好きなんです 【 後編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/17 01:30:50
好きなんです 【 後編/短編小説 】
あれから私は上手く笑えなくなった。
仕事も楽しくないし、まず笑う理由がなくなった。
花が舞う毎日は嘘のように枯れ始め、笑顔も共に萎れた。
真っ暗の部屋で一人、クッションを抱き締めながら何回目か分からない溜息を零す。
毎日笑顔の練習で使った鏡に映る私の姿はまるで別人。
バラが萎れて咲けなくなったような姿だ。──…目の下のクマも凄いな。
「 はぁ 」
また溜息を零して、コテンとその場に転ぶ。
おきあがりこぼしのように起き上がる事はできず、ただ座った体勢でその場に寝転んだ。
真っ暗な部屋で目に映るのは、先にある木製のドアだけのはずなのに──…
なのに私の頭浮かぶのは金髪美女と微笑む彼の姿だけ。
思い出したら傷付くって分かってるのに浮かぶのは、自分をコントロールできてない証拠。
クッションを握り締める力は彼の笑顔が浮かぶ度増して行く──。
出てこないでって心で何度叫んでも消えてくれない。
私の事好きじゃないなら出てこないでよ。
私の事嫌いなら頭に現れないでよ…。
そっと瞑る目から頬を伝う涙はゆっくりとカーペットに染み付いて──…
彼の笑顔が浮かぶ度、涙の味がしょっぱくなってるようでならなかった。
今、窓を明けて思い切り彼に叫びたい。
──私はここに居る。
だからお願い、私だけを見てください…。
声ならぬ声は誰に届くわけもない。
そんな声の無力さにまた私は追い込まれるようにそっと涙を流した。
◆ ◆ ◆
今日も仕事…まったく気力が出ない。
だがシフトに穴を開けるわけにも行かず、重い足を只管進める。
少し背伸びした10cmのヒールがやけにかかとに響いて痛い。
肩に掛けた鞄を握り、カフェに入ると彼が目の前に立っていた。
今日はいつもより来るのが早かったようだ。…まさか避けてるの?
私と会いたくなかったからこんなに早く来たのかな。
そんな事をぐるぐる考えながら棒立ちする。
そして私を見つめながら彼は口角をクイッと上げた。
「 こんにちは 」
何も変わらない笑顔で余計ムカツク。
私があれからの休日どんだけ病んでたかも知らないくせに。
──やっぱり貴方は馬鹿で鈍感な人ね。
心で呟き、無言で彼の横を通った。
その刹那、腕をギュッと捕まれ、身体が動かなくなる。
ピタリと止まったヒールがカツンッ!と大きな音を立てると共に振り返る。
靡く髪の隙間から一瞬見えた彼の表情はとても寂しげで…見たことない顔だった。
私は驚きを隠せず、思わず体が硬直し、目を見開く。
まるで時が止まったような感覚だ。
「 …ッ 」
「 …… 」
戸惑う私の前に立ちはだかる無言の彼。
何か言いたげな顔でこちらを見ているだけで、唇は動かない。
ただ眉を斜めに歪ませ、腕を掴む手の力を増していく。
どうしたの?と、尋ねる事もできない。
でも、放して下さい!と突き放す勇気も想いもない。
ただ絡み合う視線を感じながら扉の隙間から吹く風に包まれる。
そんな時だった。
扉の開くベルの音と共に金髪の髪が靡いた。
オシャレな紙袋を掲げ、口許をアヒルのように尖らせて微笑む。
そして陽気な声で言った。
「 お兄ちゃーんっ!
約束してたバウムクーヘン持ってきたよ~ん! 」
彼女の笑顔が不似合いな場にグサリと突き刺さる。
そして私は聞き逃す事なく、最初の言葉をしっかりと頭に入れ込んでいた。
…そう。彼女は今“お兄ちゃん”と言った。
この金髪美女は彼の事を“お兄ちゃん”…と!
「 あ…あのっ!もしかして… 」
金髪美女を指で差しながら目を輝かせる。
そして彼はバウムクーヘンを受け取った後、振り返って頷いた。
親指をピンと立て、金髪美女を指差しながら微笑んで言った。
「 コイツは妹の友恵。
最近日本に帰って来たんだ。 」
妹だったんだ…ていうか、やっぱり帰国子女だったんだ!
ホッとしすぎて思わずその場に崩れ落ちる。
背伸びしていたヒールもいつの間にか床に横たわる。
胸を撫で下ろし、いい意味で溜息を零した。
その瞬間、彼は私の肩にそっと手を置き、優しい瞳で吸い込んだ。
そんな瞳に吸い込まれながらクイッと顎を上げる。
彼の薄い唇から漏れる吐息を顔全体に感じながらゆっくりと瞬きをする。
そんな時、金髪美女は彼を手招きしてなにやら箱を差し出した。
小さくて、高級感漂うそんな小さな箱を受け取り、彼は私の元へ戻る。
そしてその箱を私に差し出しながらパカッと開けた。
小さな箱からキラリと見えた真っ赤に輝く宝石。
そして銀色に輝くリング。
彼の唇が開くと共に顔を彼のほうへやった。
「 その…誤解してるだろうなって心配してたんだ。
シコリを残したまま想いを伝えるのは僕自身嫌だったからね。 」
そう告げると、指輪をグイッと差し出す。
そして微笑んで言った。
「 気づけば君に惹かれていたんだ。
…君の笑顔が見れなかった日々、とても寂しかった。
もうあんな顔はさせたくない。これからは俺の傍で笑っていてくれ。 」
信じられない言葉が連ねられるなか、私は一人涙を零す。
そしてそんな涙を拭いながら何度も何度も頷いた。
彼は片方の眉を下げながら笑う。
そして後から妹さんが教えてくれた。
「 あの指輪はね、うちの家に代々伝わる指輪なんだって。
…お母さんの形見でもあるの。お母さんが遺言で言ってたの。
もう二度とこんな恋ないだろうなって思った時、その女性にあげなさいって。 」
言い終わった彼女はピンッとウインクを私に投げて去っていった。
大事に握り締めた指輪は小さいけどものすごい存在感で──。
彼の母の形見という事でもあるけど、彼からの愛の印と言う存在感が異常に大きい。
小さなルビーに触れながら微笑む。
そんな私を見て彼もふわりと優しく微笑む。
そして柔らかな風だけが私達を包み込んでくれていた。
◆終わり◆
****************************************
~コメントについて~
ここで頂いたコメントは、ここで返させて頂きます。
毎度毎度最高のコメントありがとうございます。
いつも励みにさせていただいております!^^*
小説拝見ありがとうございました。
そうなんです、ホッとしていただいてよかった^^*
よかったあ!笑
こんばんは、コメントありがとうございます^^
そんな素晴らしいお言葉を頂き、とても恐縮でございます。
読むのを楽しみにしつつ、ハラハラドキドキしていただけてますかね?
私は読者を世界に引き込み、主人公のような気持ちになって頂くのが望みです。
月妃さんはどうでしょうか?現実を忘れてこの作品を読んでいただけたでしょうか?
それだととても嬉しいですっ!笑 これからも応援お願い致します。
いつもありがとうござますっ!
「素敵だ」なんて最高の言葉で私には勿体無いです。
毎回ですが、ラストのラストまで展開を考えないタイプなので…((私がね笑
なのでここでこういう展開になって…こうしたら主人公がこうなる、と考えながら組み立ててます。
毎度不安になりながら投稿してるので…好評価を頂くと本当に励みになるんですっ♪
これからも宜しくお願い致します。
今回のお話も素晴らしかったです。
次の作品も楽しみにしてます!!
これからもずっと応援してます^^
感動です^^