行かないで。 【 後編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/02/25 20:28:28
行かないで。 【 後編/短編小説 】
ある快晴の日に俺は大事な人と出会った。
名前は、畑山楓。髪はストレートで少し茶色がかっている。
振り返るとよく靡く綺麗な髪で、艶が俺をそそる。
──…やっと見つけた。
出会い方はバイク事故と最悪な形だったが、俺にとっては最高の出会いだ。
今まで遊び倒して過ごして来た俺があり得ないと思っていた一目惚れをした。
女を弄び、何度泣かしてきた事だろう?…だが、この女だけは違う。
目が合った瞬間、抱き締めたくなった。
というか、俺のものにしたくなった。
まるで幼児がおもちゃをねだるような…そんな気持ちになっていた。
「 あの、すみません… 」
バイク事故に遭い、俺を見て少し震える。
まるで小兎のようで小さくて可愛らしい。
途端に俺は瞬きを忘れ、彼女に見惚れていた。
…まったく彼女は気づいていなかったけどな。
これが俺の初恋だった。
◆ ◆ ◆
「 うぅ~ん… 」
まだ少し眠い。
だが、もう起きてから5分は経つ。
それに…今日は俺の大事な人が来るんだ。
しっかりと髪を整えて構えておきたい。
「 むぅ…ん 」
だがしかし、眠い…眠すぎる。
枕を抱き締め、心の中で“後5分…”と呟く。
そんな事を考えていると、耳を貫く甲高い音が鳴り響いた。
──…ピーンポーン。
「 …マ、マジかよ。 」
まだ少し意識がはっきりとしないなか、廊下を辿って行く。
そして玄関のドアを開くと、見違えるほど美しい者が立っていた。
「 ──…ッ! 」
驚きを隠せない。…だが俺は顔に出さなかった。
というか、美しすぎて反応ができなかったのだ。
「 おはようございますっ… 」
肩を竦めながら、白いワンピースの裾をふわりと揺らす。
そんな姿に見惚れていると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「 あの…、来てよかったんですか? 」
片方の眉を上げ、不安げに俺を見つめる。
そんな姿が愛らしくてなんとも言えない。
「 あ、あのぅ…? 」
もう駄目だ。
──…我慢できねぇっ。
そんな衝動に駆られた声と共に、俺はいつの間にか彼女の唇を奪っていた。
慌てる彼女は目も閉じていない。だが俺は構わずキスを楽しんだ。
後頭部に触れ、強く肩を引き寄せる。そんな俺の力にか弱い女が適うはずもない。
小さな拳でトントンッと俺の肩を二度叩いたが、気づかない振りをした。
楓…、俺は男だぞ?
一人でそんな可愛くしてきた自分を恨め。
そんな言い訳を心で呟きながら、頬を撫でる。
彼女の長い睫毛が微かに俺の目の下を擽った。
「 ──…ンッ! 」
息が出来なくなったのか、次は本気で俺を叩いた。
同時に放してやる。すると彼女は口に手を当てながら真っ赤に赤面していた。
「 ~~~ッ 」
何も言えないようだ。
そんな姿を見て少し誇らしげになる。
だが、もう引き返せない。やりたいことはやるし、言いたいことは言う。
「 お前さ、どんな気持ちで来てんの? 」
「 …えっ? 」
両方の眉を同時に上げ、首を少し前に出す。
きっと内心、「コイツ何言い出してんの?」って感じだろう。
だが俺は構うことなく見下ろし、腕を組んで言った。
「 男一人暮らしでさぁ…。
来たらどうなるか~とか予想できるだろ? 」
自分でも分かるくらい試すような口ぶり。
だがそんな言葉をまともに受け、顎を掴んで考え込む。
「 え…、えぇっと。
誘われた…から…お邪魔しようかなって… 」
駄目だ、コイツは完全駄目だ。
自分に自信がないせいか、アプローチが分かってねぇ。
いや、というかコイツは俺の質問の答えさえ導きたせてねぇ…。
──…どこまで鈍いんだよ。
「 何?誘われたから来ただけ? 」
そう尋ねると、楓は黙り込んだ。
そんな曖昧な態度が俺の感情を狂わせた。
「 …誘われて来ただけなら帰れ。 」
「 えっ? 」
何で?と尋ねるかのように、眉を歪める。
そんな困り顔が愛おしすぎて抱き締めたくなる。
俺は男なんだぞ?楓。
なんで…気づかねぇんだよ…。
「 もう来るな。 」
そう背を向けると、楓は突然鼻声で言った。
「 行かないでっ… 」
驚いた。そんな風に言われるとは──…。
だが同情してるだけかもしれない。ここは冷たくしてみよう。
俺はピタリと止まり、振り向かなかった。
彼女は俺の手を握る。だが俺は振り払う。
すると彼女はボロボロと泣き出し、膝から崩れ落ちた。
「 えっ? 」
さすがにやりすぎたか?
不安になり、彼女に駆け寄って両肩を掴む。
そして彼女の肩がぶるぶる震えていることに気づいた。
「 …楓、ごめん。やりすぎたな 」
そう囁くと、ゆっくりと首を振って泣きじゃくる。
俺は両手で包み込み、後頭部をまた優しく撫でる。
途端に楓の震えはゆっくりと落ち着いていき、ようやく止まった。
「 立てるか? 」
尋ねると、楓は黙って頷く。
そしてゆっくりと立ち上がらせて部屋に入れた。
別に疚しい気持ちがある訳ではない。
彼女の涙が止まるまで優しく頭を撫でて抱き締め続けた。
そして、ようやく話し始めてくれた。どうしてこんな状態になったのかを──…。
「 実はね──…? 」
まだ微かに潤んだ目で呟きながら話し始める。
彼女の話によると、昔振られた男の事を思い出したらしい。
その背中が俺に似てて、握った手の温度も…似ていたらしい。
それで悲しくなって思い出してしまったらしい。
…最悪なことをしてしまった。
「 ごめんな。 」
ポツリと呟き、背中を擦る。
彼女はゆっくりと首を振って微笑む。
「 いいの。こっちこそごめんなさい…毎回来て。 」
肩を竦めて呟く。
本当は来てくれて嬉しかったくせに俺も威張ってしまっていた。
彼女を抱き締めて、耳元で優しく囁く。
「 本当は来てくれて嬉しかったんだ…。 」
「 えっ? 」
優しく両肩を掴んで引き離し、瞳をしっかりと見て言った。
「 お前が好きなんだ…。 」
「 ッ!? 」
目を見開き、驚きを隠せない様子。
だが、もう止められない。
「 でも誘われたから来たって言われて…ショックで… 」
ポツリと零すように呟く。
すると彼女は腕を首に巻きつけ、優しく抱きしめてくれた。
「 私も威張ってました。…貴方の事、好きなのに正直になれなかった。 」
「 えっ…
じゃあ──… 」
すると彼女は優しく微笑んで俺の肩に当たる顎をクイッと上げた。
「 私も好きですよ… 」
俺は嬉しくって泣きそうだった。
すぐに彼女を抱きしめ返し、後頭部を撫でる。
「 ありがとう… 」
ポツリと囁いた俺の頬には一粒の涙が零れていた。
途端に、俺たちを祝福するかのようにふわりと揺れた真っ白なカーテン。
共に羽ばたく翼の音。そして俺たちは顔を見合わせ、笑顔で口付けを交わす。
絡める指は二度と解けないようにとお互い願い合った。
彼女を離すと、少し照れくさそうに俯く。
そんな姿が可愛くてもう一度抱き締める。
「 ちょっ…、恥かしいですよ… 」
「 言ったろ?一人暮らしって。
大丈夫、誰も見やしねぇよっ。 」
そう囁くと、彼女は脱力していった。
それが安心してなのか、呆れてなのかは分からないが──…
彼女の潤って輝いた瞳は見逃さなかった。
◆END◆
私もこんな幸せな恋してみたいです・・・・・苦笑