Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


傍に居て 【 短編小説 】

傍に居て 【 短編小説 】



今日もコンクリートの壁にするりと伸びる長い影。
その影は軽々しく屋根の上へとのぼって行った。
そして冷たく光る月に向かって大きく鳴いた。


「 ニャー.... 」


それはまるで寂しさを歌うかのように....。
大空へと貫くその声は神の元へと届いた。


『 ──…あなた、力が欲しいんですか? 』


神の声が聞える。
それに私はゆっくりと大きく頷く。


『 …リスクは伴いますよ? 』


“承知だ”と言うかのように「ニャア」と鳴いた。
すると神はクスッと微笑み、言った。


『 ならば、与えます。
  ──…何があってもこの事を話さないと誓ってください。 』


「 ニャァ 」


それを条件として、私は神に力を与えてもらった。
これが猫の私が大好きな人に近づく物語の始まりである。



◆ ◆ ◆


力を貰った翌日、私は雨の中一人棒立ちしていた。
傘も何も持っていない。あるのは身に着けてるボロボロの服くらいだ。
こんな寒い思いにはなれてる。だって野良猫のときはこんなの序の口だったし....


それに、これであの人に会えるなら信望だ。


チクタクと時間は流れて行き、いつの間にか“いつもの時間”へとなった。
夕日が沈みかけ、少し薄暗くなった空....雨が降ってるため少し曇っている。


そんな中、私を見つけてくれたのはあの彼だった。


「 ──…あれ、君何してるの? 」


彼は真っ黒な傘を手にし、駆け足で私に近づく。
私は顔をパアッと明るくさせ、やっと叶った夢に舞い上がる。


「 ずぶ濡れじゃないか。
   さ、僕の傘の中に入って──… 」


ボーッと彼の横顔を見つめていると、不思議そうに彼は首を傾げた。
そして、「何?」と問われる。慌てて否定しながら傘の中に入る。
何年ぶりだろう....、こんなに鼓動が速くなったのは。


「 大丈夫?顔真っ赤だけど.... 」


「 だ、大丈夫...です.... 」


「 ──…ッ 」


私の声を聞くと、彼は何か閃いたような顔を見せた。
私の声に聞き覚えがあるのだろうか?....だとしたらすごく嬉しい。


だっていつも彼はここで私を優しく抱っこして温めてくれてたから──…。
その度必死に私は叫んだ。「大好き」って....。でも届かない。なぜなら猫だから....


でも今はアナタと通じ合えるのね、アナタと笑い合えるのね....。夢みたい。


「 君、家はどこ? 」


「 い、家....? 」


家はここにあるみかん箱なんだけど....そんなん言えるワケもない。
急いで言い訳を考える。だが考えているうちに彼が口火を切った。


「 僕ん家においで?
   ──…困ってるみたいだしさ。 」


「 い、いいんですか....!? 」


顔をまた明るくさせ、笑顔で尋ねる。
こんなんじゃ狙ってたって思われそうでヤだな...。


だがそんな気持ちをかき消すように彼は微笑み、頷いた。
そして改めて感じる──…。


ああ、この笑顔だ。
やっぱり私はこの笑顔が大好きだ....と。



◆ ◆ ◆


「 まあ、適当に座って? 」


「 わあ...綺麗なお家ですねー.... 」


見渡す限り、どこも汚いところがない。
玄関には花瓶が置かれ、そして写真が数枚立てられている。
その写真には彼と女性がピースサインで写っていた。


「 ......ッ 」


胸が痛い。


すると彼は写真を伏せ、言った。


「 彼女とかじゃないからね。 」


「 ──…え? 」


「 さ、ご飯食べようか? 」


そう言って逸らすように私をリビングへと連れて行った。
振り返れば、寂しげに伏せられた写真達──…。
その姿は彼の寂しさを語っているようでならなかった。


「 すぐ作るから 」


そう言って台所に立って冷蔵庫を探る。
それを後ろから頬杖を付き、見つめる私。


こんなボロボロの女を拾って迷惑してるんだろうなぁ、きっと。
それでもこんなに優しく微笑んでくれるのは....彼だからなのかもしれない。
これを気に沢山思いで作ってそして最後は───…


「 ほぉ~らっ、できた! 」


そう言って出てきたのは秋刀魚。
なんと言う偶然...、私の大好物の秋刀魚がご飯に....


「 ニャ....にゃんて美しい.... 」


「 “にゃんて”? 」


「 あぁっ....! 」


慌てて口を封じ、首を左右に振る。
彼は不思議そうに首を傾げ、私に箸を差し出した。
ペコッとお辞儀をし、箸を受け取り、一口パクリと放り込む。


その味はやっぱりあの頃と何も変わっていなかった。


「 おいひぃ~.... 」


噛み締めながら言った。
すると彼は私の笑顔を見て「ハハハッ」と笑った。その笑顔にまた見とれてしまう。
ポケーッと口に箸を咥えたままという行儀の悪い状態だ。


「 大丈夫?箸咥えたままで.... 」


「 え、あっ....大丈夫です──… 」


顔を赤らめたまま、慌てて箸を進める。
それを見て彼は優しく微笑みながらポツリと呟いた。


「 なんだか懐かしいね。 」


「 え....? 」


その台詞....どこかで....


思い出そうと苦しんでる中、彼は私の頬に突然触れた。
混乱して頭が真っ白の中、彼の優しい瞳は私を吸い込んでいく。


「 最近会えなくて寂しかったんだよ? 」


「 え?え? 」


最近って....私達初対面って言う設定でしょ?
だって彼は私が猫だったこと知らないはずだし──…


考えを巡らせている最中、目に入ったのは“秋刀魚”だった。
そしてふと猫だった頃を思い出す。


「 .....あ 」



◆ ◆ ◆


「 お腹空いてるの? 」


「 ニャァ~.... 」


「 そっか、じゃあこれやるよ! 」


そう言って差し出されたのは生の秋刀魚。
彼は人差し指を口元で立てながら言った。


「 実は母さんに頼まれてたお使いなんだけどさ....、
     君にあげる。その代わり、腹いっぱい喰うんだぞ? 」


そう言って微笑んだ。



◆ ◆ ◆


そうだ...私あの日あの時この人を好きになったんだ....。


「 やっと会えたね、“ミィーちゃん” 」


「 ──…ッ! 」


それはずっと彼が私を呼んでいたあだ名。
このあだ名が好きで周りの猫にずっと自慢してたっけ....。


急に涙がこみ上げる。そして優しく彼は包み込んでくれた。
耳元に掛かる吐息と共に彼は囁いた。


「 もうどこにも行くなよ? 」


必死に状況についていきながら、コクリと頷く。
優しく引き離し、額にキスを落とす彼。


そして笑って言った。


「 ったく、猫の日に現れるなんてなぁ 」


「 ニャッ....!? 」


カレンダーを見ると、2月22日と記されていた。
つい笑いが出てしまう。そして彼にまた抱き締められた。


「 神様って本当に居るんだな。 」


そう囁く彼の耳元で私はポツリと呟いた。


「 大好き...大好き.... 」


やっと伝える事ができたその言葉に彼も応えてくれた。
あの時と同じように私の頭を撫で、耳に髪を掛ける。


そして優しく唇にキスをしてくれた。


「 .....夢が叶った 」


話すと口元でそう囁いた。
その時の彼の笑顔は永遠に心に刻まれた。

アバター
2014/02/23 21:06
水奈月さん>>
知ってましたよ~w
ギリギリでしたけどwwww
アバター
2014/02/23 21:02
aichaさんも猫の日をご存知だったんですね!!



月別アーカイブ

2019

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.