Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


今、開けよう 【 短編小説 】

今、開けよう 【 短編小説 】



「 あ゛ぁ~暑い! 」


そう声を上げた真夏の室内で窓を明ける。
眩しい日差しが目に差し込んで来て、つい目を細める。
そして、熱いアスファルトを自転車で駆ける貴方の姿をずっと見ていた。


頬杖を付き、見惚れるように眉を歪める。
「暑い」という口実を使って毎日窓を開けている私。


彼は気づいているのかな?


──…私が毎日貴方を想ってるってことを。



◆ ◆ ◆



キッカケは暑い暑い真夏の日の事。


「暑い!」と声を上げて窓を開けた瞬間、汗だくで振り返った彼の表情。
ペットボトルの水で頭を濡らしていて、振り返った水しぶきがやけに眩しい。


「 ──…ッ 」


その刹那、私は彼に惚れてしまった。


窓から絡み合う視線を切るように姉の声が私を呼ぶ。
仕方がなく窓を閉めて姉の下へ行ったが、それ以来彼が忘れられないのだ。


今日も彼はいつも通りの場所で水浴びをしている。


振り返って、と願ったり振り返らないでと願ったり…。
この夏は様々な感情を繰り返している。


そしてとうとう視線が絡み合った。


「 …あっ 」


慌てて視線を逸らし、もう一度横目で見る。
すると彼はニコッと微笑んでいた。


思わず口を手で覆って崩れ落ちる。
顔はこれでもかってくらい赤面して、熱い。


夏のせいなんかじゃない。恋のせいだ。


そう気づいた私はもう一度彼を見る。
彼の微笑みは健在で、水しぶきが星に見えて仕方がなかった。
そっと触れる窓ガラスは冷たくて、私の熱い体がガラスを曇らせていく。


恋ってこんなに燃え上がるんだ。


そんな教訓を得た夏だった。



◆ ◆ ◆



「 ふわぁ~…、眠いなぁ。 」


あれから月日は過ぎ、あっという間に冬。
大きく伸びをしながら一人で過ごす部屋は虚しくて切ない。
窓の外の彼も夏が終わると同時に姿を見せなくなった。


元気にしてるのかな?まだジョギングしてるのかな?


いつもこんな事をグルグル考えては、一日が過ぎる。
仕事をしていても、休んでいても、それは変わらなかった。


一回だけでいいから彼に会いたい。
彼に手を伸ばして最高の思い出をありがとうって言いたい。


──…好きって…言いたい。


「 何言ってるんだろ、私。 」


心で零れた声に思わず恥かしくなる。
だが、改めて考えてもその気持ちは変わらない。


もう一度だけ会えないかなぁ。


そんなことを思いながらふと窓の外を見たときだった。


「 ──…ッ!? 」


思わず目を見開き、取り乱す。


窓の外に居るのは間違いなくあの彼で、冬だからさすが水は浴びてなかったが、
ブランド物のジャージを上下揃えて膝を抱えながら息を切らしている。


今がチャンスだ。


慌てて家を飛び出し、彼に駆け寄る。
彼は不思議そうな目で私を見て首を傾げて言った。


「 君はこの家の… 」


「 明美って言います。

      …覚えてますか? 」


恐る恐る尋ねると、彼はニコッと微笑んで答えた。


「 もちろん!僕の大事な思い出だからね。 」


「 ──…えっ 」


彼の言葉に反応し、鼓動が速くなる。


彼は汗をタオルで拭いながら、こう続けた。


「 あの夏の日から…伝えたい事があったんだ。 」


汗を拭いてさっぱりした彼は、真剣な表情で私を見る。
透き通った瞳が私をどんどん吸い込んでいく──。


そしてこう告げた。


「 俺、君が好きなんだ。

  ──…あの夏の日から忘れられなかった。 」


「 …ッ! 」


彼の優しい声と願っていた言葉に心を打たれ、つい涙が溢れる。
そして口を手で覆い、肩を揺らしながら泣きじゃくる。


「 えっ…、ごめん迷惑だよね… 」


「 ちがっ…います。私も同じ気持ちだったから… 」


「 ッ!じゃあ… 」


そう嬉しそうに言った彼の言葉に何度も頷く。


彼の逞しい腕に包まれ、そっと目を閉じる。
温かいジャージを握り締めながらギュッと噛み締める。


そして思い出す。


あの夏の出会った日の事を──。


あの日あの時私が窓を開けてなかったら出会えてなかった。


偶然が重なって今私達は出会えたんだね。



「 …ありがとう。 」


「 こちらこそ。 」


小さく囁いた言葉をしっかりと受け止めた彼は、また力強く抱きしめてくれた。


そして次は聞えないように囁く。


愛してる、と。



◆END◆


アバター
2014/03/02 17:07
今回の小説も素敵です!
好きになった瞬間が一緒って嬉しいんですよねー(/ω\*)
アバター
2014/03/01 21:21
ですよね・・・。


この小説は今度ゆっくり読ませていただきます!
消さないでくださいね!笑



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