~争いの無い世界~*知識人の閉ざされた過去Ⅰ*
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/12 02:43:27
星姫「――私の過去については、此処までとなります」
星姫は表情を崩さず、話に区切りをつけた。
それを聞いて塑羅は足を組み直して言う。
塑羅「じゃあ、次は私ね」
静かにそう言った。
それから、何かを考えるような仕草をした後、話を切り出す。
塑羅「玲と星姫のを聞いたら大体察しは付くわね?事の始まりは六歳からの出来事だったの」
周りの様子を窺いながら、焦らずゆっくり話しだした。
*
私の過去は、さっき皆に言ったように全ての出来事は六歳から始まった。
それより前はあまり覚えていないと言うか、普通に過ごしてきたからうろ覚えだった。
私が六歳の時。
十二歳上の大分離れた兄が居た。
母は私を生んで一年で、父は交通事故により亡くなってしまった。
だから、私は――雪城家は、兄と私の二人しかいなかった。
でも両親が居なくなってしまったのは私が一歳の時だから、悲しいという感情が無かった。
ただ、成長しても両親が居ないと言うだけだった。
別にその事に関しては不思議に思ったことはない。
両親が居なくなった代わりに、兄が私の親として、その頃は十三歳だっただろうか?小さな私を一生懸命見てくれた。
六歳の時。
いつも通りの朝を迎えてはいつも通り兄と朝食を摂る。
――美味しいか?
――うん
毎日のご飯の支度は兄だった。
慣れていない頃は料理が焦げていたりと言う事があったが、今ではそんな風は見られない。
むしろ上達している、とでも言うべきだろうか。
御世辞とか言われるだろうが、その頃は十八歳。その年齢にしては中々…と思っている。
まあ、幼い私がそんな事思えるわけがないのだが。
――そうだ塑羅。これ食べたら庭出てくれるか?
――うん。何するの?
――まあその時な。俺は準備するから少し遅れるけど…
その頃の私は知識人と言うほどの知識は持っていなかったから、訳の解らないままご飯を食べた後庭へ出た。
*
――塑羅、おいで
庭で外の空気を吸っていると、小さな箱――カメラを持って兄が出てきた。
それから風で倒れないような場所に三本の脚を立て、その上にカメラを乗せる。
私はまだ理解出来てない状態でその光景を見ていた。
――よし、オッケーだな…塑羅、写真撮るぞ!
――え?
――ほらピント合わせるからその辺で立ってて…よし行くぞ
兄が言うピントを合わせ、撮影を自動にした状態で駆け足で私の横へしゃがむ。
「あのレンズの部分を見て」と言われるがままにレンズを見てカシャ、と音がする。
その後兄は「もう一枚撮るかー」と言ってピントをまた合わせに行く。
それを繰り返した後、三本の脚を仕舞い、カメラを持つと言う。
――俺、今から写真焼きに行くけど…塑羅はどうする?
――家に居る
六歳の私には、外と言うのはどういうものかよく分からなかった。
遊ぶと言っても家の庭の中だけだし、外には危ない人や危ない物があるから迂闊に歩き回ってはいけない、と兄に教えられていた。
だから外の世界には興味はないと言うか、あったとしても怖くて行かなかったと思う。
兄は「そうか」と短く言うと、風が吹いた後に言った。
――じゃあ俺、行ってくるからちゃんと家の中に居るんだぞ?
――…すぐ帰ってくる?
――ああ。いい子で待ってろよ
と言い、兄は私の頭を優しく撫でてくれた。
それだけで、幸せだった。
…でも幸せは長くは続かないと、幼い時に知ってしまった。
それは午後四時の出来事だった。
兄が撮った写真を焼きに行った時間から一時間半が経とうとしていた。
――すぐ帰ってくるって言ってたのに…
ポツリと呟いた。
兄を待っている間に本をずっと読んでいたが、流石に読み切ってしまい退屈だった。
――よし
行こう。外の世界へ。
私からすれば、家から外は十分別世界だ。
本の様な、楽しい事があるのだろうか。
淡い期待を胸に、私は靴を履いて家を飛び出した。
*
私は初めて見る外の世界に驚いた。
本で見た外の世界は、大きな建物がいっぱいあった。
でも家の周りは、村だったようだ。
木材の家がところどころに建っていて、向こうには立派な教会がある。
もう少し辺りを見渡すと、人だかりが見えた。
ああいうものは、きっと何かあるんだろう。
私はそこへ近づくと、私に気付いた一人の大人は声をかけてきた。
――お譲ちゃん、こっちに来ては駄目!
――え?
皆見てるのに私は駄目なの?
声をかけられた大人の人に引きとめられ、私は遠くで人だかりを見ていた。
「駄目」って言われても、気になる。
この家の周りでも、気になる事がいっぱいあるのに。
知りたい事がいっぱいあるのに。
私は大人の腕をすり抜ける。
その瞬間に「あっ」と大人の人は声を出すがその程度で私は止まらない。
私は人だかりの隙間を小さな体でするすると間を抜ける事が出来た。
私が入ってきたことにより沢山の大人の人は吃驚していた。
何処からか「子供を連れてきたのは誰だ」と言う声が聞こえる。
でも私には関係ない。
私は崖になってる真下を見た。
そして――絶叫した。
ボロボロになった兄が、湖に沈められていた。
時間が経つ事に兄が浮かんできた。
私は最初全く違う人だと思った。
こんな事は絶対あり得ないと思った。
今家に帰ったらご飯を作って兄が待っているはずだと――思っていた。
――お、兄…ちゃん
私の呟きは周囲の大人の人に聞こえた。
そして一部の人は「誰か神父さんを呼んで来い」とか、「早く布を持ってこい」とか、「皆で引きあげるぞ」と声を掛け合って動いた。
他の人が持ってきた布を敷かれ、大人四人で兄は引きあげられた。
私がそれに駆け寄ろうとすると、一人の大人の人が制止させる。
さっき声をかけてきた人だ。
――駄目だよ…お譲ちゃんには、見たら狂っちゃうよ
――駄目…?狂う…?
大人の人は難しい言葉を使う。その時の私では、分からなかった。
兄の顔に小さな布を掛けられた。
周りの人はその場で跪いて、祈る。
そんな静かな空間を、打ち破るかのように私は駆け寄る。
――お兄ちゃん…お兄ちゃん…
触ろうとしたけど、小さな手を抑えられた。
――お兄ちゃん…お兄…ちゃ、ん…!
自然と涙が出た。
すぐ帰ってくると言ったのに。
ずっと私の親代わりをしてくれると思ったのに。
ずっとこんな幸せが続くと思ったのに。
その出来事のせいで、雪城家は――私一人になってしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~続く
はい、塑羅の過去編です。
…暗いです。マジで((
んでやっぱりね、湖だったわ_(:3」∠)_
星姫と同じ村の設定で行くかー((