好きなんです 【 前編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/16 18:42:30
好きなんです 【 前編/短編小説 】
私は貴方が好きなんです。
見てるだけで凄く幸せになれる。
貴方の笑顔を見れる毎日が大事な日に生まれ変わる。
退屈してた日々が嘘のように輝き始めて、毎日花道を通ってる気分。
そんな貴方の笑顔は今私じゃない人に向いてる。
そんなの知ってる。とっくの前から分かりきってたことだよ。
でも…それでも好きなんです。貴方の事が誰よりも大好きなんです。
◆ ◆ ◆
この恋が始まったのは、ある夏の日の事。
私が働いてるカフェに通う常連な彼。
前まではそこまで何にも思ってなかったし、好きになるとは思ってもいなかった。
でも…ある日帰りが遅くなった時突然雨が降ってきた時、
無言であの人は傘を差し出してくれた。たった一本しかない傘を。
ずぶ濡れになって走って帰るあの人の背中が今でも忘れられなくて毎日ドキドキしてる。
その日からカフェでの仕事も嘘みたいに楽しくなって、働くのが楽しみになった。
いつのもコーヒーを運ぶ彼までの道は、山への頂点へ上がるときの気持ちと似ている。
両手でしっかりとお盆を握り、練習を欠かさずしている笑顔をしっかり見せる。
そんなので落とせるなんてこれっぽっちも思ってないけど…。
少しでも可愛いって思ってもらえるように毎日頑張ってる。
でも彼はちっとも気づいてくれない。あの雨の日の事も覚えてないのかな。
常連なんだから私の顔くらいは覚えてくれてるのかな?…笑顔に気づいてくれてる?
毎日こんなことばかり考えて終わってしまう。
結局、客と店員の関係から一歩も進めない日々が過ぎる。
家に帰って彼との恋人になった日の事を想像して、夜が明ける。
鏡の前で彼のための笑顔を必死に練習する。…でもあの人は気づいてくれない。
さき越されるのは嫌だ。
でも、気持ちを打ち明けて会えなくなるのも嫌だ。
こんなもどかしい気持ちはどこにぶつければいいんだろう?
こんなぐるぐる考えてるって事もあの人は分かってないんだろうなぁ。
布団にもぐりこみ、目を瞑る。
そして当たり前のように夜が明けるのだ──。
夜が明けて、いつも通り出勤。
今日こそ曖昧な関係を打ち破ってみせる、とエプロンを力強く結ぶ。
そして頼まれたいつものコーヒーをせっせと準備し、身だしなみを整える。
いつも通りの笑顔じゃ駄目…今日はもっともっと最高の笑顔を見せなくちゃ。
いつもより口角を上げ、全身から気持ちを溢れ出させる。
コーヒーをお盆に乗せてゆっくりと席に運ぶ。
彼は本のページを捲ると共に私のほうを見上げた。
「 …ッ 」
初めての事で、驚いて笑顔が消えてしまった。
そんな私を見て彼は微笑んで、こう言った。
「 いつもありがとう。 」
「 ──ッ! 」
思わず涙が零れそうになる。
必死に溜め込み、首を左右に振る。
両手で精一杯お盆を握り、キッチンに逃げ込む。
コーヒーの香りが漂うキッチンで私は一人、鼓動を速くして座り込む。
口を覆い、赤面を隠し切れない。何も見えないようにギュッと力強く目を瞑る。
漂うコーヒーの香りを鼻に入れる度浮かぶ彼の笑顔は私の心をどんどん乱していく。
──いつもありがとう。
その言葉だけでもう嬉しくて、一歩前進できたような気がした。
“いつも”という言葉が何よりも嬉しかった──。
「 …ふふっ 」
思わず笑みが零れる。
茶髪の髪を靡かせながら微笑む私の影がゆっくりと彼のほうへ伸びる。
そんな影が踏まれた瞬間、私は何も感じ取れず、ただ浮かれてるだけだった。
◆ ◆ ◆
「 いらっしゃいませーっ! 」
あれ以来、いつも以上に笑えるようになった。
笑顔の練習しなくたって、きっと彼には素敵な笑顔が見せられる。
仕事もハキハキとできるようになって、上司に褒められるようにもなった。
ダメダメだった私が恋でこんなに変わるなんて…彼のおかげだなっ。
彼の言葉を思い出し、微笑みがこぼれたその刹那…
ベルの音が鳴り響き、彼の影が私のほうに伸びる。
そして見慣れない影と共に彼がこちらに歩み寄るのが見えた。
「 …えっ 」
スレンダーで、黄金の髪を輝かせるまさに帰国美女のような女性。
彼との身長差も私と違って丁度いい感じ。
「 ご、ご注文は何になさいますか? 」
まったく上手く笑えず、顔が思わず引きつってしまう。
そんな私の変化に気づく事もなく、彼は彼女にばかり目を向けて笑っている。
彼女も彼に目を向けて薄いピンク色の唇を上げ、微笑んでいる。
悔しいけど、私なんかよりもずっとずっと美しくて、いい香りがする。
私なんてどうせコーヒーの香りしかしないし、チビだし、美人でもないし…。
彼が私のほうを選ぶとりえなんてまったくない…。
「 ──…の? 」
「 えっ 」
思わず注文を聞き逃してしまった。
でもこんな状況で注文に集中できるわけないよ…。
俯き、注文どころではなくなってしまった。
私は注文を書き起こしている振りをして、涙を堪える。
彼はすらすらと悲しむ私に気づく事もなく注文を言っていく。
逆にそんな姿に苛立ちを覚えてしまった。
「 かしこまりました、カフェオレですね。 」
「 えっ 」
彼は常連で、いつも何頼むか分かっている私。
だがわざと隣の彼女が頼んだモノと同じモノを用意してやった。
別にいいでしょ、このくらい。…失恋した最後の思い出としては丁度いいわ。
数分後、カフェオレができあがり、運びに向かう。
そんな道もあの時とはまったく違う。まるで地獄への通り道のようだ。
漂うコーヒーの香りも今では嫌な気分にしかさせられない。
「 お待たせしました。 」
「 あ、あぁ… 」
大きくガシャンッと置き、彼とは一切目も合わせずに帰った。
…もしかしたら置いたときの衝撃でカフェオレ零れちゃったかな…。
彼のスーツに零れちゃってたらどうしよう。やっぱりやりすぎちゃったかな。
さっきの行為を後悔しながらも、振り返ると後悔がすぐ消える。
彼と彼女が親しそうに話すのを見てると心がどんどん抉られていく。
あの彼女のポジションが私だったらもっと大きな声で笑わせてあげれるのに。
彼の隣が私だったら彼においしいコーヒーをここに来なくても飲ませてあげられるのに。
いくらそんな事を心で呟いても誰にも聞えるわけもない。
ただ聞えない声でポツリと私は呟いた。
「 馬鹿 」
この一言では表す事ができるわけはない。
でも今、言えるのはなぜかこの一言だけだった。
◆後編へ続く◆
切ないですよね、こういうの。
まったく同じではないですが、こういう嫉妬的な
シチュエーションは女子結構経験してるのではないですかね?^^
私もこういうシチュエーションを経験していたので、書きやすかったです。
次はどうなるんでしょうね?^^私もまだラストが見えてない状態ですが…、
主人公の気持ちになりながら必死に書き起こしていきたいと思います!
もう少しお待ちください、明日には出します^^*
毎回続き楽しみにしてくれてありがとうございます!
早く続きが見たい!!!!
つーづーきー!!笑