春の頬 【 後編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/19 23:48:48
春の頬 【 後編/短編小説 】
あれから数日で俺と亜美香は結ばれた。
まるで運命が俺たちを引き付けたかのようにスムーズに行った。
…だが、付き合ってからの問題はそう簡単には片付いてくれはしない。
亜美香を合コンに連れてきた小林は俺を狙っていたらしく、亜美香に激怒。
毎日のように睨まれたり陰口を言われる日々が続いた──。
一方俺も今までずっと共に居た迅は嘘のように離れて行き、俺とすれ違うのも拒んだ。
それでも俺たちは愛し合うことをやめなかった。
理由は単純。俺が亜美香を愛し、亜美香も愛してくれているから。
それは絡め合う指先から通じる温もりと震えが全て語っていた。
迅も小林も次第に俺たちに呆れたのか何もしなくなった。
小林は亜美香に話しかけ、迅も開き直って俺に声を掛けるようになった。
お互いこれでめでたしめでたしなのかな、と笑い合った──。
だが、そんなある日の事。
大雨が降り続く最悪の天候の日、俺は一人居残りをしていた。
亜美香には風邪を引くから先に帰る様に告げていたため、いつもより寂しい教室。
シャーペンの音と雨が打つ音が鳴り響く教室。俺は一人溜息を零す。
そんな時だった…。
勢いよく扉がスライドされ、黒く焼けた顔を出す。
一歩脚を踏み入れただけで香る香水の匂いと、金髪の髪。
…小林だ。
「 あれっ?残ってたんだぁっ。 」
わざとらしく首を傾げ、顎に指先を置く。
いつも以上にぷるっと潤った唇に目が行ってしまう。
俺はまるで誘惑しているようにしか見えず、慌てて目を逸らす。
短いスカートをヒラヒラと舞わせ、足音をゆっくり鳴らす。
細い指先でクルクルと髪を巻きながら不適な笑みを浮かべた。
それと共に俺も片方の眉を歪めて「?」の表情を浮かべて事情を尋ねた。
すると俺の方に一本ずつ指を重ね、耳元で囁く。
「 …今亜美香が何やってるか知ってる? 」
太股をゆっくりと俺の脚に乗せ、香水の香りを漂わせる。
誘惑している…。しかも亜美香の話題を出しているという事はやっぱり──…
「 お前やっぱ亜美香許してなかったんだな… 」
ポツリと呟くと小林はフッと鼻息を耳に掛けてゆっくり離れた。
ヒラッと両手を広げて肩を竦める。そしてクイッと首を小さく傾げた。
その仕草に妙に苛立ちを覚え、そして不適な笑みに気味悪さを感じる。
俺はガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、小林を壁に追い込んだ。
逃げられないよう両腕で逃げ場を塞ぎ、これでもかというくらい睨む。
その瞬間──、耳元で鳴り響くシャッター音と眩しいフラッシュ。
一瞬でこれが何なのか分かり、小林から離れる。
そんな俺を見て勝気な表情で笑みを浮かべる小林。
片手には小さく宝石が散りばめられたカメラを持ち、パチッとウインクを投げた。
「 …罠か。 」
気づいた時には彼女のSDカードに保存されていた。
◆ ◆ ◆
今日は先帰ってと言われたけど…
こんな大雨の中一人帰るなんて寂しい…。
そんな事を思いながら傘を片手に下駄箱の前に座り込む。
はあと溜息を零すその瞬間、ローファーの音が鳴り響いた。
顔をパアッと明るくし、覗いてみるとそこに立っていたのは──…
「 …迅君 」
合コンで初めて知り合った男子。
ポケットに手を突っ込んで不適な笑みを浮かべている。
私はギョロギョロと目を泳がせて、指をそわそわ絡めさせる。
彼の笑みが怖くて、気味悪くて直視できない。
俯いていると、彼は突然私の顎を鷲掴みにして壁に押し倒した。
そんな光景に陥った瞬間、フラッシュとシャッター音が鳴り響き渡る。
その方向に目を向けると、何もない。
そして迅君は逃げるように背を向けて去っていった──。
気づいた時にはもう手遅れで、脱力してその場に崩れる。
さっきのシャッター音は確実に悪意のある瞬間だった。
いくらなんでもタイミングが良すぎるし、仕組まれてないモノだったらおかしい。
…樹は大丈夫かな。
彼の心配をそっとしながら傘を握り締めた。
◆ ◆ ◆
翌日、俺が予想した通り写真で脅された。
「亜美香に見せちゃうよ?」と…。
もちろん、事実ではないからばら撒かれてもいいのだが──…
無駄に亜美香に心配させたくない。
俺自身で、一人で解決していかなくてはならないんだ。
こんな小林の脅しなんかに負けるほどの関係ではないから。
…その日以降、俺は必死に交渉した。
「私と付き合うのが条件」といい続けて条件を変えない小林。
俺は毎日のように小林と密会を重ね続けた。
肩をマッサージしながら退屈そうに溜息を零す小林を見たのは何回目だろう。
だが、もうここまで交渉すればきっとそろそろ諦めてもらえる。
ねちっこい男で終われば尚更ラッキーだ。
いつも通りカフェで会話を交わし、交渉する。
そして小林は遂に溜息交じりでこう言い放った──。
「 …ふぅ、もういいわ。 」
顔をパアッと明るくさせて、ありがとう!と叫ぶ。
そんな俺を鼻で笑い、水を思い切り浴びせて去っていった。
甲高いヒールの音だけが俺の胸に突き刺さる。…だがそれでも構わない。
これでようやく安心して亜美香を包み込める!
最近交渉のせいで亜美香と会えてなかったけど、やっとこれで会える。
舞い上がった瞬間、着信音が鳴り響く。
急いで画面をスライドさせ、電話に出た。
「 もしもし!あのさ、亜美香…! 」
「 話があるの、今すぐ会いましょ。 」
「 …えっ? 」
いつもとはまったく違う声色で俺を襲う。
いやな予感が胸を締め付ける。…だが真っ先に亜美香に会いたかった。
たとえどんな話でも、状況でも、今はただ亜美香に会いたい…それだけだった。
店のお会計を済ませ、服装を整える。
濡れた髪も必死に拭って亜美香の家に向かった。
俺の家からはそう遠くない距離で、身だしなみを整える時間は十分あった。
自転車を飛ばし、亜美香の元へ向かう。
インターホン鳴らす瞬間の胸の鼓動を抑えながら、押した。
響く足音、そしてあけた瞬間に見える彼女の黒く透き通った瞳。
全てが久々で美しく見えて、つい笑みがこぼれた。
だがそんな俺とは裏腹に彼女は怒りを俺にぶつけて来た。
突然の事で状況を把握できず、混乱に陥る。
そしてぶちまけられた写真を目にして俺はわかった。
「 どうぞお幸せに。 」
最後に告げられ、二度と開かなくなった扉。
写真だけが俺の足元に寂しくちりばめられる。
そっと手に取ると、そこには小林と密会時の写真ばかり。
中にはあの時脅しで使われた写真も入っていた。
──…これも罠だったんだ。
気づいた頃にはもう、手遅れだった。
◆続く◆
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