恋の芽が出る頃に 【 第二十七章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/17 21:22:12
第二十七章 『 仮面 』
「 緊張するなぁ…。 」
パリッとしたスーツを身に纏い、ネクタイを締めなおす拓斗。
いつもより少し落ち着いた柄のネクタイが妙に私の心を騒がせた。
今日の拓斗の顔つきはいつもと違う。そんな顔がやけに私まで緊張させるのだ。
本当は緊張なんかしなくていい。
さっさと済ませて、拓斗との時間を一秒でも長くするんだ。
こんな拓斗の胸をネクタイで縛り上げるような行為はしたくないから…。
そう心で呟き、瞬きをした瞬間──、目の前に彼が現れる。
過去では大事な人だった…。でも今はただの敵、一番会いたくない人よ。
坂谷君──…、私はここで決着をつけてさっさと帰る。
ドレスの短い裾を直し、立ち上がる。
共に拓斗も立ち上がって、軽く彼に一礼した。
そんな拓斗を見て微かに斜めに上がった口角…私は見逃さなかった。
──…おかしいと思った。
やっぱりこの人何か企んでるんだ。
強引にキスした後、彼氏を誘って食事なんてしたがる訳ないもの。
分かっていたはずなのにどうして私はこんな所に連れてきてしまったんだろう。
さっさと引き上げて、もう彼とは会わないようにしなきゃ。
「 とりあえず、ワインください。 」
「 グラスは二つにしてください。 」
指をピンと二本分立ててニヤリと口角を上げてやる。
私が酔ってしまっては拓斗を連れて帰る事ができない。
きっと私達二人が酔ってしまえば、彼の口車に乗せられてしまう。
そんなわけにはいかない。すぐに食事を済ませて変えるんだから──。
グラスを二本だけしか頼まなかった私を不思議そうに見つめる拓斗。
そして恨めしそうな鋭い目を刺す坂谷君。…そして平然とする私の瞳。
グラスが来てからは、拓斗は緊張のせいか沢山ワインを身体に流し込んだ。
思ったとおり、坂谷君はあまりワインを口にしない。…自分が酔わないためだろう。
もしここで私が馬鹿みたいに飲んでいたらどうなっていたのだろうか。
考えただけで鳥肌が立ってしまった。
そんな私を見て拓斗は少し顔を赤くして尋ねた。
「 どうかしたか?夏芽。 」
私は目の前に坂谷君が居る事をいい事に、いつもよりボディタッチを増やした。
私がたくさん彼に触れて、愛を示せばきっと潔く諦めてくれるだろう。
これは私の意思表示だ。坂谷君がそんなねちっこい奴じゃなかったら大丈夫。
そんな事を考えながら彼の頬に触れ、「なんでもない」と微笑む。
そして横目でチラリと坂谷君を見ると、それはそれは恐ろしいような表情を浮かべていた。
今までに見た事もないような…邪念が漂ったような…そんな表情だ。
思わず拓斗から離れてしまう。
拓斗は離れた私の手を寂しそうに見つめながら
回らない呂律を必死にまわして言った。
「 突然どーしたんだぁ?調子悪くなったのかぁ? 」
お酒の香りを漂わせながら私の頬を撫でる。
そしてゆっくりと顔を近づけてくる。
いつも強引ではない拓斗が今日はやけに強引だ。
酒のせいだとは思うけど…。
ちょっとこれはやりすぎかもしれないっ…。
「 ね、拓斗…後でね? 」
しっかり拒否してしまっては隙を見せることになってしまう。
私は拓斗のスーツをしっかりと握り締めて、頬を撫でながらゆっくりと離した。
彼の寂しそうな目が私に何かを訴えてるようでならなかった。
ただ私は頷き、微笑む。
これじゃまるで親子同然だ──…。
まさか隙を見せてしまったんじゃ、と横目で彼を見る。
その刹那、彼は嘘のように微笑んでいた。
まるで私達を微笑ましく思っているように…柔らかい笑顔で。
私は思わず自分の目を疑ってしまった。
──…どうして?わからない。
本当に変わったんじゃ、と考えずには居られなかった。
だが私は気づかない振りをするように拓斗の頬をもう一度撫で直す。
その時の坂谷君の目は私は確認しなかった。
だがしかし、鋭い視線が刺さったような気配はしていた──。
◆ ◆ ◆
家に帰ってコートを叩きつける。
荒れた髪を掻き毟り、鏡に映る自分を殴る。
もう耐えられそうにない…夏芽のあんな姿を見て──。
あの隣に居た男が夏芽の彼氏か?まったく似合わん。
絶対俺のほうが夏芽を想ってる。
…一度離れた溝を埋めようと必死にやってきた俺のほうが夏芽を幸せできる。
なのにアイツにあんな笑顔向けやがって、夏芽も夏芽だ。
──…まあいい。いつかあの笑顔は俺に向くことになる。
これは可能性の話じゃない、決定されたことなんだからな。
◆続く◆
*******************************************
~コメントについて~
ここで頂いたコメントはここでお返しさせていただきます。
お手数ですが、お返しのコメはここまで足をお運びください汗
いつも素敵なコメント誠にありがとうございます。
今後も皆さんの期待を裏切らぬよう、精一杯綴って行きます。
コメントありがとうございます!
拓斗君は優しいとこが魅力的ですねっ。
昔は坂谷君もこんな感じの人だったんですけどねぇ。
自信たっぷりですね、確かに。…何故でしょうね?笑
今後も応援お願い致します。
優しくて、、、かっこいい*
坂谷くんの自信たっぷりかんがすごいですよね(^ω^)
強引になってしまったとこがいいのか悪いのか…
書いてる私にも分かりませんが、彼の中の何かが変わったのは事実ですね。
拓斗君は優しいです、そこが魅力でどんどん吸い込まれていきますよね♪
コメントありがとうございました^^
そこがいいのかな?拓人は優しいですね♡
いえいえ、こちらこそコメントありがとうございます。
素敵な作品だと言われるだけで書く気が湧きますっ笑
この小説だけでなく、短編小説などでも楽しんで頂けるよう頑張りますね♪
そうなんですよ、この作品は今からが本番です。
見所が多くてあまり語れないし、私もラストが見えてない状況です。
でも夏芽がどう変化していくのか、拓斗の心境や坂谷君の心境が絡み合って、
最後はどうなってしまうのか…、簡潔にまとめたらここが見所ですねっ笑
これからも是非応援してください。
いえいえ、本当に素敵な作品ばかりなので・・・;;笑
私の方こそ、いつもaichaさんの小説ハラハラドキドキしながら見させてもらってます*
そうなんですか!?
じゃあこのお話もまだこの先どうなるかはまだお楽しみですね♪
これからもちょくちょく閲覧させてもらいますね♡ ゛