補習の秘密 【 後編/短編小説 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/30 21:51:58
補習の秘密 【 後編/短編小説 】
「 何が目的なの....? 」
静まる教室で鳴り響いた私の声...。
その声は先生の耳を嫌という程貫いたはずだ──。
だが、彼は何食わぬ顔で私を見て、ニコッと微笑みを見せる。
ますます分からなくなってきた....。
「 君って...、何か悩んでるの? 」
「 は....? 」
唐突な質問で目を思わず丸くする。....でも、その質問は間違ってなかった。
....というより、自分の中で答えが「YES」だったから余計驚いた。
まさか悩みがあるとこんな関わりのない先生に見破られてたとは....。
「 やっぱあるんだ... 」
少し黙り込んでいると、独り言のようにそう呟く。
慌てて首を左右に振って否定したが、さっきの態度を見せてしまえばバレる。
「 まぁ...あまり関わりのない僕には言えないかもしれないけどさ.... 」
そう一旦区切って、笑顔でこう続けた。
「 いつでもここで聞いてやるよ “補習”って言えばバレないだろ? 」
「 ....! 」
今まで見た事もないとても優しい笑顔だった...。
不覚ながら、普通にドキッとしてしまった自分が居る。
一瞬...、本当に一瞬だけど、彼がどうしてモテるのか理解できた気がする。
「 じゃ、話せるときまた来て? 」
そう言って今日はお開きにした。
大嫌いな先生だったはずなのに何故だろう...、今すごく帰りたくない。
先生の背中を見つめながら、そう心で呟く。でも、その声は届かない。
一人歩く帰り道、重い重い足は真っ直ぐな道を辿っていく。寄り道せずしっかりと帰った。
「 ただいま~、お母さん帰ったよっ 」
ボロアパートに母と二人で暮らしている私...。
重い扉を開くと、隙間から漂うアルコール臭とそして男の香水のニオイ。
また男連れ込んでいたんだ...、と玄関ですぐに分かる。
母が幸せなのはいい事なのだろう。
だが娘として、複雑な心境には変わりなかった。
「 ....お母さん 」
出迎えもないままリビングに向かうとそこには寝そべった母の姿が。
空の缶ビールや、おつまみのゴミ、全てが散乱している。
そして母から漂う香水の甘ったるい香り。もうここまで来たら母に見えなくなってくる。
「 はぁ.... 」
溜息を零しながら、片付けを始める。
すると透明なビニール袋に起き上がる母が映った。
「 お母さんっ... 」
振り返ると、私の腕を掴みながら睨む母の姿。
そして....こう言った。
「 アンタが隆二を奪ったのね.... 」
「 へ? 」
何の話か分からなかった。母の口から出た“隆二”も分からない....。
私はポカンと口を開き、袋を持った手がガタガタと震え始める。
「 ふざけんじゃないわよ! 」
「 きゃっ.... 」
パシンッ!という音が部屋に鳴り響く。
テレビの音さえもしない、真っ暗な部屋で母の荒げた姿だけが映る。
「 アンタなんか出て行きなさい! 」
「 お母さ....「 出て行きなさいっ!!!! 」
言葉を被せられ、罵声を浴びせられる。
耐えられなくなった私は慌てて家を飛び出した──....。
真っ暗な道をどんどん越えていく。
そして辿りついたのは人気のない海だった....。
「 なんで私なの.... 」
母と二人暮らししてから初めて口にでた弱音。
昔は父と妹が一緒だったのに、二人とも母に愛想を付かして出て行ったしまった。
最後に妹に浴びせられた言葉は、「アンタもあの女と同類ね」だった。
父は私を健気でそして哀れな目で見つめる。眉を歪めた困り顔が今でも消えない。
アレから妹とも連絡を取らなくなったし、電話しても出ない。
仕舞いには、電話番号を変えられ、今では連絡手段さえも失われた。
私はただ、妹を信じて毎日携帯を肌身離さず持っている。.....今でも信じてる。
父との連絡は取れるし、週末は頻繁に会ってた。でもそれもバレて今はもうできない。
私の私生活は全て拘束されてるといっても過言じゃない。
「 会いたいよ...お父さん、美沙 」
妹と父の名前を呟き、本音を海に投げ捨てた。
二度と母の前で口にしないように...誰にも聞かせないように....。
「 ああああああぁっ....! 」
まるで自分を解き放つかのように、崩れ落ちていく。
膝が砂浜に落ちた瞬間、肩に温かいモノを感じた。
「 ......? 」
振り返ると、そこには宮本先生が立っていた。
「 せ、先生....なんで.... 」
「 どうしたんだよ 」
そう呟き、私の隣に腰を落とした。
首を小さく傾げながら、彼の瞳を見つめる。
「 何があった? 」
「 ....先生 」
詰まりながら必死に事情を説明する。無理矢理言葉を重ねていく。
すると先生は突然塞ぎ込み、頭を掻き毟った。
「 ごめんな、村山.... もう少し早く気づいてやればっ.... 」
悔やむ言葉、詰まる声。先生のその言葉で十分だった。
思わず笑みが零れる。
「 ありがとう、先生...それだけで十分 」
「 無理するな... 」
優しい瞳で私を吸い込みながら、頬を優しく撫でる。
彼の大きな手は顔全体を包み込んでくれた。
「 俺に何ができる...? 」
眉を歪め、まるで小さな子犬を見るような目で私を見つめる。
この人なら信じてもいいだろう....この人なら....
「 私に....優しさを....愛をください.... 」
彼の熱い手は次第に温もりを増し、優しい瞳はどんどん近づいてくる。
彼の吐息が唇に浴びせられ、そして唇と唇が重ね合った。
体は温もりで包まれ、全身に先生の温度が流れ込む。
だが、先生との恋だなんてしちゃ駄目なこと....。
「 隠れて会わなくちゃならねぇな... 」
「 大丈夫だよ 」
「 え? 」
先生の不思議そうな表情に微笑みを浴びせ、言った。
「 補習があるじゃんっ 」
「 .....悪い子だなっ 」
そう言いつつもニヤリと微笑んだ先生。
その日以来私達のデートは補習の時間になった。
これは...そう。私達だけの補習の秘密なのだ。
END
....ぶわっ´;ω;`)