Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


恋の芽が出る頃に 【 第三十二章 】

第三十二章 『 轢き逃げ犯 』



あれは一種のケジメなんだ、と自分に言い聞かせながら歩く。
どこかも分からないホテルに連れて行かれて、彷徨う。
なかなかタクシーの捕まらない道路に突っ立っていると、背後に気配を感じた。
力強く捕まれた腕と共に振り返った私の体。そして目に映る息切れした男の姿──。
私はただ体を強張らせながら身を引き、軽蔑するような目で彼を見つめた。
ようやく開けた口から出た言葉は「…何?」の一言だった。聞いて彼も体を強張らせる。
そして重い口をゆっくりと岩石を持ち上げるように言い放った。


「 送るよ、連れてきたの俺だし。 」

「 いい、てか本当に貴方とは二度と会いたくない。 」

「 俺の言うとおりにしろって、ほら鞄持つよ… 」

「 いいってば!触んないで! 」


思い切り腕を振り払って彼を突き飛ばした。
女の最大限の力を彼の体に込めて思い切り押した。
途端に尻餅をつく彼の姿を見て、私は慌ててその場を去った──。
真っ赤な手形が残った腕に視点を落としながら道路の真ん中を歩く。
信号のある大道路の所で足を止め、ふと信号を見上げた瞬間…真っ赤に光った。
「え?」と声を上げた時にはもう遅かった。言葉にできない程の衝撃を体に走った。
道路に叩きつけられた衝撃、そしてその後に駆け寄る人々の影を見ながら意識を失った。


救急車の音と共に運ばれた先は大きな病院。
私は様々な技術を施され、なんとか一命は取りとめたらしい。
だがまだ意識は不明の状態。私は闇の森を彷徨っているような気分だった。


◆ ◆ ◆


「 …──はい、では。 」


会議中、睡魔に襲われながらも無事終わらせる事ができた。
世界で一番大事な人と離れてから僕の人生はまるっきり変わってしまった。
手探りをいれながらではないと歩けない…まるで迷宮に迷いこんでしまったように。
離れてからやっと気づいた。俺にとって大事な人なだけでなく、道しるべだったんだと。
彼女は俺にとってやっぱり居なければいけない存在なんだって改めて実感した。
彼女と離れて少しずつ成長したと思う。でもそれは、まったく違う意味で。
…成長というか改めて感じさせられた。“彼女が必要”、と。それだけだ。


そう確信した瞬間、置き去りにしていた電話が鳴り響いた。
彼女と離れてあまり鳴る事のなかった電話が久々に鳴って驚く。
期待を胸に電話を手に取ると、そこには知らない番号が並べられていた。
眉を潜め、怪しみながらも恐る恐る画面をスライドさせた。


「 もしもし? 」

「 城田!?お前何してんだよ! 」

「 …──は? 」

「 まさかお前…聞いてねぇの? 」

「 聞いてないって…何を… 」

「 実は──、 」


聞いた時俺は世界が壊れたように見えた。
視界が暗黒に包まれ、激しい眩暈と頭痛に襲われる。
そして夏芽との思い出が次々と蘇る。これが走馬灯ってヤツか…。
俺は頭を抱え込み、とにかくソイツに病院名を聞いて急いで病院へ向かった。
通勤は電車のため、タクシーで行くしか手段はなかった。今日に限って渋滞になる。
「もういいです」と言い放ち、お金だけ払って走って病院に向かった。
そして走りながら思い出す。友人から聞いた話を──。


──彼女、夏芽ちゃん。重体だそうだ。
ついさっき病院を通り掛かったらそんな事を言っていた。
交通事故らしい。しかも轢き逃げ事故。轢いた瞬間あり得ないスピード出したらしい。
救急車を呼んでくれた目撃者が事情聴取されていたのを聞いたんだ。
…で、お前夏芽ちゃんの彼氏だったろ?だから教えたほうがいいだろうなと思ってさ。


そうこうしている内に気づけば病院に着いていた。
大型病院、長谷川病院。そこに夏芽が居る。久々の再会になる。
まさか久々の再会が感動じゃなくて、最悪の形になるなんてな。
それに夏芽は意識不明の重体。そんな姿を想像しただけで涙が込み上げてくる。
ボロボロの姿で横たわってるのだろうか。どこか怪我しているに違いない。
俺は廊下を駆け、夏芽の居る部屋のドアノブを握った。一旦深呼吸し、ドアノブを捻る。
ゆっくりと扉をスライドさせ、覗くとそこには呼吸器をつけた一人の女性が寝込んでいた。
ボロボロだけど、間違いなく夏芽だった。柔らかい頬には布を被せられ、頭はガーゼで包まれている。
きっと大きな衝撃を得たのだろう。そして腕は包帯でグルグル巻き状態だ。


──…一体誰がこんな事を。


轢き逃げ犯に怒りを込めながら、無傷の頬を撫でる。
その肌はあの頃と変わらず柔らかくてスベスベな肌だった──。
それは悲しいほどに…。あの頃とまったく同じだった。
僕は唇を噛み締め、枯れた頬に一筋の涙を伝わせた。
一体誰なんだ、夏芽。お前は轢いた犯人を見たはずだ。一体誰だったんだ。
まさかあの時一緒に食事した上司だとか言っていた男か?そうなのか?
何もいわない夏芽を見下ろしながら、俺は頬を撫で続けた。そうすれば意識が戻るって
気がしてならなかったからだ。…それが叶うか、叶わないか分からない。ただの気休め。
でもそれでも…少しでも夏芽の…。今の夏芽のためになるならそれでいい。


そう微笑んだ瞬間、扉が開いた。
振り返った瞬間、そこには連絡をくれた友人が立っていた。


「 よお。やっぱ来たかー 」

「 当たり前だろ?ほっとけるわけがない。 」

「 そうだよなぁ。誰よりも大事にしてたもんな夏芽ちゃんの事。 」

「 ・・・まあな。で?轢き逃げ犯は今どこに? 」

「 そうそう、それ伝えようと思って来たんだわ。 」


そう言いながら丸椅子に腰を落とす。俺は体を友人に向け、友人もこちらに向けた。
そして準備万端という体勢になった後、友人は一拍置いて話し始めた。


「 実はさ、その轢き逃げ犯なんだけど──。
 どうやら夏芽ちゃんとはまったく無関係の男だったらしい。 」

「 無関係・・・って事は、偶然轢いてしまったって事か? 」

「 詳しくは分からんが、恐らく。無関係で意図的に轢くとは思えん。
 それに取調べ中、ずっと夏芽ちゃんの話をしながら体が震えていたそうだ。 」

「 ・・・そうか。 」


渋々頷き、なんとなくだけど納得した。というより安心したのだ。
彼女を轢いたのが本当にあの男だったら・・・、考えるだけで恐ろしい。
俺は安堵の表情でまた彼女の頬を撫で始める。そんな姿を見て友人は微笑む。


「 意識戻したらどうすんだ? 」

「 ・・・どうするって? 」

「 もうそろそろプロポーズでもしてもいい時期だろ。 」

「 はははっ、まだ始まったばかりだよ。 」

「 よく言うぜ、大学時代から付き合ってたの見てるんだぞ?俺。 」

「 ・・・お前は全て見てないだろ? 」

「 それ、どういう意味だよ? 」


途端に沈黙に包まれ、僕達は黙り込んだ。


「 ・・・これだけ言っとく、お前は大事なモノは手放すな。 」

「 なんだよ、それ。 」


冗談っぽく笑うと、途端に彼は真剣な表情で俺を指差す。
まるで俺の全てを指摘されているようで、ならなかった。
そして眉を歪めてため息を零し、言った。


「 お前はすぐ身を引く癖がある。たまには奪う事も覚えろよ? 」

「 お前、俺の事ずっと見てたのか? 」


苦笑いで尋ねると、友人はガシッと俺の方を掴んで言った。


「 何年一緒に居ると思ってんだよ! 」


得意気に笑う彼の笑顔にこれまでも何度も救われてきた。
そして俺は今日も…また、この笑顔に救われたんだ。
「いい笑顔してんな」と、微笑むと、夏芽の指がピクリと動いた。



◆続く◆

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2014/04/03 23:14
ぱち公さん
いつもありがとうございます!
たくとくん優しいし、私もそーなってほしい。
しかし、夏芽ちゃんはどうするんでしょうね笑
続きをお楽しみに!笑
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2014/04/03 13:36
今回も面白かったです
拓斗君には個人的に奪ってほしいですねw
あくまで個人的な意見ですが・・・

続き楽しみにしています!
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2014/03/30 21:44
萌えた生ゴミさん>>
いつも本当にありがとうございます。
その言葉たちに励まされますd(ゝ∀・*)!
新着ブログ、読み切りとかも書いてるので…うるさかったらすみません。
ストーリーに自信がないので、そう言われて嬉しいです。
これからも頑張りますね❤️
アバター
2014/03/30 15:10
きゃあ、夏芽ちゃん・・・(´;ω;`)
続きめっちゃ楽しみにしてます^^
っていうか、友達の新着ブログ見た瞬間飛んできましたw

よくこんなにストーリー頭に浮かびますね☆彡
わたしなんか全く思いつかないですww
これからもよろしくお願いいたします



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