恋の芽が出る頃に 【 第二十三章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/04 23:56:02
第二十三章 『 幸せの正体 』
「 実は私ッ──… 」
思い切って切り出そうとしたその瞬間…私は突然口許が動かなくなってしまった。
全身が氷漬けされたように固まり、コートを握る手は小さく震えている。
拓斗の目が全てを語ってるような気がして…。
寂しさを物語り、そして今から私が何を言っても受け入れる覚悟ができていないような…
──…やっぱり駄目。
「 ううん。なんでもないの… 」
私の震えた手はゆっくりと離れ、ポケットへと突っ込む。
不思議そうに見つめるかと思えば、拓斗は複雑そうに私を見ている。
察してるんだね、拓斗。
「 また隠し事? 」
片方の眉を歪めながら、苦笑いで尋ねる。
そんな拓斗に無理矢理微笑みながら左右に首を振る。
すると拓斗はギュッと私を抱き締める。
「 どこへも行かないでくれよ… 」
寒さのせいか、緊張のせいか、拓斗の声は私でも分かるくらい震えていて…
「実は私」と真実を語る気には到底なれない。…いや。話しちゃいけない気がする。
だから今はただ拓斗の傍にいよう。
拓斗が私に飽きるまで…拓斗が私を捨てる日まで──。
「 ねえ、お腹空いた。 」
このムードを壊すように口火を切る。
そんな私を察したのか、拓斗はニコッと微笑んで
「 そうだな、作ってやるよ。 」
そう言った。
少しだけ早く歩く私の背中に突き刺さる視線。
それがどんな視線か…どんだけ傷ついた視線かは分かっている。
でも知らない振りをしなくちゃいけないんだ。これは拓斗のため、私のためでもある。
絶対振り返らない。
そう決めた私の背中を優しく抱き締める拓斗。
頬には白い吐息が掛かって温かい。
──ごめんね、拓斗。
すごく幸せなの…幸せだけど…。
「 …無理はしないで欲しい。 」
「 ──…ッ! 」
「 俺はいつまでも待ってるから。 」
少し離れて、向き合う。
向き合った時の拓斗の目は潤んでいて、とても切な気。
「いつでも待ってるから」っていう台詞は拓斗の決意表明なのかもしれない。
もしかしたら私の…気持ちを気づいてしまったのかもしれない。
「 拓斗、私… 」
「 でもさ、俺ッ──…!
やっぱ夏芽だけなんだよ。だからいつでもッ… 」
とうとう拓斗の頬には涙が伝う。
分厚いコートの裾で涙を拭い、肩で息をする。
そんな姿見せないでよ。
そんな姿を見せないで──。
二度と語れなくなる…あなたに真実を二度とっ──
「 夏芽…ごめん。 」
そう優しく抱き締める拓斗の胸はやっぱり温かくて大きい。
でも坂谷君に抱き締められた光景がフラッシュバックしてしまうのは…やっぱり…
──あと少しだけ時間ください。
そう心で呟き、閉じた目からはいつの間にか涙が零れていた。
◆ ◆ ◆
シャッ…
「 んっ… 」
カーテンの開く音と共に開く目。
そして上を向くと、ニコッと馬乗り状態で私を起こしてきた拓斗。
「 おはよ、夏芽。
ちゃんと眠れた? 」
さっきまで隣で寝てたくせに。
爽やかな笑顔で訴えるなんて、卑怯だ。
そう心で呟きながら、いつの間にか微笑む私。
「 まだ目腫れてるな? 」
「 誰のせいだろ? 」
「 馬鹿、泣きたいのはこっちだっつの。
──…ほら、冗談はほどほどにして起きろ。 」
そう言って差し出す拓斗の大きな手を握る。
グッと引き寄せられた瞬間、目と目が合い、一瞬時が止まったように感じた。
見つめあい、数センチの距離をどんどん近づけていく。
私の手を握る拓斗の手はいつの間にか強くなっていって…片方の手が頬に触れる。
──この瞬間が好き。
そんな事を思いながら、目覚めのキスを交わした。
唇を離すと、少しの間目を合わさなくなる拓斗が可愛らしくて…
もう一度ってせがむと、顔を赤くして怒る拓斗が愛らしくて…
これが幸せなのかもしれない。
「 拓斗、怒らないでよっ 」
「 本当に夏芽は馬鹿だなっ! 」
そう言いながらも私の手はしっかりと握ってくれる。
その刹那、これからも居たいって思えた。
◆続く◆
拓斗君と幸せになってほしいですね、これからも
今回も面白かったです!