会いたい。 【 前編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/02/16 14:44:42
会いたい。 【 前編/短編小説 】
今、ガラリと窓を明けると風が私を包み込む。
共に私の微笑みが硝子に映る。そっと手をそこに当ててみる。
そして真っ白な頬に伝ったのは、たった一筋の涙でした。
──7年前
「 えぇ、翔君留学しちゃうのっ!? 」
大学の帰りによく通ってる小さなカフェで大声を上げる。
共に友達の恵美が口元で人差し指を立てる。
「 そ、三年だってさぁ 」
「 さ、三年.... 」
私が言った“翔君”とは稲垣翔の事で、中学校の頃から一緒に居た大事な人。
彼へ恋したのは中学一年生の頃....、初恋だった。でも気づいてもらえないし、
告白なんてもってのほか。翔君は皆に人気で、モテる人だったから遠い存在だった。
おかげで中学校ではまったく会話がない一方通行の恋だった。
でも高校同じになって、顔合わすようになって話すようになってって....。
一時も忘れたことのない恋心はまた熱くなって、燃え上がって....
そして気づけば大学も一緒で、大学でもよくしてもらってたんだけど....。
でも、やっぱり平凡な私と格差は大幅にできてしまっていた。
やっと距離縮めれたのにまさか引っ越してしまうだなんて....。
「 ちょっと、美菜聞いてるの? 」
ボーッと様々な想いを巡らせていると、恵美が不安げな顔で尋ねる。
眉を歪め、小さく首を傾げながらストローを咥える。
「 で?どうすんの? 」
「 え? 」
ストレートな質問。「何が」と聞かなくても何かわかった。
でも....、聞きたくなかった。翔君が居なくなる事で決意したくなかった。
「 ....ま、ゆっくり考えな 」
そう言ってお会計を済ましにいってくれた。
いつも恵美にはお世話になってて、申し訳ないな....。
中学校時代から私の気持ちを知ってるのは、唯一恵美だけ。信じれるのも恵美だけ。
だから──、恵美にはずっと負担や心配を掛け続けてしまってる。
いくら自分が受け入れたくないからって、このまま目を逸らすのはどうなんだろう。
お会計を持っていく恵美の背中を見つめながらふとそんな事を思った。
「 はぁ... 」
アイスコーヒーの氷が溶けるのを見つめながら、ため息を零す。
ガラスが溜息で曇る。それはまるで私の心境を映し出してるように思えた。
冷たく光る月の下を俯きながら歩く夜。
すると後ろから呼び声が聞えた。
ゆっくり振り返ると、そこには翔君が息を切らして立っていた。
「 しょ、翔君... どうしたの? 」
尋ねると、翔君は突然私を抱き締めた。
荒い息遣いが私の耳を擽る。
「 ちょ、どうしたの...? 」
戸惑う私を置いて行くように彼は言葉を連ねた。
「 実は...、お前に言いたいことがあるんだ 」
「 え...? 」
抱き締められたまま言葉に耳を傾ける。
彼の吐息が首に掛かるたび、鼓動が早くなるのが分かる。
それでも私は抵抗できない。いや、むしろこの状況を誰よりも舞い上がってるだろう。
「 俺引っ越すんだ...アメリカに 」
「 う、うん... 」
やっぱり本当なんだね...、あの話。
恵美の聞き間違えであってほしかったのに....。
「 それでお前に言いたい事があって.... 」
相槌を打つのをやめ、彼の言葉だけに集中する。
そして、数秒間の沈黙を抜け、彼の吐息が首に掛かると共に言葉が連なる。
「 俺...お前が好きだったんだ
中学生の頃からずっとずっと....大好きだった 」
「 えっ... 」
突然の事で頭がついていかない。
引っ越すってのは知ってたけど翔君の気持ちだなんて....
「 だから...、その、俺が帰ってくるまで待ってて欲しい
一緒に行けとは...さすがに...言えないからな 」
その言葉が彼の優しさを語っている。
大丈夫、何年も片思いしてたんだもん。三年くらい....待てるよ。
「 うん...わ、私も翔君が好き....だし.... 」
「 マジか!?本気!? 」
「 へ、う、うん.... 」
「 よっしゃああ!絶対幸せにするからな! 」
「 きゃぁっ....! 」
彼の抱き締める力はまた一段と強くなる。
そして優しく口づけを交わす。
彼の吐息が全身に流れ込み、温もりで包まれる。
優しさに溢れてるということは言うまでもないだろう....。
──3年後。
「 翔くーんっ! 」
「 美菜! 」
長い長い年月を経て、大事な人と再会できた。
再会を喜ぶように手を絡めさせ、一筋の涙を流す。
伝う頬を大きな手で救う彼の手に靠れ掛かるように首を傾ける。
「 やっと会えたね... 」
そう言って、微笑む。
その微笑は温もりと感動を語っていた。
そして、約束してた同棲を始める。
まるで夫婦のように過ごす。
離れてた寂しさを埋めるように愛し合った。精一杯....愛し合った。
むしろ、愛しすぎたのかもしれない。
愛しすぎて愛というモノの価値が見失ってしまったのかも...しれない。
──2年後
「 翔く~んっ、今日のご飯何がいいっ? 」
首を小さく傾げながらリビングに居る彼に語りかける。
だが無言....。コーヒーを啜りながらずっとスマホをいじり続けている。
そういえば最近スマホを弄ることが多くなったような気がする。.....まさか....浮気?
「 しょ、翔君.... 」
「 ん、あ、何? 」
さっきの私の声にはどうやら気づいていなかったらしい。
しっかりと返事してるくせに、スマホからは一切目を離そうとしない。
こんなんじゃあ私達駄目になってしまう。そう思い、スマホを取り上げる。
「 な、何すんだよー..... 」
「 私の話聞いてよ!最近翔君....スマホばっかで 」
「 大事な仕事の用があるんだよ、しょうがねぇだろっ? 」
そう言って私の右手にあるスマホを取り上げた。
そして何事もなかったかのようにコーヒーを啜り、親指を動かし始めた。
私の寂しさを表すかのようにカーテンがふわりと揺れる。
切なさを隠せず、窓の隙間を閉じて目を瞑る。
今思えばこの時私は目を逸らしてたのかもしれない....。
彼の薄れて行く気持ちが目に見えるのを....見えないようにするように....。
共にカーテンを閉じる。それはまるで目の前の闇を伏せるようにも思えた。
「 じゃあ、買い物行ってくる...ね 」
「 ...... 」
私の声だって聞けないくらい...夢中になってるんだね。
スマホの向こう側にいる小さな写真の切り抜きしか見えないあの子に....。
あんな小さな画像の写真でしか顔見れなくて、会話だって本当のあの子か分からない。
なのにどうして....5年も一緒に居る私は見てくれないの....?5年も愛し合った私はどうして...
貴方の一番になれないの....?画面の向こう側のあの子が貴方の一番なの....?
取り上げたときの一瞬で見えたあの子の表情は私より輝いてた?
私よりあの子のほうが貴方を大事にするの?守るの?ご飯作ってくれるの?
.....わかんないよ。
その気持ちをかき消すように家を飛び出し、スーパーに向かう。
家にはあの子に微笑む翔君を残して。
続く。
続きとても気になります・・・!!