恋の芽が出る頃に 【 第二十九章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/20 20:38:05
第二十九章 『 真実を語る時 』
鳴り響き続ける携帯をただ只管眺め、凍りつく。
そんな私を見て不安げに歩み寄る拓斗。
そして携帯のほうへ視線を向けた瞬間、共に拓斗も凍りついた。
目を見開き、無言で私を見る。
休日に男から電話が来ているなんて…そりゃ嫌だよね。
私は慌てて電話の電源を切り、拓斗の首に腕を巻きつけた──。
突然の事で驚いたが、すぐに拓斗は受け入れてくれた。
少し震える肩を優しく撫でながら「大丈夫」と温かい声で囁く。
私はただ力強く目を瞑り、只管首に巻きつき、彼の温もりだけに集中した。
静かな部屋には「大丈夫」という拓斗の声しか響かない。
だが私の頭では何度も陽気な着信音が流れ続けた。
拓斗の「大丈夫」という声にさえ集中できないほど…ずっと。
数分経ち、拓斗はゆっくり私を離す。
目涙を溜め込みながら、必死に唇を噛み締めて堪える。
ただ無言を貫き、優しく大きな手で頭を撫でる拓斗…。
そんな彼なりの優しさにまた涙が零れそうになり、服の裾で目を拭う。
その瞬間に目に入った携帯。
そしてあの頃の坂谷君の笑顔と、柔らかい声。
私は結局あの人と居る時、あの人の事を考えてしまうのだろうか。
少し会っただけで、蘇らなかった記憶が次々と蘇ってしまう。
それはやっぱり私の心に…微かな隙間に彼がいるからだろうか?
愛すると決めた者を前にして、私は何を考えているのだろうか──…?
このままじゃ、駄目なんだ。
しっかり、くっきりケジメつけてこなくちゃいけない。
自分の心に言い聞かせなきゃやってられない生活はもう…嫌なの。
抱き寄せる彼の胸を突き放し、涙を頬に伝わせながら笑って言った。
「 私…貴方に隠してた事があるの… 」
伝える時がきたんだ。
彼に真実を語り、そして全てを終わらせる時が──…
「 …実はね、私 」
全てを語って、全てを終わらせる。
私の想いを彼に押し通すのはもう嫌。彼が私のために身を削るのはもう嫌。
私の過去のせいで…彼が傷つくのはもう嫌なの──。
彼の手を強く握りながら、高校時代の真実を語る。
坂谷君が好きだった事、そして本当は上司ではない事、
そして私は高校を追い出されたという事──…。
高校で陥れられた事もはなした。
高校を追い出された理由も、仕掛けた人も。
全て私は悪の罠に嵌められたんだという事を──…。
そんな残酷な話を彼はただ眉を歪めて、目を見開いて聞いた。
握る手は段々震え、首を小さく左右に振る。
そんな彼の姿を必死に受け入れながら、涙を流して全てを語る…。
そして全て語り終わった瞬間、私は言った。
「 ケジメをつける。
…だから、その間…その間だけはっ… 」
私は拓斗を巻き込むことだけはしたくなかった。
すると、拓斗は涙を頬に伝わせ、優しく私の頬を撫でた。
柔らかく、変わらない笑みでコクリと頷いて言った。
「 ──…待ってる。ずっと… 」
その言葉に安心し、強く強く抱き締めた。
これで最後かもしれない…彼に抱き締められるのは──。
坂谷君への想いを断ち切るにはきっと自分の犠牲が大きいだろう。
もう…会えなくなるのかもしれない。
それくらい大きなことだから──。
でも──…
「 …… 」
もう愛してるなんて軽々しく言えないけど、いつかきっと言えるよね。
坂谷君への気持ちを断ち切ればきっと…全て終わる。
拓斗との完全な幸せが来る…明るい未来だけが私を待ってる。
…そのためなら、自分の胸の傷なんて抉っても構わない。
もう自分に言い聞かせて仮面を被る必要だってなくなるんだ…。
「 …さよなら、拓斗。 」
微笑んで手を握る。
その瞬間、無言でただ涙を流す彼の表情は…二度と忘れられない。
◆続く◆
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