た。
拓斗が美しいスレンダーな美女と話しているところを。
彼女の茶色い髪の毛に彼は触れて、肩を抱き寄せている・・・。
「・・・嘘でしょ?」
まさかさっきの電話の相手は彼女?慌てて切った理由は・・・アレ?
いやいや、拓斗に限ってそれだけは無い・・・と信じたいけど。
もしそうでも私に責める資格があると思えない。もしそうであっても私も待つことを選ぼう。
でも・・・もしそれが本当だったら・・・
「・・・拓斗」
貴方を愛してもいいのか分からない。
◆続く◆
すごく続き気になります!
面白くなりそうです♪
楽しみにまっています
順調にみえた拓斗君と夏芽ちゃん。まさかの女の影………
これからどうなるのかハラハラドキドキです。
はやく続きが読みたい!!!!