Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


瞬き 【 前編/短編小説 】

瞬き 【 前編/短編小説 】



私は瞬きが嫌い。なぜなら、貴方の顔を一瞬でも見れなくなるから。
私は瞬きが嫌い。なぜなら、貴方との時間が一秒でも削れてしまうから。


....瞬きすれば貴方はいなくなってしまう。
....瞬きすれば貴方の手はすぐに解けてしまう。


もう少しだけ傍に居てよ...あと少しだけ...頬に触れていて。


◆ ◆ ◆


始まりは静まり返った教室。
夕日に染められ、放課後だから人気がまったくない。
そんな教室に忘れ物を取りに行った私が出会ったのは安らかに眠る君の寝顔....


「 綺麗... 」


つい口から零れた言葉。
それと共に彼は薄っすらと目を開けた。


「 きゃッ──…! 」


つい腰を抜かして扱けてしまった。
大きな音を立てて尻餅をついてしまう。
そんな私を見て彼はクスッと笑って私の顎を掴んだ。


「 な、なな... 」


口が上手く動かない。
すると彼は口を優しく開いた。


「 俺が寝てた事は言わないでねっ 」

「 ....へっ? 」


そう告げると、彼はゆっくり私を起こして教室を後にした。
彼の温かい吐息がまだ微かに残ってる。....インパクトありすぎだ。


「 ~~~ッ..... 」


何も言えず、ただその場に蹲る。
せっかく立たせてもらったのにこれじゃあ意味がない。


ただ忘れ物を取りに来たつもりが、人生を変える一瞬を過ごしていた私。
窓の外をチラリと見ると、彼が振り返ってニコッと微笑んでいた。
あれは私にだろうか?期待してもいいのかな....?


「 ....わかんないよ 」


また顔を伏せて、蹲る。
薄く開いた目には少量の涙が浮かんでいた。



◆ ◆ ◆


「 もぉー!また昨日サボったでしょ!? 」


翌日、静まってた教室とは一転し、少し騒がしい教室と化していた。
そんな中教室中を貫く甲高い声は隅っこにいる私の耳にも届いた。


「 急用だったからしゃあなくね? 」


少しふざけたように言うのは昨日の彼。
すると甲高い声の少女は頬を膨らましながら言った。


「 いっつもじゃん!いつも何してんの!? 」


腰に手を当てながら怒鳴る。


そして彼は


「 何って.... 」


と言いながら困り顔で教室中を見渡す。
するとバチッと私と目が合った。


嫌な予感はした。
段々と近づいてくる迫力に怖じ気づいてしまう。


「 ちょっと来て 」


そう小声で囁くと、私の腕を引っ張ってその女子の前へ立たせた。
そして威張るかのようにムスッとした顔で言った。


「 ごめん、コイツと居たわ 」


秘密にしろって言ったのバラしてよかったのかな....?


ふとそんな心配が過ぎる。
でもその心配は一瞬にして破られた。


「 へー?デート? 」


鋭く睨みながら上目遣いで尋ねる。
すると彼は大きく頷きながらニッと笑い、言った。


「 そーだよ、悪い? 」


「 ──.....ッ!? 」


突然すぎて否定の声も出なかった。
ただ口を押さえて一、二歩下がることしかできなかった。


するとその女子は眉をピクリと歪ませ、口をへの字に曲げた。
彼女もまた声が出なくなった一人のようだ。


そんな私達を置いていくかのように説明を始めた。


「 ま、バレちゃしゃあねぇよなぁ.....。
  実は昨日前々から約束してたデートでさぁ~、なあ、志穂? 」


「 な、なんで.... 」


なんで私の名前知ってるのっ.....!?


私の名を呼んだ彼を見て一気に目の色を変えた彼女。
「勝手にすれば!?」と声を荒げて教室を飛び出してしまった。


私の肩を抱く彼を突き放し、睨んで問う。


「 なんであんな嘘を...... 
    一回しか会ってないのに──…・ 」


「 その一回でなんかあったんでしょ?俺等 」


「 ──ッ!? 」


皆が見てる前でそう事を言った。
まるで私を嘲笑うかのようにも見えた。


許せない....。


パシッ....!!!!!


「 ──…ッ 
    .....何すんだよ 」


さっきの嘲笑ったような目から一転し、豹のような目に変わった。
でもそんなの怖くない。今は傷口を抉られた彼女のほうが心配だ。


「 彼女に謝ってきてください....! 」


きっと彼女彼の事が好きだったんだと思う。
じゃないと私をあんな目で睨んだりしない。


だが彼は「ハァ?」と言いながら私を睨むだけ。
叩かれた頬を優しく撫でるように触れ、そして私に近づく。


「 アンタさぁ....、どんだけヤバイことしたかわかってんの? 」


何が来ると思えば次は脅し。人間の風上にも置けない人だ。


「 知りませんよ。
   あなたこそヤバイ事したんじゃないですか? 」


私の言葉に教室中がざわめく。
だが耳を澄ませば彼の味方をする者ばかりだ。


なんでもあの消え去った彼女は嫌われてるみたいだ....。
ざわめく声を聞いて彼は余裕の表情に戻った。


「 ハハッ、俺の勝ちみたいだなァ 」


また馬鹿にしたような声。
この人には言っても無駄なのかもしれない。


「 もういいです、私が行きます。 」


そう言ってあの子の元へ走っていった。
そんな私の背中を見て彼は何か言ったが、なんていったのかは知らない。


「 ──…わざとだっつぅのに.... 」



◆ ◆ ◆


「 あの...、立花さん.... 」


さっきのざわめく声で覚えた彼女の苗字。
花壇で寂しそうに座る彼女の瞳には涙が浮かんでいた。


「 ──…アンタ、何しに来たの? 」


まあ、あの光景と言葉だけ聞いたらそりゃ恋敵と思われるよね。
彼女の鋭い瞳を理解しながら、隣に腰を下ろした。
彼女は数センチ横にずれたが、その行動も少しショックだが、理解できる。


そして私は優しく教えるように、顔を覗き込んで説明した。


「 あれはね、誤解なの.... 」


「 ──…何が?何が誤解なワケ? 」


「 えと...、あなたが思ってるようなことはしてないって事。 」


そう説明すると、彼女はキッと睨みを利かせて私を見た。
口は尖り、共に言葉は日本刀のように鋭い。


「 じゃあ蓮が言ってた事は何だったのッ....!? 」


「 えっ?そ、それは.... 」


私だってその答えを知りたいよ....。


「 ほら、答えられない 」


黙ってると、仕舞いにはこんな止めの言葉を刺された。
これには反論できない。口を尖らせ、悩んでいると彼女が口を開いた。


「 ──…でも、ありがとね 」


「 え.... 」


まさかお礼を言われるとは思ってなかった。
そして彼女は顔を赤らめながら説明し始めた。


「 その、なんていうかさ....私嫌われてるから
   追いかけてまで弁解されることなんてなかったから.... 」


「 ....立花さん 」


なんだか凄く嬉しくなった。


「 ──…あなたになら蓮あげてもいいわよ。 」


そう言い残し、優しく微笑んで立ち去った。
そんな彼女の背中は気高くて可憐で....高嶺の花って感じだった。
彼女の笑みを見て一つ思った。きっと彼女が嫌われてる理由は大半“嫉妬”だろうと。



◆ ◆ ◆


正直言って、あんな人興味ないしほしくない。
チャラいし、自信満々なとこがヤダ。


確かに夕日に染められた寝顔は良かったけどさ.......


「 ~~~ッ.... 」


一瞬でもときめいた自分が情けなくて仕方がなくなった。
そして校舎の外を覗く。グラウンドには楽しそうに友達と駆けるあの人。


「 ──ッ.... 」


また一瞬でもときめいた自分を責める。
そして見なかったことにするように窓を閉めて、再び歩いた。



まさかこの人が人生の中で一番大事な人になるとは思いもしてなかった。



◆続く◆




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