~争いの無い世界~*里の地上の星の過去Ⅵ*
- カテゴリ:自作小説
- 2014/02/11 23:50:28
目を固く瞑っていると、ザシュッと言う音が響き渡った。
恐る恐る目を開けると、先ほどの魔物は上下真っ二つに切られ、倒れていた。
そして影になり、消えてしまった。
――…呆気ないなぁ…
剣についた液を払うように、少女はブンと振った。
それから消えた魔物が元居た場所を、じっと見つめている。
あの人には…何か見えているの?
――藤堂さ―…
…藤堂さん?あの人が?
塑羅さんは藤堂さんの名前を呼び、駆け寄った。
すると、急に藤堂さんは振り向き、剣を構えて塑羅さんの方へ飛んだ。
塑羅さんは驚いて目を瞑っている。
私も、「危ない」と叫ぼうとした。
すると、ギィンと音がした。鉛同士、ぶつけた様な音。
藤堂さんの剣の向こうを見れば、さっき影となり消えたはずの魔物が居た。
鎌を、塑羅さんに向けて振りおろした寸前で、藤堂さんは剣を引っかけて守ったのだ。
それから、剣を横に払いのけ、弾く。
しかし、ひらりとかわし、魔物は塑羅さんの前に出る。
また振り向いて、藤堂さんは剣を横に振る。―――が、またかわされる。
――なんなの、あいつは…
そう小さく舌打ちしながら呟いたのが聞こえた。
それから、ゆっくり息を吸ってゆっくり吐く。
深呼吸をすると、剣を相手に突きつけるような構えをとった。
少し間を置き、藤堂さんはその構えのまま走り出す。
しかし、それでも避けられてしまう。
だが、藤堂さんはすぐに振り向き、構えを変えた。
今度は剣を横に構えている。
後ろの方で構え、再び走り出す。
魔物の近くまで来ると、少し身を屈めて横に剣を振った。
魔物は、また避けようとしたが踏み場が悪かったのか、よろけ、簡単に斬られた。
それも、先ほど倒した魔物のように上下真っ二つに。
藤堂さんは警戒し続ける。
剣先を魔物の方に向けているが、切られた魔物はピクリとも動かなかった。
それを確認すると、剣先を下ろす。
――案外簡単に斬れるとは…偽物【ダミー】程じゃなかったけど…
藤堂さんが睨むように魔物を見続ける中、私は塑羅さんの方へ駆け寄った。
それから私達の方へ向き、近寄る。
――ねえ、武器とか持ってない訳?
――…?
――武器よ武器。ほら、これみたいにさ
「ほら、」と言うところで自分の剣を前に出し、見せながら問う。
塑羅さんは腰に付けていた白いガンホルダーから二丁拳銃を、私は両手の間に小さな火を作り、私の武器をイメージし、小さく詠唱して杖を作る。
…杖。
今手にしているこの杖こそが私の武器。
私も実際持つ事は初めてで、今まではイメージの中とか、そんな感じだった。
――ふーん、それが貴方達の武器…か
藤堂さんは、塑羅さんと私の武器を見てそう言った。
――私達は、三、四年前に自分の武器を持つ様に言われたの。けど実戦とかしたことないし、戦い方もまだ教わってなくて…
――成程ね。だから魔物は魔力を持つ、武器は持っているが扱えない二人を狙う訳か。
塑羅さんの説明に、藤堂さんはそう返した。
私達は魔力を持っていて、しかし武器が扱えない、だから魔物が来ると言う事?
さっきのような…と思いながら魔物の方をチラッと見た。
ああいうものが、襲ってくるのかと思うと身震いが止まらない。
屋上まで逃げてきたときは、走りすぎたというのもあったけど、足が竦んで中々動けなかった。
もしも私達が戦えるようになった時、実際に魔物を倒すことができるのだろうか?
私はただ、不安に駆られる一方だった。
そんな呑気に会話する時間はずっと続く訳ではなくて。
藤堂さんのその向こうに居る方からメキメキと何やら不気味な音がし始めたのだ。
その音に、藤堂さんが振り向くと、斬られて動かなくなったはずの魔物から数本蔓が伸びている。
倒したはずじゃ…なかったの?
――二人とも下がって!
藤堂さんは剣を構えてそう言った。
私が魔物の方に気を取られていると、塑羅さんに腕を引っ張られて屋上の入り口まで走る。
魔物から伸びた蔓は成長を止めず、まだメキメキと音を鳴らしながらも伸び続ける。
藤堂さんに近寄る蔓は剣で斬られるが、斬った断面からまた別の蔓が数本伸びる。
…気持ち悪くて、仕方がなかった。
――焼き払うか…
そう呟くのが聞こえた。
持っていた剣を足元に刺し、それにより詠唱もせずに壁が徐々に作られていく。
壁が作られている中、藤堂さんは地面に魔法陣を描いて自分の血を垂らしていた。
血が魔法陣に落ちた瞬間、青白い光が魔法陣の周りを駆ける。
やがて、その光が忽ち赤い炎へと変わる。
――゛蔓の根まで全て燃やしつくせ!゛
藤堂さんは詠唱すると、反応し、炎が左右へ飛び燃やし始める。
が、ぐりっと炎がついた蔓を地面に擦りつけるように、消されてしまい、「今度はこっちの番だ」とでも言うように蔓は藤堂さんの前に作られた壁を壊す。
――しまっ…!
咄嗟に剣を抜きとり蔓を斬ろう――という寸前で、足や首に蔓が巻きつかれてしまった。
――くっ…!
簡単に持ち上げられてしまい、藤堂さんはもがき苦しんでいる。
…どうしよう、早く何とかしないと窒息して死んでしまう!
今居るこの位置でも、とても苦しそうなのが感じ取れた。
――…や…嫌…嫌…まだ…まだ死にたくない…!!
顔を青くさせ、藤堂さんはそう叫んだ。
塑羅さんは銃を構えて撃ち出す。――が、掠った程度であまり効果はなかった。
私も何かしなきゃと思った。
助けられなかった月夜の分も、一人でも多く私が助けなきゃとあの日教会で誓った。
例え私の力が必要ないとしても、役に立たなかったとしても。
常にその気持ちで居る事が大切、と思う。
一度塑羅さんの付き添いで図書室へ行った時。
そこで見つけた一冊の本に書かれた呪文。
上手く出来るか分からないけど、私は杖を構えてあの本通りに詠唱する。
――お願い、当たって――!
心の底から絞り出した声でそう叫んで杖を掲げた。
すると、その言葉に従うかのように、大きな火の玉が出、蔓にぶつかった。
藤堂さんを持ちあげていた蔓はその火の玉により焼かれ、灰となって消えた。
藤堂さんは、火の玉が当たる寸前で足がぶらんと下がっていて、そのまま蔓が灰となってしまったのでそのまま落ちてしまう。
「あ…」と私が声を出したころには、塑羅さんが飛びだし、受け止める。
それから、安全な場所へ走り、ゆっくりと下ろしてまだ伸び続ける蔓の方へ振り向いた。
――…やりましょう。私達だけでも…
――…はい
私と塑羅さんは、武器を構えて対峙した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~続く
はい、Ⅵです。
え、ちょ、今回長くね((
…まぁいいや_(:3」∠)_