~争いの無い世界~*里の地上の星の過去Ⅶ*
- カテゴリ:自作小説
- 2014/03/04 19:25:33
初めて見た、魔物。
なんだか不思議と、怖くはなかった。
心のどこかでは思っていた。
…私達でも倒せると。
藤堂さんのように素早く動いたりとか、魔法を発動させたりとか簡単には出来ないかもしれない。
でも見真似で出来る…そんな気がしていた。
――星姫、私が引きつけるからさっきの様に魔法を当ててちょうだい
――…了解です
さっきのは"まぐれ"だったかもしれない。
少し自身が無くしている中、塑羅さんは背中を軽く叩いてきた。
――大丈夫、さっきのをイメージすれば出来るから
そう微笑んで、銃を構えて走り出した。
一瞬止まり、撃つ。――今度はちゃんと当たった。
塑羅さんの銃弾は蔓を貫通させた。
それにより、蔓は一斉に標的を塑羅さんへと向ける。
思わずその光景をボーっと見ていた私は我に返り、杖を構える。
…魔法。
藤堂さんのように、剣を地面に刺して壁を作ったり、魔法陣を描き血を垂らすことにより発動させるあの魔法はどうやるんだろう。
きっと私の考えを遥かに上回る魔法なんだろう…と思った。
今の私が出せそうな魔法。
実習授業で大ババ様から教えてもらった魔法。
詠唱するだけの、シンプルな魔法を。
――"天【アマ】から照らす光よ、その姿を炎と変え、燃やしつくしたまえ"!
杖を天に掲げて、言う。
さっき我武者羅になって撃った魔法をイメージして。当たると信じて。
その詠唱に反応し、再び火の玉が塑羅さんへと伸びる蔓を燃やし尽くす。
やがてそれが灰となり、蔓の根元のみ残された。
再生される前に、と塑羅さんは近くまで走り、銃弾を放つ。
ガァン、と銃声が屋上に響き渡る。
また動き出さないか、私も塑羅さんも注意深く見た。
が、先ほどの銃弾にて、完全に沈黙した。
――や…った、の?
恐る恐る、塑羅さんはそう呟いた。
ピクリとも動かない魔物を見て、私は飛んだ。
――やりましたよ!魔物を倒しました!
私がきゃいきゃいとはしゃいでいると、塑羅さんは歩いて近づいてきた。
――…よくやったわね
――お互い様、ですよ
にこ、と笑い合って言葉を交わした。
すると、後ろの方から「うぅん…」と唸る声が聞こえた。
――藤堂さん…!
塑羅さんは近くまで駆け寄り、その場に座り込んで名前を呼んだ。
私はその場で、様子を見ていた。
――…?
その声で気がついたのか、藤堂さんはゆっくりと目を開けた。
――…あれ、私…
寝転がった状態で、額に手を当て考え出した。
それから何かを思い出したかのように起き上がり、辺りを見渡しながら言った。
――そうだ、魔物は!?
と。
藤堂さんが、私の魔法により魔物が居たところが黒く焦げた部分を見て、問う。
――…あれ、魔物は?
――ああ…あれなら…
近くに居た塑羅さんが、話しだす。
藤堂さんが「死にたくない」と叫んだ後、私が魔法を発動させたこと。
その話を聞いて、藤堂さんは微かに頷いた。
――もしかして、倒したの?二人で?
藤堂さんの問いに、塑羅さんは小さく頷く。
「ふぅん…」と呟き、続けた。
――…そっか。じゃあ…いいや
何かを言いかけた様だが、藤堂さんは何も言わず無言で立ち上がり、服についた砂を払い落した。
――魔物が居ないのなら、私の役目は終わり。そろそろ帰らないとね
踵を返し、帰ろうとした。
それを見て、咄嗟に塑羅さんは服の端を掴み、止める。
藤堂さんは振り向き、言った。
――まだ何か用なの?
――…
塑羅さんは服を掴んだまま、俯いて無言のままだった。
それに対し、藤堂さんはその手を振り払おうとせず、その場に留まり反応を待つ。
――…怖かった
――え?
ポツリと呟くその言葉に、私も少し驚いた。
――本当は、怖かった。死ぬんじゃないかとも思ったし、何より――…藤堂さんを助けられなかったと思うと…
それから先は…言わなかった。
口にしたくはないんだろう。何となく、私は何が言いたかったのかを察した。
すると藤堂さんは、少し近寄ってその場にしゃがみ、わしゃわしゃと塑羅さんを乱暴に撫で始めた。
――大丈夫だよ。こんな事はいつもの事だし、慣れてるし…ね
藤堂さんは――笑っていた。
まるで不安な気持ちを和らげるかのような、そんな表情。
――大丈夫。私は生きてるじゃん。貴方の―雪城さんとそのお友達さんのおかげでね
再び乱暴に撫で始める藤堂さん。
それに対して塑羅さんは、泣きだしてしまった。
誰かに甘えるような事のない塑羅さんの反応に、またも驚かされてしまったが、藤堂さんに覚えてもらっていた事、そして何より――二人がこうして話が出来て、仲良くなれた事。
そんな光景を後ろから見て、私は口元を綻ばせて見ていた。
なんだか変な気分。
さっきまで魔物と戦っていて、もしかしたら死んじゃうかもしれないのに。
藤堂さんを助けられなかったかもしれないのに。
恐怖と不安で押しつぶされそうだったのに。
そんな気持ちが遠い遠い彼方まで飛んでったような感じがして、今はふわふわと幸せな感じ。
今ならなんでも出来そうな気がした。
出来る筈がないけど、空だって飛べそう。ふわふわしてて、身軽だから。
そんな気持ちをいつまでも忘れないように、私は胸に両手をあてて、心の奥深いところにしまう。
そんな事をしていると、藤堂さんは立ち上がって塑羅さんに手を差し伸べた。
――…よかったら、二人とも私の友達になってよ。
初めて話しかけられ、嬉しかった。
面識もそんなに無い、私にも話しかけてくれた事。
あの時拒絶してしまった塑羅さんを受け入れようとしてくれたこと。
――知ってると思うけど、改めて自己紹介。――私は藤堂玲。宜しくね
微笑んで、そう言った。
それに答えるように私も笑い、言った。
――宜しくお願いします、玲先輩!
…私の、二人目の素敵なお友達。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~終わり
はい終わり。
私的にはあまり小説の中心となるような子じゃないから、
過去の内容とか少ないかなーって思ってたけど案外そうじゃなかったわ((
話の盛りすぎですね、ハイ_(:3」∠)_
さて次は塑羅の過去編だー((