傍に居るから 【 後編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/29 01:40:17
傍に居るから 【 後編/短編小説 】
腕の中で涙を流す彼女を見ながら、自問した。
これは自己満足なんじゃないかってね。
でも何度尋ねたって帰ってくるのは彼女の鼻を啜る音だけ。
僕の望んでる答えなんて…帰ってきやしないんだ。
彼女の唇をずっと奪いたいって思ってた。
あの頃からずっと…。でもそれは叶わないって思ってた。
いや、思わなくてはならないって自分に言い聞かせ続けてたんだ。
卒園してからは彼女の瞳に僕が映ることはまったくと言っていいほどなかったからね。
それでも遠くから僕は彼女の事を見ていた。
…ずっと言っていってしまったらストーカーみたいになっちゃうけどさっ。
でも本当にずっと見てた。家隣だし、嫌でも登下校会っちゃうしね。
彼女に彼氏できてからは登下校会いたくないから時間ずらしたけど…なぜか会ってたな。
悪縁なんだか、いい縁なんだかあの時は心底悩んだよ。
でも…だからこそ今僕の腕の中に彼女が居て、そしてキスしてる事が信じられないんだ。
頬は濡れたままで、たまに当たるとひやりと冷たい感触が走る…──。
本当は分かってるんだ。体を重ねあっても心はまったく通い合ってないって言うこと。
そして彼女の心にはまだ…まだアイツが住んでいるって言う事もさ。
寂し気に揺れ続ける扇風機の風がやけに虚しい。
彼女の揺れる茶色い髪がやけに靡いて悲しくなる。
もうあの頃の彼女じゃないんだって示されているような気がして。
神様はどうしてこんなに美しい幼馴染を僕に渡したんだ。
こんな美しい人生むんだったら、僕ももっと輝かしい人にしてくれよ。
それだったら彼女の心も、手だって掴んで逃げる事も追いかける事もできたのに。
こんな平凡な僕じゃ彼女を追いかける事も逃げる事も許されないような気がするんだ。
ねえ、やっぱり僕は罪悪感で耐えられない。
「 …──ッ、淳平? 」
思い切り突き放し、彼女の肩を握る。
透き通った黒い瞳に映る僕の姿はあまりにも悲惨だった。
“本当に僕か?”と疑ってしまうほどボロボロの姿で、彼女を見ていた。
それでも僕はただ首を左右に振って、扉を開いた。
虚しく音を鳴らす古い扉。僕は顎で合図をしながら彼女に訴えた。
…──早く帰れ、と。
彼女はただ無言でそれを受け入れ、鞄を背負って静かに出て行く。
静寂に包まれた部屋でただ一つ、彼女の小さな足音だけが鳴り響く。
一歩、また一歩と重ねる足音が途絶えた瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
すごく複雑な心境だ。
まるでクレヨンで塗りつぶしたような…そんな気分。
彼女の香りがほのかにまだ残っているこの部屋で、僕は窓を全開にする。
もうできるだけ彼女の事は思い出さないで置こう、って考えた。
やっぱり…、僕達が結ばれるなんて許されないんだよ。
天と地の差なんだ。……僕なんて、どうせ彼女の手を握ることも許されない。
嘘で塗り固められた彼女の口から出た「愛してる」 嘘でも嬉しかった。
……それが聞けただけで十分だ。
窓の外を見上げ、溜息を零す。
その溜息にすべての思いを込めて…──。
◆ ◆ ◆
蝉の声が聞えなくなった秋中、僕は一人通学路を歩く。
もう登下校で彼女と会う事は無くなった。あれ以来僕が避けてるからだ。
学校で会っても、目も合わさないようにした。すれ違う時も見向きもしない。
彼女が他の男に笑顔を向けても、不機嫌にならないようにもした。
僕は僕のできる事をしたまでだ。
そして彼女はすぐにあの男とヨリを戻した。
皆「どうせ戻るだろう」って言ってたけど…事実だったんだなぁ。
あの時はやっぱり一時の感情だったんだ。あれ以上行かなくて本当によかった。
僕がもし…もしあの時彼女にそのまま交際を申し込んでいたらどうなってただろう?
…──やめよう、考えるだけで無駄だな。
交際を申し込んでも結局はあのキザ男が好きな訳なんだからな。
とにかく僕はこの第二校舎から微笑んで祝福するよ。
そして僕に可愛い彼女できたらちゃーんと祝福してくれよ?絶対だからな?
僕は君と距離を置くけど…家隣だからどうせまた会う事になるだろうな。
その時は笑顔で「やあ、元気?」って言えるくらいになっとくから。
それまでは君も…もうあんな事せずにソイツと仲良くやってくれよな。
でも、もし…。 もし、またああなったら……
前の僕だったら無理だったけど、今だったら言える。
君が泣き止むまで…傍に居るから。
◆終わり◆
切ないですよね…。
奥深いですか?そう言っていただけてうれしいです^^
コメントありがとうございます。