レジェ朧の回想【サークル/言霊のロンド】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/30 15:13:40
# - 幼馴染と**の正体
――イラナイ子
蒼でも紫でもない、中途半端な子
どうして貴女はそんなに愚図なの?
――*ねばいいのに
***
やや重たげな雪雲が今日も飽きもせずにこんこんと白い粉を撒き散らしている。
冷たい銀世界は、優しくもなんともない。
ベッドの上、差し込んだ陽の光は白く濁っていて、暖炉で焚かれた火が、窓ガラスを曇らせた。
思い出していた。
昔のこと、少しだけ。
埋もれていた記憶が、朧げな夢のように顔を出した瞬間。
妹なんてものが現れて、その面影に、見たような気がした。
私を捨てた母親を。
四人家族だった。
父親と母親がどっちの人間だったのか、覚えていない。
顔も声も、わからない。
ただ、振り翳された手を、思い出した。
何度も、何度も、何度も、私を叩きつける、手。
それを誰かが庇う。
一緒になって殴られる。
そのうち二人共血塗れになって、殴る手は、蹴る足に変わった。
何も反応を示さなくなると、離れていく。
血塗れの子供が二人、ぼろ雑巾のように道端に捨てられた。
そのくせ、時間が経つと母親は私たちを迎えに来た。
好きなだけ甘やかすのだ。
頭を撫で、抱きしめ、ごめんねと泣いた。**してると言ってくれた。
だから、私も泣いた。
私は、母が〝***〟だった。
それは歪んだ母子の関係だった。
隣を見ると、血塗れの顔があった。
弱々しく微笑むのだ。
守らないと、と思った。
――髪を梳く優しい手。
私を殴る怖い手。
どっちも、〝***〟。
今にして思えば、母親は、蒼海の子を産みたかったんだろう。
なら、何故目が紫色になったのか。
よく、わからない。
父親のせい?母親のせい?
どちらにしろ、混ざり合った血は出来損ないを産み落とした母親、その人に捨てられた。
憎いと思ったことは無かった。
憎いと思うことさえ、無いほどに。
私は、あの人の顔を覚えていなかった。
世の中なんて、みんなこうなんだと思った。
あの狭い鳥籠が、世界の全て。
傍で一緒になって血塗れになっている誰か以外、私を支えてくれる人は居ない。
だから、サユ梨やスイ蓮と初めて会った時、感じたのだ。
これが、他人の発する温もりなのかと。
それに縋りたいと思った。
どうすれば他人を**になれるのかわからない私にとって、**表現は手段でしかない。
伝えたかった。
傍に居てくれてありがとう、***だよ、と。
言葉だけじゃ、いつも足らない。
じゃあ、手を挙げようか。
簡単だ。
殴れば良いのだ。
散々傷つけたあと、泣いて謝って、**だと言う。
だって、こっちを見てくれないのが悪いんだ。
そうでしょう?
他人を傷つけるのは怖い。
でもその分離れていくのがどうしようもなく怖かった。
〝**〟という感情に気付いたのは、サユ梨が自分の怪我を心配してくれた時。
私は間抜けだから、いつも些細な段差で転んだりする。
でも今回ばかりは打ちどころが悪くて盛大に膝を擦りむいた。
痛い。
涙が出るほど痛いのに、〝あれ〟に比べたら、そうでもないような気がした。
どうしたの、大丈夫、と向けられる優しさ。
凶器のように胸を抉った。
これが、他人の**?
心配してくれる、優しい手。
優しくしてくれる=**。
一瞬で公式は成り立った。
私の求めていたものは、これだったんだ。
その時、もしも手を差し伸べてくれたのがサユ梨でなくスイ蓮だったなら。
私は間違いなく、スイ蓮を**していた。
それが**だから。
「……………**」
狭いベッドで寝返りを打つ。
自分の蜂蜜のように甘ったるい、耳障りな声が呟いた。
長い髪が頬にかかる。
どうして、こんなことになったんだっけ。
私が、悪いんだっけ。
私が、何をしたんだっけ。
**が欲しい。
自分だけに向けられる、自分だけに注がれる**が。
どうしようもなく憎い。
自分が、大嫌い。
嗚呼。
私をこんなにしたお母さん。
***なお母さん。
――また、逢いたいな。
*****
回想だけな。
つsimeji