春の頬 【 最終編2/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/27 02:10:13
春の頬 【 最終章2/短編小説 】
◆ ◆ ◆
「 本当ッ!?結婚してくれるの…? 」
「 ああ、小林…いや、愛美。 」
まだぎこちない様子を見せながらも、俺は呼び方を変えた。
女を下の名前で呼んだのは亜美香とコイツだけだ。
俺が呼び方を変えた途端、小林は目の色を変えた。
「 パパにも言わなきゃ~!
…──あ、パパの会社で働けるようにしとくわねっ 」
「 …サンキュー。 」
拒む理由も、拒む訳もない。
何故なら俺はこのために結婚を受け入れたんだ。
亜美香をも諦めて…お前を妻として受け入れるのはこれだけのためだ。
膝の上に置いた拳を握り締めながら、目を逸らす。
その瞬間、小林はフォークの先を指先でつまみながら言った。
「 …──で?亜美香の事は? 」
昔から亜美香との関係を気にしていた小林。
亜美香と俺を引き裂くためにあんなモノを用意したくらいだからな。
気に掛けるのも無理ないし、俺の事を好きになったら尚更亜美香が憎いだろうな。
…ここで結婚を断ってたら亜美香に火花が散ってたかもしれない。
そういう意味でも結婚を受け入れてよかったのかも。
そんな事を考えていると、小林が両頬を膨らませて身を乗り出した。
「 ちょっとぉ!ど・う・な・の!? 」
フォークの矛先をこちらに向け、口を尖らせる。
俺は両手を上げながらただ左右に首を振るだけ。
「完全に終わりました」なんて軽々しく口に出すことは絶対できない。
俺自体未練があるのは否めないし、それに今亜美香が現れたらきっと…
小林なんか眼中にもなくなって、亜美香しか視界に入れなくなるだろう。
それがバレてしまっては、一環の終わりだからなっ。
「 終わったって事でいいの? 」
矛先を向けたまま隙間から俺を睨む。
そんな視線から目を逸らしながらも俺は頷いた。
俺の頷きを確認した後、溜息を零して足を組んで言った。
「 じゃ、契約完了って事で。 」
言い終え、口角を斜めに上げて見せた。
俺は唾をゴクリと飲み込み、身を犠牲にすると心に誓った。
今まで迷惑掛けた恩返しだ、と何度も心で唱える。じゃなきゃやってられない。
初恋の…人生で何よりも大事な女を傷付けた奴と結婚するなんて前代未聞だからな。
目を閉じ、深呼吸。
その瞬間にフラッシュバックする亜美香の笑顔を必死にかき消す。
だがまったく消えてくれない…。むしろ走馬灯のように蘇るばかりだ。
これじゃ結婚生活をしても未練があるとバレてしまう…。
慌てて目を開けた瞬間、俺の視界にあり得ない者が映りこんだ。
「 …──は? 」
目を見開き、目を擦ってみてみる。
だがそこに居たのは間違いなくあの彼女だった。
だが昔とは風貌がまったく違う。
真っ赤なルージュ、ラメ入りのミニドレス…。
昔の清楚な印象から、大人の色気を漂わせる魔性のような女性になっている。
それでも俺にはわかる…あの笑顔…笑顔だけは何も変わってない。
「 亜美── 」
手を伸ばし、呼び止めようとした途端彼女は姿を消した。
どうやらトイレの方向へと向かったようだ。
彼女を今追いかけなくては一生後悔するだろう。
そう思った俺は立ち上がって小林に告げ、トイレに向かった。
彼女のミニドレス姿を必死に追っていると突然振り返られた。
動揺と驚きを隠せない俺は目を泳がせて尋ねた。
「 …亜美香だよな? 」
その刹那、彼女は突然涙を目に溜め込んだ。
塗りたくったファンデーションの上に零れる涙。
背伸びした睫毛がただ揺れ、震えているように見えた。
似合わない真っ赤な唇は震わせ、薄く開いた。
そして俺に訴えるように言った。
「 ──消えて。 」
たったその一言で彼女は背を向け、去ろうとする。
その瞬間、俺は彼女の腕を無意識に掴んでいた。
振り返る瞬間に靡く茶色い髪。クセッ毛はなくなっていたものの、色は変わってなかった。
あの春の公園で撫でた茶色い髪は今も同じように香りを漂わせて靡いている。
その姿に驚きながら、俺は口を開いた。
「 い、行くなよ 」
精一杯の声を出し切り、言い終える。
途端に彼女は俺の腕を必死に振り払おうとした。
だが男の力を最大限に利用する俺に勝てるわけもない。
亜美香は素直に諦め、腕を下ろした。
まったく人気のないトイレで二人きりの世界に包まれる。
そして上目遣いで俺を見る亜美香の目はもう当時に戻っていた。
きっと俺もさっきの決心はあっさり壊され、当時の目の色に戻っているはずだ。
心はまだ繋がっていたと信じてもいいのだろうか?
自問した瞬間、亜美香は俺の手に指を絡めた。
そして一筋の涙を流して呟いた。
「 ごめんなさい 」
突然の謝罪に疑問を抱きながら、「何が?」と尋ねる。
途端に彼女は涙を増やし、唇を震わせて言った。
「 貴方があの時罪なかったって今更わかったの。
…でも、でももう6年も経って会えなくなってしまって。 」
ファンデーションの上に滴る涙。
そして彼女の睫毛が上に向いた瞬間、俺は唇を奪った。
当時に戻った気分だった。
服はまったく違うのに、制服のような気分で──…
目の前に居る亜美香は当時とは別人のようなのに、あの頃のままに感じて…。
俺が今頬を撫でているこの女性はやっぱり誰よりも美しいなって。
やっぱりあの頃と変わらない想いがずっと胸にあったんだなって──。
俺は二度と…亜美香以外の女性を愛すことはできないんだなぁって──…。
そんな感情に浸った瞬間、亜美香は言った。
「 私血迷ってたみたい。
変な男と付き合っちゃったしね。 」
きっと迅の事だろうと勘付く。
そして俺も小林と婚約した事を告げた。
その瞬間、亜美香はキョトンとした顔で言った。
「 …──え?
私あの子と結婚するって言って別れ告げられたんだけど? 」
その言葉を聞き終え、目を丸くした瞬間…一通のメールが届く。
『 To.愛してた人
私は違う男と幸せになりまーすっ。
てことで芝居に付き合ってくれてありがとねっ!
あとは亜美香と上手くやってください…。
あと、6年前は陥れてごめんなさい。罪滅ぼしになればいいなっ…。 』
「 …小林 」
読み終えた瞬間、俺は彼女を抱き締めた。
幻でもなく、現実世界の彼女を。
そして小さく竦めた肩を何度も撫でながら耳元で囁いた。
「 愛してる。もう放さない。 」
彼女は小さく頷き、俺に言った。
「 約束ね。 」
そして俺たちはいつまでもいつまでも幸せに暮らすと誓う。
小指と小指が絡めあった瞬間、薄っすらと俺には見えたんだ。
運命を繋ぐ赤い糸が。
◆終わり◆
この読みきりは少し自信がなかったのですが──…
そういっていただけて本当に安心しました笑
次回はどんな作品にしようか考え中です(たぶんすぐに決まる笑)
ということでお楽しみに~♪
最後まで、いっきに読んじゃいました♪
次回も楽しみにしています!