恋の芽が出る頃に 【 十四章 】
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/22 15:51:43
第十四章 『 恋の芽 』
試合も終了し、部室内で先輩に囲まれながら着替える。
汗だくになった瑠衣の隣で私は一人、暗い表情を浮かべている。
そんな私に気づいた瑠衣は溜息を零し、呆れた顔で私を見つめて言った。
「 まだ美由と喧嘩中? 」
そんな瑠衣の顔を見て情けなくなった私は、
体を少し竦めながら頷く。それを見て瑠衣はまた溜息を零す。
「 たまには忘れたらっ?試合だって真面目にしてなかったでしょっ? 」
バスケ一本で生きてきた瑠衣にとっては許せぬ行為....。
怒るのも無理はないし、怒らしてる自分が情けなくて仕方がない。
すると、部室内に着信音が突然鳴り響いた。
スマホを覗くと、そこには彼の名前が載せられていた。
少しオドオドしながら電話に出る。
「 ....も、もしもし 」
私の震えた声は彼にも届いたらしく、彼の声のトーンが変わる。
『 大丈夫? 震えてるけど... 』
まるで小さな子猫に語りかけるかのような言い方だ。
そんな声にまた恥かしくなり、赤面させながら部室から出る。
「 ど、どうしたの? 」
彼の置き去りにされたタオルを握り締めながら、声を出す。
そして彼は少し困ったような篭った声で言った。
『 実は今日礼太用事があるって.... 』
「 えっ.... 」
スマホ越しに聞える彼の気まずそうな声。
私はそれに必死に動揺を隠す。
そして篭った声で彼は続ける。
『 急用らしい... ごめんな、今野 』
「 うっ、ううん!大丈夫! 」
必死に彼の心配を抑え、電話を切る。
でも実は...、実は凄くショックだったりしてる。
坂谷君のあの言葉とそして説得が唯一の鍵だったから───....。
「 夏芽~?大丈夫? 」
ドアの開く音と共に飛び出す瑠衣の顔。
振り返り、私は笑顔で大丈夫と返す。
本当の事はまだ....きっと誰にもいえない。.....きっと。
一人歩く帰り道。瑠衣の彼氏と帰る満面な笑みが思い浮かぶ。
それと同時に浮かぶのは何故か坂谷君の笑顔。そしてバックに仕舞い込んだタオル。
あの時電話で言えばよかったものの、なぜか言い出せずに居た。
ただただ言えなかっただけなのか、自分にやらしい心があるのか.....
考えるだけで疲れる。結論はでないだろう。
美由の件も....結論は出ないのかもなぁ....。
「 はあああ.... 」
薄暗い部活帰りの道で一人、長い溜息を零す。
そんな暗い心は誰にも気づかれる事はなかった───。
───翌日。
いつも通り目覚め、着替えて支度。
何も変わらない朝だと言うのに、自分の心は曇ってる。
あの頃とはまったく違う....、心が晴れてた自分はどこへ行ったんだろう。
しっかりしなくてはならないのに、しっかりできない。
わかってるのに、心の雲を晴らすことはできない。
そんな自分が情けなくて、惨めで辛くなってしまう......。
「 夏芽~、お客様よ 」
「 あ、はーい 」
こんな朝っぱらからお客さん....?誰だろう。
そんな疑問を抱えながら玄関に向かう。するとそこには信じられない人が立っていた。
「 さ、坂谷く.....! 」
声も出ない。最後まで名前を呼ぶことさえできない。
何故か知らないが笑顔で坂谷君が立ってるのだから、当たり前だ。
だが坂谷君は構わず、片手を挙げて「ヤッ」と挨拶してる。
まだ寝ぼけてるのかと思って何度も目を擦るが、やはり彼の姿は消えない。
「 本物...だぁ.... 」
「 そりゃそーでしょっ 」
ハハッとまたからかうかのように笑う。
そんな彼にドキドキが止まらないまま、彼と家を出る。
そして気がかりだったタオルを渡した。
「 あの.... 」
「 ああ、サンキュー 」
受け取った彼はタオルの匂いを嗅いで目を丸くした。
「 洗剤何使ってんの....? 」
「 えぇと... あのCMでよくやってるやつ.... 」
「 え!あれ!?あれいいんだー.... 俺も使おっかなぁ~ 」
「 え! 」
また赤面してしまう。自分と同じ洗剤を使う....つまり、同じ匂いに....
って私何考えてるんだろう。考えを改めなくちゃ....。
一人で考え、一人で落ち込む。
すると彼が不思議そうに私の顔を覗き込む。
「 どした? 」
「 ひゃっ... 」
その時の顔がとてつもなく近くてドキドキが止まらない。
もう少しで手と手が触れあいそうだったし....。
「 大丈夫?顔色悪いよ... 」
彼の言葉が終わると共に私の視界は闇へと化した。
その後、私はどうなったのか分からない....。
「 こ、今野....?大丈夫か? オイ ....ったく 」
少しだけ意識が戻った...。でもまだ目を開くことができない...。
頭が痛くて、体もだるいし....。なんだか寒気もするし.....
──ガチャッ
ドアの開く音...、誰か入って来たって事は部屋かどこかか。
え、待って、記憶がハッキリしない....。あの時私は確か....えぇとえぇと....
駄目だ、またしんどくなってきた....また意識失いそう。
「 今野、薬飲め 」
坂谷君の声...聞えたような...。
駄目だ、今は意識がハッキリしなくて───......
「 .......世話が掛かるな 」
迷惑掛けてる...早くおきあがなきゃいけないのに...体が言う事利かない。
ごめんなさい....えぇと、たぶん、坂谷君だよね....。一番迷惑掛けたくない人...なのに...
ごめん、なさい.....ごめんなさ....
「「 ゴクッ.... 」」
───えっ?
なんか今口に温かい感触が....あったような。
ていうかなんだか段々体が楽になってく....薬...飲んだ感じ。
駄目だ、これ以上頭回せない.....
「 ウッ..... 」
私は再び意識を失った。
「 ....よかった、意識戻ってたらバレるとこだった 」
私は夢の中で坂谷君が出てきた。
笑顔で私を看病してくれている.....坂谷君が。
続く
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最高じゃないですか、坂谷君。
続き気になります!
キスキス???
口移しーーーー笑