Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


春の頬 【 前編/短編小説 】

春の頬 【 前編/短編小説 】



春の気候がよく当たる温かい快晴の日に、俺はベンチで彼女を待つ。
そして彼女が陽気に駆けてくる姿を見つけ、手を軽く振る。
だがそんな彼女の姿は一瞬で透り抜けて触れれなくなり、彼女はもう居なくなる。


何も握れない拳を握り締め、唇を噛み締める。
その刹那、温かい気候は嘘のように冷たい気候へと生まれ変わる。


栗色のクセッ毛を靡かせる君の姿はもうここにはない。
俺の腕で甘える彼女の姿はもう見れない。
もう彼女の…温かい春の気候のような頬を撫でる事はできない。



◆ ◆ ◆

──6年前。

「 えぇ、樹来ねぇの!?合コン! 」


小さな教室に響き渡る友人、迅の声。
俺は片手で耳を塞ぎながら眉を歪ませ、頷く。
そして迅の顔は真っ赤になり、突然俺の胸倉をつかみ出した。


目には涙を溜め込んで、眉を斜めに上げて訴える。


「 頼むよぉ!お前だけなんだ! 」


どうして行くと言っていない俺の席まで設けたんだ。
迅の考えに溜息を零しながらも、彼の目に少し心が揺れる。


──…少しくらいならいいだろ。


そんな気持ちが生まれ、渋々OKを出す。
途端に迅はさっきとは別人に生まれ変わり、笑顔で去っていった。
いいと言わなきゃよかったと後悔しつつ、彼の笑顔にホッとする。


窓から外を見つめ、ため息を零す。
そして心の中でぽつりと呟いた。


もう春だな…。


それと同時に聞えた大きな足音。
ガラッと勢いよく開いた扉から出てきたのは栗色でクセッ毛の女だった。
息を切らしながら、ぜぇぜぇとクラスの派手な女子、小林に駆け寄る。
騒がしいと思いながら見ていると、彼女は突然小林の胸倉を掴み始めた。


「 お、おいっ…! 」


慌てて手を伸ばすと、彼女は鋭い目付きで小林に言い放った。


「 どーいう事!?私合コン行くなんて言ってないけど!? 」


俺は伸ばしてた手と身体が硬直し、両目が点になる。
栗色のクセッ毛が柔らかい風に靡くと同時に小林は両手を上げて口を開く。


「 べ、別にいいでしょ?

 ほらぁ、亜美香も彼氏ほしがってたじゃんっ! 」


「 それとこれとは別でしょ!?合コンなんて! 」


どうやら彼女の中で合コンとはあまり良いイメージではないらしい。
俺はそれが理由で断ってたワケではないが、気持ちは分かる。


とりあえず俺は彼女の掴む手を放し、落ち着け、と囁く。
彼女は俺をキッと睨みながら、両腕を組んだ。
見た目は小さな女の子なのに、顔はまるで極道の女将だ。


「 アンタ何なの!邪魔しないで! 」


今にも殴りかかりそうな顔つきで俺に言い放つ。
俺はただ冷静に彼女の目の前で掌を掲げ、「どうどう」と呟く。
だが逆効果で、彼女はその姿が馬鹿にしてると思ったらしい。


今にも殴りそうなポーズで俺を見る。
彼女のファイティングポーズに構えながら、「落ち着け」と必死に言った。


そして数秒後、チャイムが鳴ると同時に彼女は帰って行った。
「チッ」と舌打ちを放つ小林を見たのは、それから数秒後の話だった──…。



◆ ◆ ◆



時間はすぐに経って、合コンの日。
結局あの栗色の子はどうなったんだろうと思いながら居酒屋に向かう。
ふいに零れる溜息が、自分の情けなさを語っていた。


酒のにおいに包まれながら入る居酒屋はあまり慣れていない。
そんな中に並ぶ二人の女子。そしてウザイ友人、迅。
俺は重い足を向かわせながら女子を見ずにペコリとお辞儀した。


ふっと顔を上げた瞬間、俺の目に映ったのはたった一人の女子。


「 …あっ 」


あの日あの時俺の目を一瞬奪った栗色の髪。
そして丸いどんぐりのような大きな瞳…。
桜の花びらのような薄いピンク色の唇に、頬にできる可愛いえくぼ。


この子は──…


「 貴方は…あの時のっ… 」


彼女も俺に気づいたらしく、指を差して目を見開いた。
そんな彼女を見て迅は俺を酒屋の隅っこへ連れ込んだ。


小声で耳元で鼻声になりながら俺に尋ねた。


「 おい…、あの子と知り合いか? 」


「 え?…知り合いって程でもないけど。 」


「 じゃああの顔はなんだ!

  確実認識あるって感じじゃねぇーか! 」


…知らねぇよ。


つい心でこぼれた言葉。
迅の話は無視してさっさと席に戻った。
子供のように涙を溜めて付いてくる奴が少し気持ちが悪い…。


隣に座る迅を横目で見て、ため息を零して酒を流し込む。
途端に栗色の女は俺を見て言った。


「 あなたも合コン来てたんですね… 」


あの時とは別人のような可愛らしい目。
つい見惚れてしまった。それと同時に小林が入り込んでくる。


「 樹君も彼女いないよね!? 」


「 えっ、いないっスけど… 」


同じクラスだけどあんま喋ったこと無い。
派手だし、正直小林のような女子はあまり得意ではない。
率直に言えば、俺はこの栗色の子のほうがどっちかというと好きだ。


そんな事を考えながら、また酒を流し込む。
小林の視線を感じつつ、俺は栗色の子をしっかりと目に焼き付けた。
途端に気づかれる視線に構うことなく、視線を絡めあう。


その瞬間、迅に肘で突かれた。


「 んだよ… 」


吹きかけた酒を飲み込み、応える。
そして迅は小声で俺に言った。


「 俺は亜美香ちゃん狙いだからなっ?わかったか? 」


…つまり、訳すと“亜美香は俺のモンだから奪うな”っつぅことね。
本当に友人にわざわざ遠まわしに言うとは、どこまで女々しい男なんだ。
古い友人にとことん呆れながらまた酒を飲み込む。


不思議そうに俺たちを見つめる彼女に身を乗り出して尋ねた。


「 亜美香ちゃんは…好きな人とかいる? 」


「 えっ… 」


突然の質問に顔を赤くしながらも、「いない」と答えた。
その答えにガッツポーズを見せる迅。


俺は溜息を零しながら言った。


「 そっか… 」


そしてまた酒を流し込む。
途端に上目遣いで彼女は俺に尋ねた。


「 貴方は、どうですか? 」


「 俺ぇ…? 」


正直、今はまだ曖昧なところだ。
彼女が好きか、好きではないか。


──でも、俺の中では半分決まってるはずだ。


「 …いるよっ。 」


その瞬間、輝いた彼女の目と小林の目。
そして眉を歪ませて目を丸くして俺を見つめる迅の目。


全ての視線が集まった時、俺は柔らかく微笑んだ。



◆続く◆


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~コメントについて~

いつもコメントありがとうござます。
頂いたコメントは全て丁重にお返しさせて頂きます。
お手数ですが、ここでお返しさせて頂きますので、
お返しコメントはここまで見に来てください、お手数を掛けて申し訳ございません。

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2014/03/19 18:12
水奈月さん>>
そうですよね、本当に。
恋も生きていく上で大事なことですけど…
いざとなったときに力になるのは友情なのかもしれません。
男女の関係はややこしいけど、関係が深まった女の絆の力は凄いですからねぇ。
アバター
2014/03/19 17:20
恋を取るか、友達を取るかってすごい難しいですよね・・・。



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