Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


恋の芽が出る頃に 【 第二十八章 】

第二十八章 『 愛のキスと偽りのキス 』



「 ほら、入って? 」


ベロベロに酔った拓斗を抱え、入る寝室。
拓斗はもう体がよれよれでとても歩けそうになかった。
大きなダブルベッドにボフッと音を立てて寝転がらせる。


一段落し、額の汗を拭う。
ここまで酔う拓斗を見たのは初めてだし、運ぶ程飲むなんてあり得ない。
拓斗は私に気を遣ってくれてたのか、お酒はあまり飲むほうじゃなかった。
付き合った当初も「弱いから飲めない」と言ってたのに…無理して飲んでくれたのね。


もしかして、私の上司だからって思って…?
上手くしなきゃって思ってたからあんなに緊張してたの…?


そんな事を思いながら拓斗の頬を撫でる。
零れそうになる涙を抑え、ベットから立ち上がろうとした瞬間…
グッと力強いモノに引き寄せられ、ベッドに倒れこんだ。


「 拓斗ッ…!? 」


酔っていたと思っていた拓斗の目はいつも通りに戻り、顔の赤さも収まっていた。
真剣な眼差しで私を見つめながら、そっと私の頬を撫でながら耳に髪を掛ける。
紅潮する頬を見て彼は薄っすらと笑みを浮かべて、柔らかい光に包まれる寝室で
そっと額にキスを落とした。オレンジ色の部屋に包まれながら目を瞑る。


なんだか不思議な気分になってしまう。
久しぶりの私からのキス。彼は驚きを隠せない様子で私を見る。
だが次第に彼も受け入れ、ベッドの上で私を強く抱き締めた。


「 …愛してる、拓斗。 」


自然に零れた言葉。
返って来る答えを期待しながら目を閉じる。


だがしかし、拓斗の言葉は一切聞えてこなかった。
沈黙を貫き、ただ私を強く強く抱き締めるだけ。
オレンジ色に包まれる寝室で何も進展しないまま、時は過ぎる。
次第に拓斗は私の耳元にキスを落とし、寝室を後にした──……。


ドアノブを捻り、閉める音が鳴り響く。
途端に寂しさに苛まれ、涙が込み上げて行く──。
シーツを握り締め、唇を噛み締めた瞬間、扉が開いた。


「 夏芽?泣いてるのか…? 」


ハチミツ水を両手に歩み寄る拓斗。
差し伸べられたハチミツ水を啜り、涙を拭う。
拓斗は優しく大きな手で私の頬を撫でながら、指で涙を拭ってくれた。


途端に涙が溢れる。
彼の温かさで雪解けになっていくような──…そんな気分。
また彼の腕に包まれ、そっと腕に頬を摺り寄せる。
後頭部を優しく撫でられ、不意に笑みが零れた瞬間、キスを交わす。


そして肩に手を置き、彼は微笑んで言った。


「 大丈夫だよ、夏芽。

 俺は離れたりしないし、どんな時でも傍に居るから。 」


その言葉に胸を打たれ、笑みと共に涙が溢れる。
そして抱き寄せられる身を任せ、彼に寄り添う。


やがて、夜は明けて素晴らしい朝が来るのだ──。



◆ ◆ ◆



「 勇…?今日は機嫌が悪いわね? 」


美由の歪んだ眉を少し睨みながら、ネクタイを外す。
溜息を零し、ベッドにネクタイを叩きつける。
そんな俺にちまちまと駆け寄りながらネクタイを拾う妻の姿。


今日はやけに彼女の存在が苛立たしく、眉間にシワが寄る。
突然俺の腕を掴み、細い指を一本ずつ落として言って甘い声で言った。


「 …ねえ、お義母さんがね言ってたの。 」


嫌な予感が胸を騒がせ、俺の声のトーンを下げさせた。
眉間のシワを深まらせながら尋ねた。


「 何て? 」


尋ねると、美由は頬を紅潮させて答えた。


「 孫が…欲しいって言ってるのよっ 」


──…やっぱりコレか。


心でポツリと呟き、まるで聞かなかった事のようにスーツを直す。
そして彼女の居る寝室から離れてベランダに出た。
彼女も後をつけてきたが、俺の背中を見つめて黙っているだけだった。
チラリと横目で見ると、唇を噛み締め、高級感溢れる服を握り締めている。


そして心で囁く。


…孫だと?冗談じゃねぇ。
お前と子供は作る気なんてさらさらねぇよ。
あの日あの時お前は夏芽を困らせた張本人じゃねぇか。
そんなお前とどうして今こうして夫婦生活を送ってるのか…察しつかねぇのか?


まあいい。そのうち分かる日が来る。
今はそれなりの事をして、満足させておこう。


「 …来い、美由 」


柔らかい風に包まれながら手を伸ばしてやる。
途端に彼女の顔は明るくなり、俺の手を力強く握り、駆け寄った。
そして絡め合う視線を感じながら、ゆっくりと鼻と鼻を擦り合わせて口付けを交わす。


その瞬間、俺は薄っすら目を開けて見ていた。
彼女のキスを楽しむ姿、そして夏芽を陥れた奴の目を──。



◆ ◆ ◆



ぽわぁ~と外を眺めていると、突然背に来る温もり。
包み込む腕に身を任せて靠れかかる。
そして首を斜めに上げて、ゆっくりと口付けを交わす。


そんなまったりとした休日に突然鳴り響いた着信音──。
「ちょっと待ってね?」と告げて画面を覗いた瞬間体が凍りついた。


「 誰から…? 」


不安げに尋ねる拓斗。
だが私は沈黙を貫いた──。


だってそこに書かれていた主の招待は───



◆続く◆

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~コメントについて~

いつも温かいコメントありがとうございます。
毎度毎度励みにさせて頂いております。
いつもの事ながら、今回もここで貰ったコメはここで返させていただきます。
お手数ですが、お返事のコメントはここで拝見くださいますよう、お願い致します。

アバター
2014/03/20 19:18
∞月妃∞さん>>
素晴らしいコメント誠にありがとうございます。
一文一文読ませて頂いて、とても感激しております。
思わず涙腺を刺激させられるほどのコメントで…恐縮です。
読者さんに「楽しい」や「世界に入り込める」などのコメントをいただけることが
作者としても、とても励みになって書く気と新しい世界へ挑戦する勇気へと変わります!
今後も月妃さん、そして皆様を楽しませられる作者になれるよう頑張っていきます。
アバター
2014/03/20 02:05
やっぱり凄いです!!!!
読んでると楽しくて,ドキドキして。言葉に言い表せないほどの感情が沢山出てきます!!!!!

前回書かせて貰った感想の返事??みたいな物なんですけど,aichaさんの作品はどれも私を小説の世界に引き込んでくれてます!!!!!

次の話も楽しみに待っています!!!!





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