Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


行かないで 【 前編/短編小説 】

行かないで 【 前編/短編小説 】



「 行かないで 」


ポツリと大きな背中に投げ掛けた言葉。
だがその背中はピタリと一瞬止まっただけで、振り向かない。


「 なんで? 」


尋ねても返事はない。手を伸ばしても届きそうもない。
彼の冷たい手を握ってみれば、一瞬にして解かれてしまう──…。
ねぇ、あなたの手はいつからこんなに冷たくなってしまったの……?


尋ねる暇もなくあなたは逃げるように行ってしまった。
泣き崩れる私を撫でるあなたはもうどこにも居ない。
あの頃のように優しく「大丈夫」って抱き寄せてくれる温もりはもうどこにもない…。



◆ ◆ ◆



あれはよく晴れた日だった。
日曜日というのに、私は一切休まず外に出ていた。
用件はショッピングなどと可愛いモノではなく、ただの“お使い”だ。


「 もぉ、ママはすぐ人に頼むんだからぁ~… 」


最近、日曜日のお使いが日課になってしまってる気がしてならない。
このままでは毎週お使いさせられる恐れがあるような──…


別にいいんだけどさ…。
でもこんなに毎週頑張ってるんだからいい事あってもいいでしょ?
──…例えば、めっちゃくちゃ素敵な人に出会えるとかさぁ。


そんなことを考えながら、袋を持ち直す。
そして一瞬でもそんな事を考えた自分が馬鹿らしくてつい笑ってしまった。
いい加減メルヘンな頭から抜け出さなきゃいけないのに…まだ夢みてるみたい。
もう幼少期のような“お姫様になりたい”っていう純粋な夢は見れないんだからね…。


「 はあ… 」


ふわりと零れた深いため息。
すると突然真正面からバイクが走ってきた。


「 え、うおっ…ちょ! 」


「 えええぇっ…!? 」


まさか日課になりつつあったお使いで死ぬことになるとは──…。
しかもあんな走らせたバイク野郎に殺されるなんて…。
私の人生は儚いモノばかりで塗り固められていたのかもしれないなぁ。


「 ──…ぶですか? 」


微かに聞える男性の声。
だがまだ意識ははっきりとしない…。


「 大丈夫ですか? 」


ようやく蘇る意識と共に、広がる視界。
バッと目を開けばそこには金髪のイケメンが立っていた。


「 ええええぇ!? 」


思わず声を上げて身を引いてしまった。
私を引いたのがこんなイケメンお兄さんだったなんて──…。
さっき“バイク野郎”と言ったのを一瞬後悔してしまった。


「 だ、大丈夫じゃなさそうですね…。
  すみません、僕のせいでこんな擦り傷を──… 」


そう言って膝にできた傷を見下ろす。
座り方はヤンキー座りで参ったなという風に眉を歪めている。


そんな顔が朝の日光に照らされて眩しい。
いや、元がいいってのもあるだろうけど…、うん眩しい。


「 …? 」


「 ──ッ! 」


まずい、見惚れてるのばれちゃったかも…。


そう察し、慌てて目を傷口のほうへ逸らした。
彼はふぅと一つ溜息を零し、黄金に輝く髪をくしゃくしゃと撫でた。
そして数秒後、彼はスッと一枚の絆創膏を出した。


「 …これで直るかわかんねぇけど、一応ね 」


そう言ってニコッと微笑み、髪を靡かせながら手当てをしてくれた。
靡くたびに香るシャンプーの香り…。どこのメーカーのだろ、すごくいい香り…。


「 ──…?大丈夫? 」


「 あ、大丈夫です… 」


まだ少し意識がハッキリしないまま、コクリと頷く。
そんな私を見て彼はまたクスッと笑った。


「 あ、あの…? 」


「 いや、ごめんごめん。
   なんか君が可愛く見えちゃってさ… 」


「 か、かわっ──…!? 」


そんなの他人に言われた事なんかなかった。
可愛いなんてそんな…しかもこんな人間国宝(イケメン)に…。
私は慌てて身を引き、怪我していた膝を曲げて正座をした。


すると彼はまた笑った。次は美しい瞳を輝かせながら。


「 よしよ~し 」


そう言って突然頭をくしゃくしゃと撫でられる。
それと共に私は段々体温が上がってしまって顔が熱くなった。
今にも倒れそうな気分──…、いや、倒れます。


「 ──…ッ 」


「 えっ!?大丈夫ーッ!? 」


ドサッと音と立てて私が倒れて、私は温かいモノに包まれた。
いや、見てないから何かとはあまりハッキリいえないんだけど──…。
なんかまるで毛布に包まってるような…、そんな温かさだった。


これが私と彼との出会い。



◆ ◆ ◆



「 ──…ぶ? 」


またなんか微かに声が聞える。
今回は誰の声かはっきりと理解できた。


「 …あっ 」


目をパチリと開けると、そこにはあの人の姿が。
微笑んで私を見下ろし、トントンと身体をさすってくれていた。


「 わあぁっ、すみませ──…! 」


「 あははっ、いいよいいよ~。
   俺一人暮らしだからそんなの気にしないで~ 」


そういう問題じゃ…。


焦りを隠せず、重たい体もすぐに起き上がってしまう。
そして彼が笑顔で台所から運んできたのは擂った林檎だった。


「 ま、不器用だから上手くないけど… 」


そう言いながら小さなテーブルにコトッと置く。
ガラスのテーブルに映ったのは頬にガーゼをはった私の顔。
これもこの人がやってくれたんだ、と認識する。


「 すみません、本当に… 」


体を小さくさせながら呟く。
そんな私を見て彼はまた笑った。


「 いーって、俺は世話好きだからっ! 」


「 …ッ 」


さっきまで“僕”だった一人称が“俺”に変わってた──…。
なんだかそれだけで嬉しくて…ドキドキして鼓動が速くなってく。
まさかこれって…恋?いやいやそんなメルヘンなモンじゃないと思うんだけど──…


「 ほら、あーんして? 」


「 えええぇ…!? 」


突然スプーンいっぱいに乗せられた林檎を差し出される。
慌てて拒むが、彼は口を尖らせて言った。


「 だって君、打撲してたじゃん。
   そんな腕で食べれると思ってるの~? 」


「 そ、それは… 」


よくよく見ると両腕には包帯でぐるぐる巻きにされていた。
彼には申し訳なさでいっぱいだが、ここは甘えるしかないだろう。


「 あ、あーん… 」


パクッと一口食べて、口を手で押さえた。
彼は笑顔で「どう?」と感想を求める。


「 す、すごく美味しい…です… 」


恥かしすぎて味がしない。


「 そっか、じゃあもう一口! 」


「 えぇッ!? 」


そしてこれが何度も続いた。
今思えば弄ばれていたのかもしれない──…。



◆ ◆ ◆



あれから私は毎週彼の家に呼ばれるようになった。
事の始まりは私がお礼をしにいった時の事なんだが──。
説明するまでもない、私はただ彼の魅力に引き込まれてるだけだ。


今日もいつも通り、彼の家へ向かう。
片手には買い物ついでに買った小さなスナック菓子。
彼の冷蔵庫を覗いたとき、お酒が沢山だったからきっとつまみになるだろう。


そして何度きても慣れないインターホンを押す。
鼓動が速くなるのを必死に抑え、彼が出てくるのを待つ──…。


「 …ッ 」


ガチャッという音と共に出てきたのはボサボサでいつもと違う雰囲気の彼。


「 え? 」


思わず声に出てしまう。
すると彼は寝ぼけたように顔を「?」にして私を見下ろした。


「 あの…、来てよかったんですか? 」


「 …… 」


尋ねても返事が来ない。


180cmは軽く超えてる彼の迫力は恐ろしい程凄い。
160cmの私でも彼を見上げなきゃやってられないくらいだ。
そんな男が無言でしかも寝ぼけたような表情でたたれてたら怖いのなんの…


「 あの…
    ──…きゃッ! 」


悲鳴を上げたときにはもう遅かった。


「 ──…ンッ 」


唇は軽く奪われ、後頭部には彼の逞しい手。
包み込まれる両肩が私のか弱さを語った。



◆続く◆

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2014/02/23 21:08
続き楽しみにしてます!!!!!!!!!!
今度いつ、続きでますかあ?笑



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