傍に居るから 【 前編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/28 00:27:44
傍に居るからね 【 前編/短編小説 】
傍に居るからね、と君へと手を伸ばす。
だが君の小さな掌は僕の手を握ろうとしない。
君の輝いた瞳が向く先は僕なんか居ない。…他の誰かだ。
それでも君が泣いてる時には傍に居たい。
君がアイツのせいで傷ついた時でも傍に居たい。
そして…、君が泣きやんで雲が晴れるまで隣で共に居たい。
…──これくらいは願ってもいいよね?
◆ ◆ ◆
僕達の出会いはあまり覚えていない。
赤ちゃんの頃から共に育って、記憶があるのは5歳くらいからだ。
物心が出来た時から既に僕の心には彼女が住んでいた。
隙間も無いほど彼女は大きく心の中で段々大きくなっていった──。
小さな手で無邪気に笑い、「こっちに来て!」と手を引っ張る君の後姿。
僕はただそんな姿を赤らめてみることしかできなかった。
…それが落とし穴だった。
小学生になると同時に彼女はモテ始めた。
元々美人で笑顔がとても無邪気な可愛らしい人だった。
冷たいけど、温かさもしっかりとあって…その手は誰よりも温もりがあった。
そんな事を一番知ってるのは僕なのに……
彼女の視界に入る機会は段々と薄れていっていつの間にか僕は映らなくなっていた。
小学生になって告白される機会も増え、彼女はどんどん綺麗になっていった──。
僕なんかまったく追いつかないくらい美しくなって、別世界の人のようだった。
だが僕の気持ちだけは変わる事もなく、ただ必死に咲き続けていた。
でも──、君は違った。
君はあの無邪気な笑顔を別の人に向け続けたよね。
15歳の頃、初めて君が彼氏を作った時の事。
僕はその噂を耳にして思わず教室を飛び出してしまった。
慌てて君の居る教室に入ると、そこには他の男と親しげに話す彼女の姿…。
信じられなくて…でも目の前に居るのは間違いなく彼女で…。
僕は絶望から抜け出せず、その場に膝から崩れ落ちた。
不思議そうに僕を見つめる彼女の目。それが久しぶりに僕に向けた視線だった──…。
15歳の冬…。僕は一人で寂し気に歩いていた。
ふと窓を見た瞬間、楽しそうに彼氏と歩く彼女の横顔。
夕日に照らされてオレンジ色に輝いた君の横顔がとても美しく見えて……
僕は存在意義を唱えた。
彼女が僕を知らない世界に住んでるようで…
視界に入ることすらできなくなってしまった世界が嫌になって…。
ついに僕の瞳からは涙が溢れていた。
そして──、16歳になった高校1年生。
◆ ◆ ◆
「 あぁ~、暑いなぁ 」
ゴロゴロとマンガを読みながらくつろぐ彼女が僕の目の前に居る。
なぜか、とは聞きたくも無い。学校で噂は広まっていたからな。
僕はただ冷たいジュースを片手に彼女に差し出した。
パアッと顔を明るくさせ、ジュースを流し込む。
そしてあの頃と変わらない無邪気で僕のほうへ向くのだ。
「 ありがと、淳平! 」
その笑顔…15歳の時に見たかったよ。
心底そう思った瞬間、彼女の携帯が鳴り響いた。
突如冷たい空気に包まれた部屋で陽気に流れるメロディー。
彼女は顔を暗くさせながら、電話のボタンを押した。
途端にメロディーは止み、元の空気に戻る。
そして彼女の顔も陽気に戻った。
「 ごめんねーッ! 」
どうしてそんなに無邪気に笑うの?
本当は言葉にできない程傷ついてるくせに…。
「 その…なんて言うか…勧誘の電話だから気にしないでね 」
勧誘の電話であそこまで暗い顔するわけないじゃん。
いくら馬鹿な僕でも気づけるよ…。
君はもう忘れちゃったの?
僕との思い出…そして僕がどんな人だったかを──…。
あんなに馬鹿で天然だって笑ってたあの無邪気な頃はもう覚えてない?
「私、淳平のお嫁さんになるねっ」って言ってくれたのに…それももう…忘れた?
そんな事を考えていると、思わず彼女を抱きしめていた。
本当に無意識で気づいたときにはもう遅かった。
「 …──淳平? 」
目を丸くして、ただ困惑する彼女の姿。
小さな肩をガタガタと震わせながら僕の胸にしがみ付く。
僕もただ困惑し、戸惑う。だがしかし、ここまで来た以上引き返せない。
彼女の髪を撫で、目を閉じる。
視線を下へ落とせば僕を上目遣いで見てる彼女が映った。
その姿に思わず戸惑い、目を背ける。その刹那、彼女は僕の服を思い切りつかんだ。
薄いピンク色の唇を輝かせ、こう言った。
「 淳平…もう少しこのままでいて…? 」
言い終えると、胸に顔を埋めて肩を震わせた。
声を押し殺しているが、僕には分かる。
必死に肩で呼吸をしながら泣いている彼女を…──。
今僕ができるのはこうやって抱き締めることだけだろう。
僕は彼女が求めている男になれやしない。
でも…彼女が今求めている僕になることはできるんだから──。
だから今は精一杯彼女の望むことをしよう。
それがいくら自分が傷つき、傷口を抉ることになったとしても…。
そう誓い、僕は彼女の額にキスを落とす。
そして彼女は微笑んで僕に言ったんだ。
「 淳平、愛してる。 」
その言葉は嫌でも分かるほど嘘で塗り固められている。
それでも…彼女の声で響いたその言葉はずっと望んでいたモノだから…。
僕は我慢できず唇をそっと近づけ、キスをしてしまった。
無理して受け入れている彼女の体は強張り、ただ震えている。
そんな肩を必死に支えながら僕は心の中で言った。
…──神様、どうか今だけは許してください、と。
◆続く◆
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