Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


恋の芽が出る頃に 【 第十八章 】

第十八章 『 雪だけが、知っている 』



出勤して今日もいつも通り働く。
それはまるで彼の事を記憶からかき消すように…。


「 今野、ここやっといてね? 」


「 あ、はい… 」


上司に投げ掛けられる汚れ仕事。
女に任せるのは所詮、コピーかお茶を注ぐかだけ。
最近ようやくパリッとしたスーツで仕事を任せられるようになったが…。
上司達の“まだまだ半人前だな”という声は絶えなかった。


そんな中、お昼頃になると、設定したアラームのように鳴り響く着信音。
それは開かなくても誰が送ってきたかすぐ分かるくらいだった。


「 …ッ 」


それは今の私にとって、とてつもなく重くて胸を締め付けるモノだった──…。


絵文字は一つ二つしかないという素っ気無いメールだけど、
彼の熱い愛情は私でも胸に突き刺さるほどわかる。
一言一言連なる彼の優しさ溢れる言葉は当分頭から離れそうにない。


「 あれ?今日もラブメールですか? 」


「 熱いねぇ~ 」


メールを見つめる私に向かってからかう上司。
そのからかう言葉も私を責めるように襲い掛かってくる。


──…ラブメール、か。


本当は喜ばなくちゃいけない存在なはずなのに、ただ握り締めて涙を堪える。
こんな事しなくたって、自然に出るのは嬉涙のはずなのに──…。
私はただ“罪悪感”というモノが混じった汚れた涙を流そうとしていた…。



◆ ◆ ◆



綺麗な月に照らされながら歩く帰り道。
黄色い点字ブロックを一つ、また一つと踏んでいく。
その度感じる罪悪感はかき消せる事はなかった───…。


高校時代からまったく切らないで伸ばした茶色い髪を耳に掛ける。
そしてスマホに入った画像をゆっくりと一枚ずつ見ていた。


「 …懐かしい。 」


そう微笑みながら見つめるのは、美由と撮った写真たち。
二人で大きくピースしてみたり、アイスクリームを取り合いながら食べたり…。
高校時代はまったく関わり持てなかったけど、中学では沢山遊んだっけ…。


「 ──…ッ 」


零れ落ちそうになった涙を掬い上げるかのように空を見上げる。
見上げた空は憎いほど透き通っていて、月は悲しいほど美しかった…。



──…ピルルルルッ....


「 …? 」


突然の着信音。
いつもはこんな時間帯にならないのにな──…。


そんな事を思いながら画面をスライドさせ、電話に出た。


「 もしもし? 」


『 おー、今日は電話出るの早いな。 』


「 えぇ…?いつも通りでしょ。 」


そう交わすと、頬でスマホを挟みながら鞄を探る。


すると背後に伸びる影が突然大きくなった。


「 探し物はこれですか?お嬢さん。 」


そう言って差し出された赤い定期。
差出人は思ったとおり、拓斗だった──…。


「 …拓斗 」


眉を歪めながら、涙を溜め込んで囁く。
すると彼は優しく私を引き寄せ、抱き締めてくれた。
耳に掛かる温かい吐息を感じながら、彼の鼓動に耳を澄ませる。


彼の鼓動は私よりも速く、緊張状態というのが理解できた。
──…いや、もしかしたら定期を渡すために走ってきてくれたのかもしれない。


とにもかくにも、尽くしてもらってるっていうのには変わりないだろう…。


「 なあ、夏芽。 」


「 …何? 」


寂しげに語りかける彼の頬は微かに冷たくて…。
私の耳を時々擽る。そして共にあの時を思い出すのだ。


高校時代に抱き締められたあの時の事…。
高校時代に夕日を撮って永遠に消えませんようにと誓った事…。
こんな時に思い出すなんて…私って最低ね。


そんな心の独り言に気づくはずもなく、彼は続けた。


「 時々不安になるんだ。

   ──…お前のその潤んだ目を見てると。 」


「 …不安? 」


心がドクンッと大きな音を立てる。
まさか、私の今の心境を勘付かれてるのではないかと。


彼の冷たい頬と温かい吐息に包み込まれながら、目を閉じる。
そして私は薄っすらと口を開き、彼の背中を擦りながら言った。


「 ……大丈夫、だよ。

  私は消えたりしない。拓斗の傍に居るから。 」


「 本当か? 」


潤んだ瞳で訴えるように尋ねる。
そんな拓斗に微笑んで私はただ頷いた。


そしてゆっくりと体を引き離した拓斗は、突然真剣な表情で言った。


「 …好きだ、夏芽。

   ──…誰よりも、愛してる。 」


「 …拓斗。 」


彼の唇は、拒む暇もなく私の唇を奪った。
その瞬間、真っ白な汚れのない雪が私達を包む。


彼の緊張で震えた手と、寒さで震えた私の手が交互に絡み合う。
そして雪だけが真実を知っていた。


──…私が愛する者の正体を。



◆続く◆


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2014/02/24 23:05
最新話読ませていただきました!
あれ……結局高校は中退しちゃったのですか?
県でトップの進学校で卒業したら将来を約束されるって書いてあったのに、
大人になったらお茶くみで上司に怒られてる……(´・ω・`)
いったい夏芽ちゃんになにがあったんでしょうか……!
省略された三年間が気になる!



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