恋の芽が出る頃に 【 十六章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/02/01 21:48:42
第十六章 『 曖昧な関係 』
まだ捕まれたあの時の感触が抜けない。
捕まれた腕を再度触れる度、また顔が赤くなる。
こんな状態はいつまで続くのだろうか....、先が思いやられる。
また頭がお花畑のまま、朝を迎える。
昨日は結局学校行かず仕舞いだし、おまけに記憶も曖昧だ。
いくら思いだそうとしても、坂谷君が迎えに来てくれた事くらいまでだ。
少しずつ記憶を蘇らせながら、支度を始める。
少しシワの寄った制服、両サイドにハネた髪の毛。飛び出した前髪。
今日は酷い顔だな....。
そう心の中で呟き、髪を掻き毟る。そして溜息を零した。
「 行って来まぁす.... 」
今にも消えそうな声でそう呟く。
リビングでコーヒーを飲みながら優雅に過ごしている母には聞えるはずもない。
鞄の取っ手を握り締めながらローファーの音を鳴らす。
いつもの通学路のはずが、なんだか今日は寂しい。
空は鉛り色で、気候は春と言うのに温かい風は感じられない。
「 あ、オーイッ! 」
「 ......? 」
突然呼び止められた。振り返るとそこに立っていたのは坂谷君だった。
満面の笑みで手を振り、こちらに駆け寄ってくる。
そしてふと思い出す....、あの事を.....。
「 大丈夫...、ってアレ?今野顔赤くね? 」
「 へっ....!? 」
赤面が収まらない。頭では分かってるけど、体が言う事を聞かない。
必死に両手で隠しながら、笑顔を作る。
「 な、何でもない!
.....そ、そんな事より、どうかした? 」
「 ああ、昨日しんどそうだったからさぁ....
ずっとアレから心配だったんだよ 大丈夫か? 」
「 だ、大丈夫!ありがとう.... 」
「 そっか 」
すると彼は安心したかのようにニコッと微笑んでみせた。
彼の笑顔から溢れる優しさがまた私を包み込む。
彼の優しさに動揺を隠せない私は、つい目を泳がせてしまう──.....。
「 大丈夫か? 」
「 う、うん.... 平気.... 」
「 なんかあったら言えよ?
.....いつでも看病してやるからさ 」
「 へっ? 」
そう言い終わった彼の顔は激しく動揺し、なぜか赤面している。
「 じゃ、じゃあ学校行くか 」
「 うっ....うん.... 」
その後は何事もなかったかのように話し始めたが、私には分かる。
.....彼は少し動揺している。どんな風にって言われると困るけど...でも分かる。
彼は私に何か隠している....。
学校に到着し、彼と共に教室に入る。
すると、突然教室が騒ぎ始めた。
「 嘘っ....、二人って.... 」
「 やだぁ、坂谷君.... 」
教室中が重い空気に包まれ、そして左右見渡せばイタイ視線が。
嫌な予感の波が襲い、気づいた頃にはもう遅かった。
「 夏芽ちゃん.... 」
「 美由っ...! 」
絶望したかのように呆然と立ち竦む。
そして一言こう呟いた。
「 信じられない.... 」
「 っ....! 」
これが高校生活....、最後に私に浴びせられた美由の言葉だった。
え....
最後って...え...?!